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人に好かれようとするな

「ちょっと前に、水害対策で俺達はちょっと無理しすぎたことがあったろ?」


「ああ。父ちゃんたちに諭されたよな。ちょっとショック感じたぜ」


「そうですね。いいことをしたのに、逆に責められるなんて」


「なあ、ジャイニーとスキニー。俺もあれ以来考えたんだが、俺達って他人に親切にするようなタイプじゃないよな」


「だな。自分で言うのも何だが、嫌われもんの悪ガキだからな」


「そうそう」


「よく言った、ジャイニー。嫌われもんの悪ガキ。所詮、俺達の自画像ってその程度のもんだ。だが、この路線を続けるとヤバいということで、俺達は変わろうとした。その結果がこれだ」


「うーん、変わりすぎたということですかね」


「スキニー、そういうこともあるが、好かれようとする、そういう気持ちに俺達は縛られているんだ」


「あー、確かに。オレたち善人ヅラするのはなんだか面映ゆいよな」


「その通りさ。どうせ俺達は嫌われもんの悪ガキだ。他人の顔色を伺うのは俺たちの流儀じゃない」


「でも、変化は必要でしょう?」


「うーん、そこなんだよな」


 整理してみよう。

 女神様の要求は。

 女神教会をもり立てて欲しい。

 そのために力を授かった。

 よし、これで俺つぇぇだ。

 ところが、強くなりすぎると魔王になると言われた。


 ここだ。

 俺が逡巡するのは。


 火あぶりにせよ、魔王になるにせよ、勇者が出てくる。

 そして一揆かそれ相応の武力でもって俺達は死ぬ運命にある?


 だいたい、俺は一度死んでるらしい。

 らしい、というのはその実感がないからだ。

 気がついたらこっちに転生していた。


 だが、死が身近にあったことは間違いないだろう。

 前世では二十八歳。

 そして、今世では二十歳?

 俺の寿命だ。

 もう死にたくない。

 それは当たり前の感情じゃないか?


 なのに、俺は高い確率で二度目の死が待っている。

 そりゃ、気持ちがネグれるだろう。



 だが、ここでちょっと踏ん張ってみよう。

 俺は明らかに迷走している。

 それは死にたくない気持ちと、そしてそのためには他人と手を取り合え、という女神の忠告で迷い子になっている。


『……個人の力はいくら強大であっても限界はあります。いかに周りの環境を改善し、周囲を巻き込んでいくかが肝心です。あと、周囲からの憎しみはお忘れなきよう。とにかく、ポイントは信頼できる仲間を作ることです』


 こんなことを女神は言っていた。

 他にも

 『独りよがりになるな』とか『反省しろ』とか。

 

 信頼できる仲間、それは何人か確保した。

 もちろん、この世界では大切な存在だ。


 だが、それ以外の言葉が俺を縛り付ける。

 結局、周りの好感度を上げろ、そう俺は解釈した。

 だが、これが誤りとは言わないが過剰反応ではなかったか。


 もう一つある。

 前世での親友と婚約者の裏切りだ。

 そもそも、俺は他人への忖度は苦手だ。

 忖度しないことで上手くやってきたつもりだ。

 それがあんな裏切りにあって俺は激しく混乱した。


 だからといって、俺が忖度しまくる?

 うまくいくわけがない。

 それは父ちゃんズの説教ではっきりした。

 俺(達)の流儀じゃない。


『嫌われもんの悪ガキ』


 ジャイニーは上手いことを言った。

 俺達は所詮そんな存在だ。


 もっと俺らしくあれ。

 火炙り上等、魔王上等。

 強くなればいいじゃねえか。

 誰にも文句を言わせないように。



 それにだ。

 魔王がなぜ討伐されるのか?

 怖いからか?

 自分たちの命が脅かされそうになるからだろ。


 俺はちょっと歴史を調べてみた。

 魔王、魔族の王だが、確かに人族と争い事を繰り返している。


 だが、戦争というのは得てして正義同士の戦いであることが多い。

 悪く言えば、悪人同士の戦いだ。


 お互いにそれなりの理由がある。

 魔王や魔族から見れば、彼らにも戦争に至る理由があるんだろう。


 魔族にとっては魔王は正義だ。

 英雄なんだ。

 逆に、人間の王は彼らには非道の独裁者になるんじゃないか。


 魔王は普通の戦争をしただけである。

 俺が魔王になるというのなら、俺が魔族を征してやる。

 喜んで魔王になってやろう。

 そして、魔族の正義をすればいいじゃねえか。



 人に好かれようとする、その呪縛から脱する。


 好意をいだいてもらおうとすることを止める。

 もともと俺はそういうことに忖度しなかった。


 だが、俺も馬鹿じゃない。

 忖度なしだとどうなるかぐらいはわかる。

 俺も経営者時代は違う方面で忖度したからな。


 それは、社員に少なくとも給与面での満足度を与えてきた。

 福利厚生なんかも俺なりに大事にした。

 まあ、ブラックだったがな。


 この世界なら?

 庶民が満足度をあげるポイント。

 食と安全を確保すること。

 これが最低限であろう。

 

 それは前世地球でもテーマは同じだろう。

 日本にいると理解しにくいが、飢えている人、戦火にさらされている人、地球上にはたくさんいた。


 そして、その上で衣食住の充実。

 特に俺的には栄養補給だけじゃない食の充実。



 俺を呪縛から開放させろ。

 好き放題やらせてもらう。

 前世の二の舞いかもしれんが。

 だが、友人や婚約者に裏切られた、

 というトラウマからも開放される必要がある。


 そうでなくば、中途半端なやらかしをこの世界でしそうな気がするのだ。



 さて、もう少し考えた。

 俺のかわりに人気取りをする人員がいればどうだろう。

 俺はそいつを補佐すればいい。

 自然とおこぼれが俺にくるだろ?


 人気取り。

 得意そうなのは?


 ガッキーズの二人。

 俺と同じだ。

 ガキ大将っぽいのとオタクっぽいのと。

 人気取りにはむいていない。


 では誰がいるのだろうか。

 今のところではシスターか。


 女神教会は俺のイチオシだ。

 シスターは美人で清潔感あふれている。


 だが、人気の面では今一つなんだよな。


 なんていうか、生活感がないというか。

 霞を食べてそうな雰囲気で人の世に疎いところがある。


 当面はシスターをバックアップするしかない。

 手はある。

 回復薬・スィーツ・酒を教会を通じて販売する。


 確実に人気が出るはずだ。

 心配なのは、ギルドや真実教会の動き。

 それもなんとか交わしていこう。

 世に出るには障害はつきものだ。


 さらにもう一押し、決定的な何かがシスターに起これば……



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