女神教会4と救世主教会
「坊っちゃん、良かったな」
「ああ。女神様の頼みってこともあるが、あんな人の良さげな人が奴隷落ちしなくて」
「それにね、僕達への偏見がなかったよね」
「ああ、ていうか、知らなかったのかな?」
「こんなこといっちゃいかんが、なんとなく世事に疎い、って感じはあるような気がするな」
「ああ、それは僕も思った。こんな子供が思っちゃいけないけど」
「いや、俺も同感だぞ。あの人、女神様に奉仕しすぎて浮世離れしてるのかもな。だから、簡単に保証人になったり」
「あとさ、あの教会に可愛い子いたの見たか?」
「え、そうなの? 俺、知らないぞ」
「ああ、僕も見ました。というか、話しました」
「あ”? おまえ、何抜け駆けしてるんだよ」
「いや、トイレの位置を聞いて少し世間話しただけですって。それに、僕達って女性に敬遠されてるでしょ? でも彼女からはそういう感じがなくて」
「で、どうだって?」
「二人はね、名前はセリーヌとロザリー。十三歳でシスター見習いだって」
「オレたちの一個上か。ちらっと見ただけだが、二人共美形だよな」
「うん。シスターがとびきりの美人なんだけど、二人も可愛かったな。あれほどのルックスは僕達の年代ではちょっと見ないよね」
「そうなると、女神と天使二人がこの教会にいるってのは確定したな」
「だな。でも心配だな。シスター、誰かにだまされるんじゃないかな」
「父ちゃんたちに声かけとこっか」
「そうしよう。金で解決できるんだったら、結構な額でもいけそうだしな」
「あとさ、教会には毎週訪れてさ、スィーツとか持って。子ども十五人いるんだろ?」
「うんうん、めちゃくちゃいいぞ。この教会なら遠慮なく食べられるもんな」
「そうだぜ。言っちゃ悪いけど、お館様と奥様の目があるから館では緊張するし、大ぴらに色々できないもんな」
「なんなら、館のメイドさんとかさ、女神教会に改宗してもらったら? 土日に行けばスィーツが食べられるとか。チョロそうなんだけど」
「おお、スキニー、いいこと言った」
「ついでにシスターたちにも魔力増強訓練受けてもらえばいいじゃん。子どもたちも一緒に」
「うむうむ。特にシスターってさ、素質が高そうな気がしないか?」
「するする。大きな魔力が眠ってるような気がする」
「だな。なんていうか、埋もれた原石って感じ」
「俺達、ガキの癖していっちょ前だな。シスター、多分二十歳ぐらいだろ」
「でも、感じるから仕方ないぜ」
「シスター見習いの二人も僕達に感謝してくれたら、嬉しいな」
「ああ、領都にいる人で俺達に好感を持ってる人って見たことないもんな」
「うう、悲しい現実」
「まあ、ゆっくりやってこう。少なくとも館の人たちはだいぶ俺達寄りになってきただろ?」
「うん、だよな。そうじゃなきゃ、人間不信になるぞ。あの館の人達の笑顔が嘘だなんて」
◇
「ここが真実教会か」
俺達は真実教会の領都中央支部に来ていた。
見学に来たのだ。
領都には真実教会の支部がブロックごとにある。
日本で言えば街内会単位である感じだ。
どれだけ真実教会が領都に浸透してるか。
しかも、ここだけじゃない。
王国中でこんな感じらしい。
領都中央支部は領都における真実教会の
中心的教会である。
まず、単純に大きい。
しかも白い。
白亜の殿堂である。
大きさはどうなんだろう。
広さは学校の体育館程度。
高さは5階建てぐらいか。
遠くから見ても大きさに驚く。
近くで見ればなおさらだ。
見上げる大きさで威容に圧倒される。
「すっげーな、オレ、この教会をこんな近くで見るのって初めてだぜ」
「三人ともそうだろ。なんていうか、まず、でっかい。圧倒される。荘厳って感じか」
「ですね。なんだか、重厚な音楽が鳴り始めてもおかしくないですね」
形はゴシック建築に近いのかもしれない。
ケルン大聖堂のように尖塔がそびえ建ってる。
やたら装飾が表面に刻み込まれている。
俺達は教会の中に入ってみた。
ミサ室は開放されている。
中はだだっぴろい空間だった。
まず、奥行き。
ボール投げが楽にできる。
同じく、高さ。
絶対にボールが届かん。
中で野球ができる。
「すっげーな。天上見てみろよ。全面に絵が描かれてるぜ」
「ホントだ。あれ、どうやって描いてるんでしょうか」
前世の教会だと、職人達がずっと上を見上げっぱなしで描いていたという。
首も腕も痛くなる重労働だったらしい。
「ていうかさ、あの高さまで足場とかあったんかな。オレなら◯が縮み上がるぜ」
「同感。大金もらっても絵画職人にはなりたくないね」
「ステンドグラスもキレイですね」
ミサ室の両側には見事なステンドグラスが並ぶ。
圧巻は奥正面のステンドグラス。
大きな円状で、幾何学模様に区切ってある。
人も多い。
みんな一心に祈りを捧げている。
俺は案内係みたいな人をつかまえて話を聞いた。
「教会活動はですね……」
彼が言うには、
教会を現世における神の国であり、
信仰の拠りどころである。
教会の主要な活動は
◯ミサ
毎週日曜日午前の部と午後の部。
いずれも寄進が必要。
◯回復魔法
初級から特級回復魔法がある。
寄進が必要。
初級 一万ギル
簡単な傷・病気を治す
中級 十万ギル
深い傷・病気を治す
上級 百万ギル
致命傷に近い傷・病気を治す
特級 天上知らず
欠損を治す
(値段も高いけどよ、欠損を治すって本当なのか?)
(本当なら、まさしく神の振る舞いだよな)
(まったくですね)
◯聖なる像の販売
像は祈りを捧げる聖人あるいは聖女。
主上様の祈りが折り込んであるという。
大きさによって寄進の値段が変わる。
最低でも十万ギル。
最高は天上知らず。
家庭円満、病気退散、商売繁盛、来世での幸福
などが保証されるらしい。
◯懺悔
懺悔室で相談をすることができる。
寄進の額に応じて、信者の心配事を解消する。
◯教育
教会併設の学校がある。
富裕層が子息を送り込んでいる。
無論、高額の寄進が必要。
◯物品販売
ワインとかパンとか。
◯懺悔の像
これを買うと、罪が許される。
前世の免罪符みたいなもんだな。
◇
「すごいな。真実教会で何か頼み事をすると必ず寄進が必要だなんて」
「しかも、高すぎないか?」
「ですね。初級回復薬一万ギルって、貧民とか出せないですよね」
「一般庶民だって、気軽に出せる額じゃねえよな」
教会の聖職者は
大神官 神官 神官助 神官見習い
などと段階がある。
勿論、左の方が偉い。
神官になるには、神官学校を卒業するのが一般的。
しかし、貴族の中には穀潰しの三男以下を教会に送り込んだり、後継者争いに敗れたものが教会に入ったりする。
そういったものは教会に関する何の教育を受けていないにも関わらず、いきなり神官になったりする。
こうした場合、所々の場面で金銭が飛び交う。
以前は聖職は独身でなくてはならなかったが、
今は妻帯者が一般化。
経済的にも
教会は独自の領地を持ち、大領主でもある。
ワイン製造など様々な物品を独占製造販売する。
輸送に関しても重要な位置を占める。
ギルドの背後に教会がいることが多い。
また、金貸しもしている。
王族はじめ、教会に頼っているものが多い。
王族・貴族はその面でも教会に頭が上がらない。
教会の破門権。
教会では六歳になると洗礼をして
登録されることになる。
日本でいう住民登録とか戸籍登録に近い。
こうなって初めて公民として認められる。
その教会には破門権がある。
公民としての地位を剥奪されるのだ。
こうなると、結婚・仕事・死後の埋葬など、
社会生活が不可能となることを意味していた。
それは国王といえども同じである。
国王は俗界の支配者でありながら
信仰の擁護者として教皇の下風に置かれていた。
「知れば知るほど、教会、真実教会って巨大なんだな。驚くぜ」
「王国って言っても、真実教会のほうが明らかに上位だもんな」
「これほどとは思いませんでしたよね」




