館の人々2 メイド達のおしゃべり&メイド長と伯爵の独り言
館の人々2 メイド達のおしゃべり&メイド長と伯爵の独り言】■ちょっぴりざまあ
「(ところでさ)」
「(どうしたの、小声で)」
「(メイド長のルイーズさんと執事のフレデリクさんにはお菓子とか出さないようにしてるよね。口止めもされてるし。なんでなの?)」
「(知らないの? あきれた。ルイーズさんは領主様のアレなのよ)」
「(アレってアレ?)」
「(そうよ。だから、話が筒抜けになるの)」
「(そうなんだ。でも、ほら、メイド長ってあれじゃない? いい気味って感じ)」
「(そうそう。指導が厳しすぎるもんね)」
「(はっきりいいましょうよ。いじめだって)」
「(あー、はっきり言った!)」
「(聞こえやしないわよ。メイド長ってターゲット決めていじめてるって専らの噂)」
「(えー、そうなんだ)」
「(何のんびり言ってるの。先週は貴方がいじめられてたでしょ)」
「(え? そうなの? 確かにいつもよりも厳しかったけど)」
「(結局、こういう娘が残るのよね。タフというかドンというか。あのさ、先週一人やめた子いたよね?)」
「(ジョイ?)」
「(そう。ジョイ。彼女はメイド長にいびられてやめたって専らの噂よ)」
「(えー、そうなんだ)」
「(彼女、いつも部屋とかで泣いてたの知らないの?)」
「(うーん、地味な子だとは思ったけど。でもなんでいじめられたの?)」
「(多分だけどさ、彼女の喋り方がメイド長の癇に障ったんじゃないかって)」
「(喋り方? あの、語尾を伸ばしたような?)」
「(うん。あの甘ったるい喋り方。メイド長は幼稚園児みたいな頭の悪い喋り方はやめなさいっていつも怒ってたわ)」
「(あー、それは私も思った。いい大人がなんで子どもの真似してるんだって)」
「(そうよね。それはメイド長の肩を持つわ。私もイライラしてたの)」
「(そういえば、坊ちゃまの元婚約者も似たような喋り方だったわよね)」
「(私さ、初めて元婚約者を見た時、なんて可愛いの! って思ったわけ。でもさ、今考えるとあれ? って思うのよね)」
「(あー、私と同じ! 前はこんな可愛い子見たことないって思ってたんだけど、今はアレなんだったんだろうって感じ)」
「(だよね。顔はともかく、あの喋り方は気持ち悪いわ。前は可愛いと思ってたんだけど)」
「(まあ、元婚約者のことは横に置いといて。メイド辞職の第一原因はメイド長のシゴキ・いじめだもんね。次がお館様のハラスメント)」
「(たいていのメイドはすぐに辞めちゃうよね)」
「(ところで、フレデリクさんがのけ者にされるのは?)」
「(彼はルイーズさんとねんごろ)」
「(まさか。二股?)」
「(本当よ。ちょっと気をつけて見てればすぐにわかるわ)」
「(えー、よくやるわね。怖くないのかしら)」
「(スリルがあるんじゃない?)」
「(しかもさ、あの二人、お金を操作してるって話よ)」
「(しっ、声が大きい。ホントなの?)」
「(これは噂レベルで確証はないんだけど、古株の人に言わせると公然の秘密に近いらしいわ)」
「(そうなんだ)」
「(お館様、お金をあんまりチェックしないから、というか、お館様は計算が不得意らしいわね。やりたい放題よ)」
「(代官として派遣されてる役人とかも帳簿はかなり酷いって話)」
「(えー、私達こんなに低賃金で働いているのに)」
「(だからといって、悪いことしないようにね? バレたら大変だよ)」
「(あ、ああ。そうよね)」
【メイド長の独り言】
最近、妙にメイドたちがこそこそしている。
どうも調理場で何かやっているようだ。
私は得意の聞き耳を立てた。
これは私のスキルだ。
ひそひそ話でもキャッチできる。
それによると、メイドたちは調理場で何かを食べているらしい。
彼女たちに与える食事以外は館のものだ。
これは犯罪のニオイがする。
私は慎重に調査を進めた。
すると、作っているのはどうやら甘味。
しかも、材料を与えているのは坊ちゃまのようだ。
なら、館の金をくすねているのか。
私は館の金の出入りを管理している。
すぐに帳簿を調べてみた。
しかし、坊ちゃまは不正をしているわけではない。
どうやら、何かで収入を得ているようだ。
魔物討伐か?
まさか。
あの修練嫌いのお坊ちゃんが。
とは思ったが、このところ兵士たちと一緒に訓練している。
どうやら武力の見込みがあるらしい。
そういえば、痩せてきて顔から醜さが取れてきた。
兵士たちにも聞き耳を立ててみた。
お坊ちゃんがゴブリンをやっつけたとか今回はグレイウルフを討伐したとか、信じられない噂をしている。
腐っても伯爵ご夫妻の息子か。
お館様は王国でも有数の魔導師だ。
それに昔は周囲の憧れる美男美女だったからね。
まあ、それはいい。
許せないのは、私をのけ者にしていること!
甘味は私だって食べたいのに!
でも、仕方がない。
私とお館様の関係は公然の秘密。
だから私に知られたくないのでしょう。
知られたらお館様に甘味を取り上げられるから。
腹が立つのはもう一つ。
執事のフレデリックものけ者にされている。
私との関係がバレている?
お館様にはバレていないのに。
お館様は自分に不可能なんてない、みたいな顔をしている。
でも、実際は非常に鈍感な方だ。
私は元々は結構なお貴族様の家柄だった。
今は両親が落ちぶれて人に仕える私。
でも、心は腐っていない。
私の心の中はいつでも美しい貴婦人。
それにこの館で一番賢いのは私。
伯爵夫妻を手球に取るのなんて簡単よ。
だからお館様とはすぐに親密な関係になった。
奥様も公認の。
執事とは秘密の関係を楽しむのも私の特権。
執事との逢瀬は館での毎日のスパイスね。
そして二人して館の帳簿を操作して結構な額を抜いている。
でも、気をつけていたのに使用人たちにバレている。
どこで気づかれたのかしら。
もっと気をつけなくっちゃ。
とにかく、調査結果をお館様に告げ口したところ
「息子が甘味をメイドたちに配っている?」
「はい」
「館の金を使っているわけじゃなくて、自分で稼いだ金なんだろ? 別にかまわんだろ。甘味ぐらい。その甘味、水飴もたいしたことがないんだろ。砂糖ならいくらでも購入できるぞ」
ああ、お館様はよくわかっていないようだ。
どうも水飴を軽くみている。
坊ちゃまは低価格で作っているようだ。
庶民レベルならば皆が欲しがるものなのに。
「庶民が喜んだところでたかがしれてる。まあ、ほっときなさい。ひょっとして話が進展するようなら再び報告するように」
グヌヌとしか言えない。
まあ、あんまり突っ込むとやぶ蛇かもしれない。
今まで通り私は館のお金で砂糖を購入しよう。
そして、メイドたちを『厳しく』指導することでウサを晴らすわ。
さて、誰をいじめようかしら。
【フェーブル伯爵】
いつの頃からだろう。
私の精神力が強化されたのは。
若い頃はひたすら青い感情に包まれていた。
領主たれ、とか
領民のことを考えて、とか。
それが下らないと気づいたのが十年程前。
息子が生まれたあたりだな。
突如、悟りが降りてきた。
私は永遠なる幸福感に包まれ
私の無謬性が確立された。
私はいつでも正しい。
私の判断、行動はこの世界をひたすら改善する。
そう確信したのだ。
その時以来、私は領民や息子が気にならなくなった。
多少は妻には気を回すことがある。
あれはキーキーうるさいからな。
さらにうるさくなるようなら処分も考えなくてはならん。
さて、このところ息子が何かやろうとしている。
上手く私に隠しているようだが甘い。
すぐにメイド長のルイーズから報告があった。
甘味、料理……
なるほど、金になりそうなものを開発していると。
ふむふむ。
さすが、わが息子だけはあるな。
これは大きく花開くかもしれん。
もう少し泳がせるか。
ルイーズは使用人たちからのけ者にされてブーたれていた。
まあ、それは仕方ないだろう。
私との関係は公然の秘密というやつだ。
あの女は私の虜だからな。
魅力のありすぎる男は辛い。




