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安易な人気取りに後悔

「ああ、憂鬱だなあ。俺、雨嫌いなんだよね」


 昨日からずっと雨が降り続いている。

 前世で婚約者から別れの電話をもらった時。

 こんな雨が降ってたなぁ……


 この世界、雨があまり降らない。

 降っても小雨かすぐに止んでしまう。

 でも、珍しくざーざー雨が長時間続いている。


「坊っちゃん、どうしたんだよ。黄昏たそがれて」


 雨のせいだけじゃない。

 俺は最近メランコリックな気分が続いている。


 父ちゃんズの説教が効いているせいか自省することが多くなっているのだ。

 その一つが前世のことだ。

 なぜ、俺は二人から裏切られたのか。


 少し前まであいつらが百%悪いと思っていた。

 無論、今でも奴らのことを考えるとはらわたが煮えくり返る。


 だが、俺自身の行いに反省する点はなかったのか。

 俺は何度も考えるようになったのだ。

 まあ、思い当たる点はあんまりないんだが。



「ジャイニーよ。おまえはいいよな。いつも元気で」


「お、なんだ、そのバカにしたような言い方は。次期伯爵がそんな腑抜けているから、泥棒に入られるんだぞ」


「ああ、俺も両親も留守のときを狙ったようだな。まあ、盗られたものはないとのことだが」


「そっか。まあ、なんでもいいから、料理教えろよ」


 ジャイニーは急に料理に目覚めた。

 事あるごとに俺から料理を学びたがる。

 ゲレオンに教えてもらえよ、と思うのだが、俺のほうがわかりやすいらしい。


 俺がいろいろ作ることに感化されたようだ。

 料理人のゲレオンによると筋がいいんだと。

 脳筋野郎のくせに、案外繊細な料理を作る。



「うぉ?」


 雨脚がさらに激しくなってきた。


「こんな豪雨、久しぶりだな」


「ですね、何年ぶりってとこですね」


 いつの間にか、スキニーも来た。

 まあ、ガッキーズの二人は暇があれば俺んちに来てるんだけど。


「ピカッ!」


「おお、雷だ! 数数えろ! 一、二、三、四、五」


「ドーン!」「「うわっ!」」


「数数えてどうすんだよ」


「光ってから音がなるまでの秒数にな、三百四十をかけると、何m離れてるか分かるんだよ」

 ※この世界の距離表示をm換算している。


「へえ、坊っちゃん頭いいな」


 ちなみに、俺は算盤・暗算検定ともに二級。

 暗算は得意な方だ。


「今だと五数えたから千七百。つまり、千七百m離れたところに雷が落ちたってこと」


「え、坊ちゃま、掛け算はや!」


「は? 普通だろ?」


「何言ってるんだよ。少し前までは足し算引き算だって満足にできなかったくせに。いつの間に勉強したんだよ」


「あー、少しな」


「チェッ、次はオレも数数えるぜ! 計算はまかせた!」


「ピカッ!」「一、二」「ドーン!!」


「おお、今のは近いぞ。二数えたから六百八十mぐらい離れているな」


「そっか。殆ど眼の前じゃん」


「ピカッ!」「バリバリバリ!!!」


「うひゃ、めちゃ近いぞ、この館に落ちたんじゃねーの?」


「ああ、そうかもな」


 などと騒いでいたら、館の中が騒然としている。


「裏の倉庫に雷が落ちたぞ!」


「火、出てるぞ!」


 嘘だろ。

 前世含めて、俺の経験した最大かつ最寄りのの雷災害だな。


 雷はそれで満足したのか、もう鳴らなかった。

 しかし、雨脚は更に激しくなった。


 ◇


 雷が裏の倉庫に落ちてから数時間。


「大丈夫かよ。激しい雨が何時間も降り続いてるんだが」


「坊っちゃん、しかも、雨が降り始めたのは昨日だぜ」


「坊ちゃま、家に戻ろうと思ったんですけど、ちょっと外に出れんですね。というか、出たくないですね」


「家で飯食ってくか?」

 

「ありがてー、オレも家で飯食いたいんだけど、この雨だからな。濡れたくないんだ」


 などと話していた時。


「おーい。大変だ。川が決壊したぞ!」


 こりゃ、一大事だ。


「おい、櫓に登るぞ!」


 伯爵邸には物見の櫓がある。

 伯爵邸がやや高台に位置するため、櫓に登ると街を含め、かなり広い範囲を見ることができる。


 俺達は豪雨の中、ずぶ濡れになって櫓まで駆けていった。

 気が高ぶってるから、濡れるのも気にならない。


「俺達もまぜて!」


 櫓には監視の兵士が登っている。


「決壊したとこ、見れるかな?」


「雨が激しくてな。見通しが悪いんだ。多分、あの辺りだと思いますぜ」


 と、兵士は指差す。

 確かに、雨と霧でよく見えない。


 櫓の下では兵士がバタバタしている。

 救援に駆けつけるんだろう。

 

 一応、川の土手は土魔法で固めてあるんだが、魔法が弱いのか、水の力が強すぎるのか、大雨のたびに決壊することが多い。


 ◇


 翌日。

 昨日の雨が嘘のような快晴だ。

 キラキラと風景が眩しい。

 雨で汚れが洗い流され、木々が美しい。

 しかし、櫓から見下ろす光景は悲惨だった。


「街自体は川から距離があるから助かっているが、ちょっと川の近くにいくともう冠水してる」


「いくつかの村も大変みたいだぞ」


「孤立してるところがいくつかあるらしい」


 噂話が飛び交う。

 


「なあ、おまえら。これは好感度を上げるチャンスじゃないか?」


 俺はガッキーズの二人に相談した。


「好感度を?」


「なにするつもりなんですか?」


「どうやら、食い物とか飲料水とかが不足してるみたいなんだ。冠水やら洪水やらでやられてしまったんだな」


「あー、なるほど。災害救助というか災害支援ですか」


「俺達だけでは出してくれんだろ」


「父ちゃんズに頼んで、兵士同行で行けば大丈夫じゃないか? 水の引いた場所にいけば危険はあんまりないだろ?」


「うむ、僕達、マジックバッグ持ってるしね」


「まあ、バッグ持ってるのばれないようにな」


 ◇


「おい! 食料がもうないなんてふざけるな!」


「俺達は被災してるんだ! 早く助けろ!」


「もっとたくさん食い物をもってこい!」



 俺達は立ち往生していた。

 なんとか被災地の一つにたどりつき、緊急食料と水を配っていたんだが、思ったよりも被災者が多かった。

 というか、支援を開始したらドドっと被災者が殺到してきて、物資の奪い合いになってしまった。あっという間に物資は底をつき、なんと被災者たちが俺達に詰め寄ってきたのだ。


「な、なんなんだ。俺達は助けに来たのに」


「めちゃくちゃ非難されてるぞ」


「僕達、まるで犯罪者みたいじゃないですか」


 結局、俺達はホウホウの体で現場を逃げ出した。


 ◇


 俺達は父ちゃんズに諭されていた。


「俺達、救助しにいったんだぞ。でも、物資がなくなったら、凄い怒号で非難された。人間とはあんなに醜いものなのか?」


「あれは人間の一つの真の姿だな」


 父ちゃんズは解説してくれた。

 奴らは被災者だ。

 助けに行くと最初は感謝する。

 しかし、それがある地点で助けられて当然、早く助けろ、という気持ちに変わるんだ。

 最初から依存心丸出しの場合もあるという。


「えー、じゃあ彼らを助けちゃ駄目ってことか?」


「いや、バランスの問題だ。援助は悪いことではない。むしろ、おまえらの行為は称賛すべきものだが、彼らの依存心を引き出してはいかん」


「むずかしいな」


「俺はな、おまえらが過去を悔やんで色々努力してるのはよーく理解してる。だがな、だからといってむやみに甘い顔をするのは注意したほうがいい」


「甘い顔か」


「ああ、繰り返すが、人間は援助されると、

 最初は感謝する。

 二回めは当たり前と思う。

 三回めはそれを自分の権利だとみなす。

 そういう生き物なんだ」


「はあ。難しいぜ」


「館の使用人、領民、貴族、誰でも同じさ。誰でも過剰な人気取りを行えば、今回のようなことが起こりうる」


「誰でもか」


「ああ。迎合しちゃいかん。おもねれば、最初は受けがいい。だが、ちょっとしたことで反感を持たれかねん」


「なんか怖いね」


「だから、バランスさ。寄り添う必要はある。しかし、寄り添いすぎると、迎合することになる。それはよくない」



 俺にはショックだった。

 俺の最近の憂鬱さ。

 つまり、前世に対する自省。

 前世で経営者だった俺は、あんまり社員のことを考えたことがなかった。

 俺はブラック体質で猛烈に働いてきたし、それを社員に求めてきた。


 だが、この世界に転生してみたら、女神は環境を改善し、仲間を作れという。

 ガッキーズとか父ちゃんズはいい。

 彼らに関しては信用をしている。

 というか、俺とともに排斥された側だ。


 だが、それ以外は?

 館の使用人や領民。

 彼らの多くは俺達に牙を向いた。

 火炙りの処刑台で俺を囲んで気勢を上げる彼ら。

 奴らの怒りに狂った目を忘れられない。


 だから、周囲の環境を整えろ、という女神の示唆。

 俺は、いかに好感度をあげるか、と捉えた。

 それは間違っていないと思う。

 実際、館の使用人への甘味配布などは使用人たちの俺達への態度を軟化させている。


 だが、俺はもともと忖度するタイプじゃない。

 好かれようが嫌われようが気にならなかった。

 当然、好かれようと行動をしたことがない。


 どうやら俺は慣れないことをしてしまったらしい。

 好感度を上げる、つまり人気取りは、結局、彼らに迎合していたということなのか。

 俺には父ちゃんズの発言は目からウロコだった。



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