女神教会1
俺たちは女神教会へ行ってみた。
教会は領都のスラムにあった。
危険だから俺達だけで行く許可が出なかったのだ。
父ちゃんズたちの探索のあと、父ちゃんたちを引き連れて教会に向かう。
スラムは街の北東方面にある。
スラムに近づくにつれてどんどん汚くなる。
やがて、顔をしかめるような臭いも漂う。
ゴミも散乱し始めるし、そもそも建物がボロい。
道端にタムロしている人も多い。
単に酒を飲むか、酒を飲んで博打をしているか。
子供はボロボロの服で元気に走り回るのもいる。
その一方で青白い顔でうずくまっている子もいる。
栄養失調なんだろうか。それとも病気か。
この光景は日本では絶対に見かけることはないな。
結構スラムの奥に来ると、教会らしき建物が見えてきた。
ボロい。
でも、周りがもっとボロいから教会はマシに見える。
大きさはどうだろう。
ちょっとした幼稚園ぐらい?
これで伝わるだろうか。
それなりの広さの庭で何人かの幼児が遊んでいる。
「こんちわー、おじゃましまーす」
俺が来訪を告げると、奥からシスターが現れた。
驚いた。
とんでもない美人だった。
俺的には女神につぐナンバー2。
シスターのほうが現実味のある分、美人度は勝っているかも。
少なくともシスターのほうが魅力的だ。
上品で清楚。
スタイルも八頭身、いや九頭身か。
薄緑色の髪と緑色の目。
化粧はなくても光り輝いている。
清潔感あふれるオーラが場を支配している。
おおお!
この心からの叫びは。
俺は理解した。
教会というか、彼女を救い出すのが俺の使命なんだな!
女神様、ありがとう!
ふと気がつくと、ガッキーズの二人も雷にうたれたような顔をしている。
いや、父ちゃんズとか護衛のひとたちもだ。
みんな口をポカーンと開けて、シスターをガン見している。
あれだけの美人だと、目が離せない。
シスターの移動に連れて、目も動いていく。
いや、目がホイホイされてしまっている。
「いらっしゃいませ。どんな御用でしょうか?」
え?
鈴の音を転がしたような音が。
「あ、ああ。えと」
いかん。
頭が真っ白だ。
「えと、め、女神教会について、お、教えても、もらいに」
いかん。
カミカミでなんとか言葉を吐き出せた。
「ああ、それはようこそいらっしゃいました。では、説明させていただきます。こちらにどうぞ」
俺達は簡単に自分たちの自己紹介をした。
シスターの名前はマリアンヌ。
それからはシスターの神の声を延々と聞いていた。
いや、聞いちゃいなかったのだが。
まるで音楽のようにその声に魅せられていた。
「とまあ、こういうわけです。いかがでしたでしょうか」
「パチパチパチ!」
全員、スタンディングオベーションで大拍手だ。
ていうか、おまえら、聞いていたのかよ。
俺の耳に残ったのは、『女神様』、
と『祈り』の二つのワード。
女神教会はその二つの言葉で大丈夫らしい。
女神を敬い、毎日、祈りを捧げる。
要するに、教義はそれだけのようだ。
教会というと、学校の役割をしたり、回復魔法で病気や怪我を治したり、ワインを販売したりする。
そういうのが一般的な教会イメージだが。
どうやら、そういうのはないらしい。
細々とした寄進でなんとか運営されているようだ。
孤児院は併設されている。
それが精一杯でそれ以上は予算上できない。
「女神様へのお祈りを捧げればすべてが解決します」
そう、シスターはのたまう。
シスターはとても美人だ。
しかし、少し霞を食べてるような雰囲気がある。
そんなことをつらつら考えていると、
「シスター、いい加減、借金払ってもらえませんかー」
玄関で誰かが怒鳴る。
「ああ、申し訳ございません。お支払いはもう少し待っていただけないでしょうか」
シスターが慌てて飛び出して対応している。
よし、来た。
悪徳サラ金業者め。
俺が成敗してやる。
「おいおい、非道な金貸しはいかんぞ」
「あ”? なんだ、このガキ」
「ああ、坊っちゃん、まあまあ、ここは私が」
そう、父ちゃんズのアレオンが前に出る。
彼は多少、財務の知識がある。
あくまで、多少なんだが。
「私が代わりに話を伺いましょう」
「なんだ、テメーは。今、このガキはオレたちのことを非道な金貸しだって言いやがったんだが。とんでもねえ風評被害だぜ?」
「もし、よろしければ内容を教えてもらえませんか」
「いいだろ。こちらにはどこに出ても堂々としてられるだけのモンがあるからな」
奴らに聞いたところによると、シスターは三人の借金の保証人になっており、さらに追加で三百万ギルほどの金を借りている。
ちなみに、一ギル=一円程度の感覚だ。
シスターの自筆の住所・氏名・サイン・年月日があり、その内容も無理のないものであった。
「どうでい。俺達が非道か? むしろ、俺達は今まで借金返済を待ってたんだ。むしろ、俺達は被害者なんだぞ」
「……坊っちゃん、こりゃ、彼らに非はなさそうですな」
俺も借用書とかを見てみる。
確かに、借金はトイチであり、無茶苦茶な金利だ。
しかし、この世界では普通らしい。
返さないやつが多いから、どうしてもこの金利になるんだと。
むしろ、これ以上の金利をとるところも多く良心的らしい。
「先程は失礼をいって申し訳なかった。俺は伯爵家領主の嫡男レナルドだ。俺は訳あって教会に来ている。少しだけ待ってもらえないか?」
「おお、領主様の……いや、領主様の息子さんとはいえ、こちらも切羽詰まってるんで。全額とは言わない。一部でもせめて利息分だけでも返してもらえやせんか」
……こうなりゃ成り行きだ。
女神様に頼まれてるんだからな。
「レポルトとアレオン、持ち合わせあるか」
「へい。これだけですが」
「うむ。なあ、今日はこれだけの持ち合わせしか持ってない。とりあえず、また明日話をしようじゃないか」
「へ、へえ。じゃあ、また明日出張りますんでよろしくお願いします」




