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館の人々1 メイド達のおしゃべり

「最近さ、ゲレオンが美味しいもの出してくれるでしょ?」


「うん、すっごく楽しみ!」


「あれってさ、レナルド様が絡んでるって話だよ」


「えー、それ本当?」


「噂話なんだけどさ、坊っちゃんは最近台所に毎日のように入り込んでるでしょ?」


「ああ、そうね。でも、ふくよかなお坊ちゃんだからつまみ食いしたいんじゃないの?」


「あのさ。坊っちゃん、最近は急速に痩せてるじゃない」


「うーん、そうね。ダイエットしてるって話だけど。サーブ担当のメイドによると食が細いらしいのよね。訓練も真面目にしてるし」


「訓練っていうか、よく魔物を狩ってくるよね。一角ウサギのステーキって私達にも回ってくるでしょ?」


「あれ、坊っちゃんたちの獲物のわけ? 凄いじゃん。毎日、結構な数を狩ってくるわけでしょ?」


「そうよ。で、その成果がダイエットにつながってるわけね。痩せたら随分とイケメンになってきたわ」


「もともとお館様も奥様もすっごい美形だったらしいから、遺伝したのかしら」


「らしい、じゃないわよ。私はギリギリあのお二人の太る前を知ってるけど、あのエントランスの絵画そのままよ」


「ウッソ。あれ、ただの忖度だと思ってた」


「ああ、それ本当みたいね。他の古参に聞いたことあるけど、お二人は評判の美形だったんだって。ついでに言うと、振る舞いもいい意味で貴族にふさわしかったんだって」


「昔はね、お二人のお姿に憧れて館に就職したがる女性が多かったんだけどね」


「えー、信じられない」


「え? じゃあ、今は悪い意味で?」


「まあ、大きな声じゃ言えないけど、今はそれ以下ね。詐欺だって言ってるわ」


 彼女は豚とガマガエルの鳴き声の真似をする。


「あー、それもっとこっそりとやんなさいよ。見られたら火魔法で燃え尽くされるわよ」


「自分のことだなんて思わないわよ。特に奥様は。ナルかなりはいってるもの」


「……まあ、いいわ。私もちょっと同意する。でね、そもそもお坊ちゃんだけじゃなくて、例の二人もここんとこ大人しいわよね」


「そうね。昔だったら坊っちゃん達とすれ違おうものなら身構えたけど」


「後ろから抱きつかれるとか、スカートめくられるとか、押し倒されるとか、セクハラ大魔王だったもんね」


「そうよ。でも最近はいやらしい目を見せないし、そもそも目に理性というか知性があるのよね」


「ああ、前なら目から気持ち悪い光はなってたもんね」


「うん、キモブタだった」


「これこれ」


「あ、いけない。つい」


「それとさ、キーキー暴れたりもしないよね」


「ああ、坊っちゃんって、話が通らないと床に転がって◯の鳴き声をあげてたもんね」


 ◯には豚とかの文字が入る。


「そうよ。もううんざりしてたわ」


「今はすっかりなくなったよね」


「油断させてるとか」


「領軍の指揮官や兵士とも最近はすごく仲がよくて、彼らと真面目に訓練してるでしょ」


「昔は訓練から逃げ回ってたのに」


「ちょっと厳しくすると癇癪かんしゃくだったしね」


「そうよ。辺境伯邸での婚約破棄にまつわる決闘話。ザマープークスクスって感じっだたのに」


「一時は大盛りあがりっだったわよね」


「ひょっとしたら、あれ以来かしら? 坊ちゃまたち、変わったのって」


「反省した?」


「まさか」


「ありえない」


「そういえば、懇親会から帰ってきたとき。坊っちゃん、『ただいま、ご苦労さま』って私達を労ってたよね」


「そうそう。驚いたわ。でも、それ以来、振る舞いがぐっとジェントルマンみたいになった感じ」


「そう言われれば。私はいまだに身構えるけど」


「でさ、話を元に戻すけど。ゲレオンが開発してる食品、坊ちゃまも噛んでるって話あるよね?」


「うん。そもそも一週間に一回ぐらいとはいえ、料理人風情があんなに高価そうな食べ物を振る舞うっておかしいでしょ?」


「だよね。最初に食べさせてもらった水飴だって、市場で売ったらいかほどの値段がつくやら」


「そうよ。しかも次々と新メニューを出してくるけど、とっても美味しいうえに案外材料費が高そうなのよ。油とかさ」


「なるほど。お館様は超のつく吝嗇家りんしょくかで有名。坊っちゃん主導っていうか、お館様に内緒だから出せるってわけね?」


「そうね。週に一回ぐらいしか味わえないけど、あの甘味、食べると体調良くなる気がしない?」


「ああ! そうそう! 疲れてもシャキッとするわ」


「風邪気味かな? と思ってても瞬時に治る感じ」


「頭痛とか鼻水・咳とか止まるよね」


「薬師の回復薬とかいらないわ」


「そうよ。あれって結構効くんだけど、高いのよね」


「初級回復薬が一万ギルでしょ。私達の一ヶ月のお給金が十万ギルぐらいなのに、そんなに出せないわ」


「そうよ、そこから部屋代と食費を引かれるのよ。親に仕送りして殆ど残らないんだから」


「でもね、なんで坊っちゃんが前面にでてこないの?」


「わかんないけど。ドヤ顔しても変じゃないよね」


「そこなのよ。最近の坊っちゃんの変化を見てると、随分とまともなのよね。だから、過去の自分を恥ずかしく思ってるとか」


「私、領軍の訓練風景ちょっと見たことあるんだけど、指揮官のレポルト様たちが説教をしてるのよね」


「説教って教会の訓話みたいなやつ?」


「そうよ。それを坊っちゃんはじめみんながしみじみと聞いてるのよ。泣いてるときもあるのよ? 私、見たときはびっくりした」


「道徳的なものとは程遠かった坊っちゃんが。やっぱり変わったってのは本当なのかしら」


「仮に性格が変わったというのなら、昔を反省してるっていうのも確かかも」


「振る舞いといい、状況はあってるわね」


「だからさ、罪滅ぼしみたいな意味で新メニューを出してるのかも」


「そうなの? 勘ぐりすぎじゃない?」


「昔なら何入れられるかわからないんだけど、料理人のゲレオンはそんなことしないでしょ」


「坊っちゃんが何か企んでいたとしても、ゲレオンは拒絶するか」


「ゲレオンは料理命のドワーフだからね。プライドにかけてしないでしょ」


「じゃあ、安心して新メニューを楽しんでもいいのよね?」


「そういうこと? 正直、まだ私は信用しきれないんだけど」


「じゃあ、貴方は新メニューなし。その分私が増量してもらうから」


「ああ、今の発言なしなし」



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