魔力増進
『これであなたは強大なスキルを身につけました』
これだけで?
いきなり俺ツェーになるのか?
『残念ながら、スキルは発現させ成長させる必要があります。スキルは発現条件を満たし必要な場合に自動的に発現します。スキルの成長はスキルを使用することです。ある程度、成長にはガイダンスが組み込まれていますから、内なる声に耳を傾けてください』
なるほど。ちなみに、現在使える魔法は?
『最初から四属性(火・水・風・土)の四属性魔法が使えます。この世界では魔法は魔道具を使用する必要がありますが、あなたは直接発現できます』
おおお!
魔法が使える!
異世界転生はそうじゃなきゃ。
『ただ、繰り返し言いますが、個人の力はいくら強大であっても限界はあります。いかに周りの環境を改善し、周囲を巻き込んでいくかが肝心です。あと、周囲からの憎しみはお忘れなきよう。とにかく、ポイントは信頼できる仲間を作ることです』
信頼できる仲間か……
俺は親友と思っていた男に会社を乗っ取られた。
そしてフィアンセも寝取られた。
ハードな話だよな。
『それと、貴方は火炙りにされる夢を見ましたね?』
ああ、確かに。
俺と両親が火炙りにされるという。
『あれはフェーブル家本来の未来です。私が貴方に投影しました。半生の記憶とともに』
俺って火炙りに処せられるの?
それが本来の未来だって?
『そのとおりです。貴方が二十歳になったときの出来事ですね。フェーブル家の悪行は最低最悪クラスのものです。貴方たちの周囲の殆どが貴方たちに反目します。怒りの民衆により貴方たちは捕まり処刑されるのです』
いや、待て。
このままだと火炙り。
断ったら次元の狭間。
『いえ。未来は変えることができます。今、貴方は強大な力を獲得しました。その力で悲惨な現状を改善し、明るい未来、それを是非ともその手で掴み取ってください』
強大な力か。
『くれぐれも独りよがりにならないでください。あなたの見た夢には重要なヒントがいくつもあります。もっと詳細に貴方に教えることもできるのですが、この世界の理の中では、これ以上を教えることができません』
女神なのにか。
『これ以上を教えると邪悪な勢力に気取られる可能性があります。そうなると、貴方は抹消されかねません』
抹消だと?
転生したばかりなのにか?
『はい。ただ、現状ではそちらは気取られる可能性は限りなくゼロに近いはずです。安心してください。むしろ、先程も言いましたが、貴方には魔王認定される未来もありうるのです。レナルドの振る舞いをよく反省し、適切な行動に移してください』
魔王認定か。火炙りよりもひどい。
『魔王になることは転生関係なく本来のレナルドの持っている可能性の一つです』
もともとレナルドは魔王になりやすいのか?
やばすぎるじゃないか。
『はい。転生したことを合わせると、魔王になる可能性はさらに強くなったと言えるでしょう』
ええ?
『くどいですが、そうならないように適切な行動を。あと、私の使徒を派遣する予定です。便利なのでどうぞご活用ください』
そこで女神の声が終わったようだ。
急速に俺の周囲の霞が取り払われた。
◇
「どうなさいましたか?」
俺のそばに付き添っていた家令がそう尋ねる。
彼はこのできごとの一切を感知しなかったのか。
まあ、当然だな。
女神様のご降臨なぞ、大騒ぎになるよな。
「いえ、どうもありがとうございました。これらの本は本当に訳のわからない言葉で記述されているんですね」
「ええ、当家でも何人かの研究員を配属して解読を試みているのですが、まるでわからないようです」
「とにかく、ありがとうございました」
「そうですか。では、部屋でごゆるりと」
俺はお手上げのポーズをして図書室を出る。
◇
部屋に戻ると俺は頭を抱えた。
なんだか、騙されたような。
とにかく、話がでかすぎる。
詐欺話だってもう少しまともだろ。
世の中を改善しろ。
さもなくば、俺は火炙りか、魔王になるか。
または次元の狭間に未来永劫漂うことになる。
無茶苦茶じゃないか。
唯一のセーフモードが仲間を作れ、ときた。
正直、俺には仲間ってフレーズは鬼門だっての。
釈然としない気持ちでステータスを開いてみた。
【ステータス】
氏 名 レナルド・フェーブル(旧名蒲生兼人)
種 族 異世界人
性 別 男
年 齢 十二歳
スキル 多言語 グル(魔力増進) 四属性魔法
その他 女神の加護
女神の加護なんてあるぞ。
見つめていると、
(女神の加護。様々な活動において女神の加護が得られる。具体的には様々な力の強化がなされる)
などとどこからか声が聞こえてきた。
これがガイダンスというやつか?
四属性魔法もある。
どうすればいいんだ?
(指先で方向を指定し、指先に意識を集中させて使いたい魔法を心のなかで唱えてください)
またもや、声が聞こえてきた。
やはりこれが女神のいうガイダンスか。
まず火魔法……といいたいが、室内だしな。
風魔法を。
(風魔法は現状ではウィンドが使えます)
窓をあけ、指先を外に出して意識を集中させた。
『(ウィンド)』『ビュゥ』
おお! 指先から確かに風が吹いたぞ!
だが、力が弱すぎるな。
魔法は小学一年生ってところか。
(威力を高める第一歩は魔力を増やすことです。増やし方は次のとおりです)
ふむふむ。
(まずは椅子に座り手のひらを脚の上において背筋を伸ばし脱力します)
これでいいか?
(肩の力を抜いたら、指先に意識を集中させてください。そして指先の力も抜けきったら、徐々に指先が温かくなってきます)
……ああ、ほんとだ。
指先が温かくなってきたぞ。
(その感覚を前腕に移してください)
(できたら、次は上腕へ)
(そして肩)
俺はしばらく格闘した。
格闘といってもボーとしてるだけなんだが。
一時間もたつと指先の感覚が肩にまで広がってきた。
(先程よりも、魔力が増大しました)
じゃあ、試してみるか。
再び窓を開けてそばに生えている木に向けて
『(ウィンド)』『ビュッ!』
おお、葉が揺れたぞ!
こんなに短時間で効果が現れるとは。
よし、どんどんやってくぞ!
(次は脚の指先。そして徐々に上へ。最終的に下腹が温かくなったらひとまず終了です)
なんてイージーモードなんだ。
ボーっとしてるだけで魔力が向上していく。
でも、今日は疲れたから明日だな。
疲れてはいるんだが、とても心地よい。
体の中に暖房器具があるような感じだ。
(この訓練を朝と晩。毎日続けましょう。やればやるほど、魔力は増大します)
ふーむ。
これは毎日、楽しみしかないぞ。




