女神教会3
翌日の早朝、俺達は出発した。
草原地帯に入り、獣を狩りつつ、俺達は途中で一泊した。
このあたりまでは一応伯爵領らしい。
らしい、というのは誰も所有したがらないからだ。
だから、領境もどこだかはっきりしない。
翌日、さらに北東へ向かう。
お昼前に、極端に植物がへり始めた。
向こうを見渡すと、まさしく荒野が広がっていた。
「だんだん、息が苦しくなってきたな」
『にゃあ(御主人様、ではそろそろ結界をはります)』
『にゃあ(ここから徒歩五時間ほどの距離です)』
「結界を張ってくれるって。ここから徒歩五時間だそうだ」
「坊っちゃん、五時間歩くのはいいんだが、ちょっと暑くないか?」
「ですね。今の季節は秋なんですが、真夏のようですね」
確かにジリジリとした真夏のような太陽が俺達を焼き尽くす。
俺達はトボトボ歩いた。
結界を張っているせいなのか、風も吹いてこない。
なんだか、温室にいるような気分になってきた。
『にゃあ(結界は解除できません。なんとかこらえてください)』
いや、暑すぎんぞ。
「うわっちち!」
俺は扇風機のつもりで風魔法を発現してみた。
結界の中が熱風で大変なことになった。
「坊っちゃんよ、風吹くとかえって暑いだなんて、結界の中は真夏より暑いってことか?」
確かに、ちょっとマズイ。
このままだと、干からびるぞ。
俺はステータスメニューを開いて、温度調節できるスキルを探した。
すると、『ポン』という音とともに、
『氷魔法』『エアコン魔法』の二つが現れた。
俺は迷わずエアコン魔法を発動させた。
「ふぃー、生き返るぜ」
「ナイス冷風」
「今んとこはな。でもな、五時間維持できる魔力はないぞ」
「あー、どうする?」
気合でいくしかない。
一時間ほど我慢すれば、俺の魔力は復活する。
それと、氷魔法で何本も氷棒を作り出し、マジックバッグに収納した。
「暑くなったら言えよ。氷の棒だしてやるから」
「「「了解」」」
◇
とぼとぼ歩いて五時間。
途中で塩湖の干上がった跡を発見した。
塩等を採取する。
王国では塩は貴重だ。
首とかの露出部分が日焼けでヒリヒリしたころ。
『にゃあ(ご主人様。このあたりですね)』
「この地面の下らしいぞ」
「よっしゃ、次は俺たちの番だな」
そう気勢をあげるのは、レポルト親子。
クレールとジャイニーだ。
彼らは二人共土魔法を得意とする。
「掘削魔法!」
直径二m程度の穴をどんどん掘り下げていく。
深さ三mほどでいったん停止。
「どうなんだ、この石」
『にゃあ(金と銀が大量に含まれていますね)』
「金と銀が含まれてるって」
「そうなのか? 肉眼ではわからんな」
「まあ、お猫様に従うぞ。似たような岩石を手当たり次第にマジックバッグに放り込んでいくぞ」
「おう!」
採取自体は三十分もかからなかった。
しかし、真っ昼間だ。
暑すぎる。
俺達は穴の中で暑さをしのぎ、夕方以降に活動することにした。
「飯はまかせろ」
「いや、坊っちゃんがマジックバッグスキル持ってるとは規格外だよな。容量も大きいし」
俺は父ちゃんズにも彼ら専用のマジックバッグを渡してある。
「しかも、バッグの中では時間が経たないからな。こうして、できたての料理を食べることができる、と」
マジックバッグスキルのレベルが上がってきた。
その効果で容量は大きくなり、時間も経たなくなっている。
『うにゃー!』
「おお、待てよ。お前らのご飯もな」
黒猫は聞くところによると食事は不要らしい。
しかし、水飴とはじめとした甘味には興奮して、食事時には猛アピールする。
「猫は甘味を感じないって言うけどな」
「こいつら、使徒様だろ。普通の猫と違うぞ。いや、猫の形をした尊い奴らだぞ」
◇
俺達は夕方になると穴から這い出し、余裕で大荒野を抜け出した。
そして、翌日夕暮れ時に館に戻ってきた。
「これが出発前に言っていた金銀鉱か。よし、金属を抽出してみるぞ」
あらかじめ、ゲレオンには確認しておいた。
金銀鉱から金と銀を取り出せるかと。
「あったりまえよ。ドワーフにとっちゃ、初歩のスキルだぜ」
さすが、鍛冶を得意とするドワーフ。
金属に関しては専門家である。
「それにしても、どんだけ持ってきたんだ」
ゲレオンの工房には山のように積まれた金銀鉱が。
「マジックバッグに詰めるだけ詰めてきたからな」
マジックバッグは無限に入れられると思っていたら、限度があった。
それでも、一つのバッグにつき、数トンは詰め込んだと思う。
バッグは五つある。
相当量の金銀が期待できる。
◇
「ふう。やっと全部取り出せたぜ」
「お、ご苦労さま。どうだった?」
「岩石は全部で二十トン強あったぜ。で、金は四百g。銀は八kgばかり取れたな」
「二十トンもあって、たったそれだけなんか?」
がっくりだ。
「ばかいえ。結構密度が濃いほうだぞ。金なんかだと、普通一トンあたり五~十g程度しかとれん。だが、この鉱石は二十gだ。銀だと、せいぜい二百g程度。この鉱石は四百gほど取れておる」
「なるほど。平均よりも二倍以上は金銀密度が濃いってわけか。なんにしても、ご苦労さま」
これを宝石商あたりに売ると、
金は一g一万5千ギル✕四百gで六百万ギル。
銀は一g一万5千ギル✕八kgで千二百万ギル。
合計すると、千八百万ギルだった。
※一ギル約一円に相当。
「おおお! マジックバッグを持つ手が震えるぜ」
前世では億単位の金を扱っていたとはいえ、
この世界では所持金額千ギルが最高だった。
それが四つも桁の違うお金を持っている。
「あと、マジックバッグ。砕いた岩石が入ってるから捨てておいてな」
「うわっ、約二十トンだよな。捨てるのも難儀だぜ」
「んじゃ、借金返すぞ」
借金取りの事務所に行き、残債を完済した。
五百万ギルほどであった。
◇
「本当にありがとうございました。何度お礼を申し上げても言い過ぎるということはありません」
「あのですね、シスター。俺は女神様から頼まれたのですよ。女神教会をよろしく、と」
「え? 本当ですか? すると、レナルド様も女神様の使徒というわけなのでしょうか?」
シスターはまたもや跪いて僕に祈りを捧げようとする。
「いやいや! 俺は使徒じゃありません! 理由はわからんのですが、女神様に頼み事をされたただの人間です」
「坊っちゃん、それただの人間って聞こえんぞ」
「こちらのお猫様は女神様の使徒様なのですよね?」
「ですね。本当に奇跡がおこりましたわ。でも、私はどうやって返済したらいいでしょうか」
「いや、それには及びませんよ。俺もこうやって大金を手に入れましたが、泡銭です。半分は寄進しますから、この教会の運営費にしてください。足りなくなったら、また稼ぎますから言ってくださいね」
「まあ。なんとお礼をもうしあげてよいやら」
またもや、跪いて祈りを捧げようとする。
俺も疲れてきたのでそのままにしておいた。
「何度もいいますけど、俺は女神様に頼まれたし、その御蔭で簡単に大金を稼ぐことができます。負担に思う必要はありません。祈りは女神様に捧げてくださいね」




