女神教会2
「シスター、えらく借りてますね」
「ええ、面目ありません。信者の方の保証人を頼まれたんですが、信者の方が行方をくらましてしまって。ですので、仕方なく返済分を借金してまして……」
ああ、これは最悪なパターンだ。
このままだと、借金奴隷だぞ。
「シスター、このままだとどうなるかわかりますよね」
「はい……覚悟はできています……」
いかん、それは。
だからといって、俺達には金はない。
父上が出してくれるはずもない。
どうする?
「坊ちゃま、開発した製品を売れば若干の足しになるのでは」
「うむ。背に腹は代えられんが、それでも焼け石に水だしな。いっそのこと、レシピを売るか?」
などと相談し合っていると、
「にゃ~ん」
なんだ、この可愛らしい黒猫は。
「「にゃ~ん」」
お、全部で三匹いるのか。
ごめんな、ミルクでもあげたいけど、ちょっと待っててな。
『にゃあ(御主人様、お待ち致しておりました)』
「は?」
『にゃあ(女神アプロティーナ様の使徒でございます)』
ああ、そういえば女神が言っていたな。
女神の使徒を送り届けるって。
三匹の黒猫がそうなのか。
「(おまえらの声、脳内に響くんだけど)」
『にゃあ(念話でございます。直接脳の間でやり取りを致します)』
「(ふむふむ。なるほど。で、急に出てきたのは?)」
『にゃあ(私ども、シスターの惨状に心を痛めておりましたが、貴方様がやってくるまで積極的な活動ができませんでした。というのは、教会の石像の姿だったのです。シスターに身体的な危険が及ぶ時以外は動けませんでした。これでようやく完全起動できます)』
「(うお? そ、そうか)」
『にゃあ(この借金の件、解決の目処はできております)』
「(おおお、使える子たちじゃないか)」
『にゃあ(ありがとうございます。まず、逃亡した債務者の行き先はほぼ掴めております。あとはとっ捕まえて、煮るなり借金奴隷にするなり致しましょう)』
「(おお! そうか!)」
『にゃあ(それでもまだ残債があるのですが、この世界の金銀山の場所を私どもは知っております)』
「(金銀山?)」
『にゃあ(金やら銀やいろいろな鉱物のとれる場所ですね)』
「(ほお。そんな場所があるのか)」
俺は大量の魔鋼を所有している。
しかし、売るわけにはいかない。
足がついたら大変だ。
『にゃあ(大荒野にあります。大荒野は様々な鉱物が眠っています)』
いろんな鉱物を見分けることができるわけ?
『にゃあ(よほど特殊なものでない限り、可能です)』
へえ、有能なんだね。
いつか活用させてもらうときが来るかも。
『にゃあ(ご用命の際はいつでもどうぞ)』
大荒野はわが伯爵領に隣接する広大な荒れ地だ。
全貌はわかっていない。
「(よくわからんが、すぐに行ってみようよ)」
『にゃあ(御主人様。まずは、逃げた債務者から)』
「(ああ、そうか)」
「おい、坊っちゃん。さっきから猫と何戯れてんだ? なんだかニャーニャー言い合って、坊っちゃん、バカみたいだぞ?」
ジャイニー、今、俺は凄い会話をしてたんだよ。
「みんな、信じられんかもしれんが、この猫たちな、女神様の使徒らしい」
「「「女神様の使徒だって?」」」
「ああ。今まで、この教会で石像になってたらしい」
「ああ、ほんとですわ! 祭壇に置いてあった三匹の猫の石像がなくなってます!」
「シスター、しかもいざというときには密かにシスターの護衛もやってたようですよ」
「まあ」
シスターはひざまずくと猫に祈りを捧げた。
「でな、借金返済の重要なヒントをもらった。というか解決方法をもらった」
「「「ほう」」」
「まずは、逃亡した債務者。居場所を教えてくれるらしい。みんな、とっ捕まえるぞ」
「「「お、おー?」」」
みんな半信半疑だったが、猫に案内されて向かってみると、債務者は同じスラムに潜伏していた。
一時間もせずに三人とも確保した。
「お願いします! 許してください!」
「年老いた父母の面倒を」
「三人の妻と五人の子供が」
なんだか、変なことを言ってるやつがいるが無視して
「おまえら、それは借金取りと相談して決めな。シスターに無理言っておいて逃亡するなんざ、死刑に等しいぞ」
「「「ひぃぃ!」」」
これっぽっちも同情する気になれん。
前世でもこういう輩、たくさんいたからな。
下手に同情すると、後ろから刺してくる。
俺が債権者になって債権者会議に出たこともある。
一応、経営者だったしな。
俺達は逃亡者をその日のうちに借金取りのもとへ送り込んだ。
「あとは残債だ。これについては少し遠出するらしい」
「どこなんだ?」
「大荒野だってよ」
「何? 坊っちゃん、そこがどういうところか知ってるのか?」
父ちゃんズに教えてもらった。
伯爵領にも隣接しているがとにかく広大で、面積はこの王国を軽く上回るらしい。
人間どころか動物も植物も生き残れない最果ての場所。
それが大荒野。
まず、一滴も雨が降らない。
ひたすら乾燥した荒野が続く場所。
勿論、草一本も生えていない。
生命活動がない理由は水だけではない。
魔素濃度が極端に薄いらしい。
この世界では生命には適度な魔素濃度が必要だ。
生物の種類によって必要な魔素濃度が違うが、少なくとも大荒野の魔素濃度ではどんな生き物も生存できないようだ。
「それにな、大荒野は立ち入り厳禁だぞ。というか、立ち入ったら即座に干からびるぞ」
そうなの?
駄目じゃん。
『にゃあ(ご主人様。私どもが結界を張ります。少人数ならば、一日ぐらいは活動できます)』
「あのさ、こいつらが結界を張るってさ。一日ぐらいはいけるって言ってるぞ」
◇
俺はメンバーを絞り込んだ。
ガッキーズの三人と父ちゃんズの二人だ。
借金取りには数日中に全額返済することで話をつけてある。
「うっしゃ、気合を入れるぞ!」
「「「おー」」」
俺達の領の西には草原が広がるエリアがある。
この草原を十五kmほど西に向かうと大荒野が広がる。
俺達はキャンプその他旅行の準備をして館を旅立った。
ちなみに両親は俺が何をしようが関心がないが、一応、断っておく。




