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料理をどうにかしたい① 家人を籠絡

「坊っちゃん、なんだこれ。物凄く甘いじゃないか!」


「そうですよ! 美味しすぎてペロペロが止まりません!」


 俺は水飴を作ったのだ。

 水飴なんざ、小学校の実験レベルだ。

 ジャガイモと麦芽で簡単にできる。

 でも、ガッキーズの二人は大騒ぎだ。


 とにかく、俺はこの世界の食事に不満タラタラだ。

 俺は食事にうるさいほうじゃない。

 しかし、グルメ王国日本から転生したんだ。

 この世界の食事は不味すぎる。

 苦行に近いんだ。


 だから、俺は決心した。

 食事を改善する。

 水飴がこの世界のグルメ化第一番めだ。


 

 このグルメ化計画にはもう一つの意味がある。

 仲間を増やす。


 俺に課せられた唯一の破綻回避策。

 ガッキーズ、父ちゃんズ、領軍兵士。

 仲間認定できる人たちが増えてきた。


 次の仲間候補は料理人のゲレオンだ。

 ゲレオンはドワーフ。

 やはり、異世界らしく亜人がいる。

 他にも獣人とかエルフもいるらしい。


 ドワーフは、通常ならば鍛冶業界に多いんだが、 ゲレオンは酒造りに関心が移り、さらに酒の肴、料理全般と興味が移っていった。


 ゲレオンはモノづくりに最大の関心がある。

 政治的なものには関心がない。

 人間関係にもあまり興味がない。

 だから、伯爵邸でもずっと中立みたいだ。

 伯爵家に興味がないのだ。

 興味があるのはモノづくり。


 ゲレオンと仲良くなってちょっと実験してみる。

 俺の食事関係スキルがどれほどのものか。

 食事を通して使用人達を籠絡できるか。



 最初にも触れたが、この世界で改善したいこと。

 それは食事だ。


 俺はグルメじゃない。

 グルメ雑誌や情報に興味はない。

 行列ができていれば隣の空いている店に入る。

 

 ところが、この世界の料理は全体的に不味い。

 もしくは口に合わない。

 さすが、グルメ大国日本というべきか。

 俺の舌ですら、随分と甘やかされてきたんだな。



 言っておくが、好き嫌いの問題じゃない。

 この世界の料理は絶対レベルが低い。


 まず、主食たるパン。

 黒パンが主流だ。

 黒パンとはライ麦パンを始めとする雑穀パンのことだ。

 酸っぱくて固い。

 まあ、これは好みの問題と言える面もある。


 焼き立てでも随分と固いのだが、さらに数日保存するのが普通だ。

 武器にできるぐらい固くなる。

 固すぎてスープとかにひたして食べる。

 或いは牛乳で煮て柔らかくする。


 パンを皿にすることも多い。

 肉汁などを吸って柔らかくなる。

 そして料理後に食べたり、家畜や使用人に与えたりする。


 そういうレベルのパンを食べるんだ。



 小麦パンもあるが、たいていは全粒粉パンだ。

 色が茶色っぽい。

 食感がパサパサ。

 砂が入っていることも多い。


 フランスパンのようなハード系、つまり小麦と塩、水だけでパンを作るうえに、数日間保存するのが一般的だ。

 だから、これまた人を殴れるぐらい固い。



 最悪なのは肉だ。

 干し肉か塩漬け肉のいずれかである。

 まず、異常なほど塩っぱい。

 そして、臭い。腐っている。


 冷蔵庫なんかないんだ。

 地下室などの保存庫に置きっぱなしになる。

 特に夏の暑い日など、すぐに肉が痛む。


 かと思うと、その日に狩ったジビエ肉。

 鮮度はかなり高い。

 これがこの世界では大層なご馳走らしい。

 みんな目の色を変えて突撃してくる。


 フォークと食事用ナイフはそのために開発された、という逸話もあるぐらいだ。

 それまでは普通のナイフで切り合っていたため、食べるときには血まるけということが日常的だったらしい。


 でも、俺に言わせるとこれまた固すぎる。

 脂肪分がなくて熟成も進んでいないからだ。

 しかも血抜きが不十分で臭い。

 味もやけにさっぱりしており味気ない。

 ジビエ肉は寝かせないとこうなる。



 果物は強烈に酸っぱいものが多い。

 野菜はこれまた固くて青臭いことが多い。


 魚は伯爵領では川魚が食べられるが、貧民の食材とされている。

 貴族や富裕層は食べない。

 食べても、鮮度が落ちて目が濁った魚だ。

 食べるのが怖い。



「坊っちゃん、まだ昼間の影響があるんか? 食が進まんが」


「そうですよ、お坊ちゃん。今日の鹿肉、とれたてのご馳走じゃないですか」


 転移した日の辺境伯邸での晩餐での会話だ。

 心配した目でガッキーズが俺を覗き込んでくる。


「ああ、ちょっとな」


 俺はそう答える。

 料理が不味いなんて言えるわけがない。

 ここは辺境伯邸なんだ。



 だが、不味い料理はその後もずっと続いた。

 帰りの馬車なんか、固いパンと干し肉だけだった。

 伯爵家に帰るとちょうど両親の夕食時だった。

 俺は食卓に並んだ料理を見て絶望した。

 辺境伯邸レベルの料理だったのだ。


 俺は随分と少食になった。

 今までよく生きてこれたな、ってレベルだ。

 だから、俺はみるみるうちに痩せてきた。

 修行の厳しさゆえもあるんだが、運動と食事制限の理想的な組み合わせでちゃんとダイエットしたようになっている。


 体重計があるわけじゃないが、転移時の俺は身長百五十cmに対して体重は六十kg以上は楽にあったと思う。何しろ、目が脂肪で潰れているレベルだった。


 それが今は五十kgは楽に切ってるはずだ。

 顔が随分とシュッとしてきた。

 服も2サイズほど細くなった。



「坊っちゃん、最近痩せてきて男前になってきたな」


「坊ちゃま、案外いい男だったんですね」


 ガッキーズの二人はそう言ってくれる。

 ダイエットのせいで体調が悪いということはない。

 だるさはない。

 むしろ、以前よりも調子がいい。

 体の芯から活力が湧いてくるようだ。


 だからといって、苦行の時間は我慢できない。

 早く改善したい。


 そこで冒頭に戻る。



「坊っちゃん、なんだこれ。物凄く甘いじゃないか!」


「そうですよ! 美味しすぎてペロペロが止まりません!」


 俺の作った水飴。

 この世界のグルメ化計画第一弾。


 俺は女神から授かった「料理技術」を紐解く。

 そして、今の俺でも簡単にできそうなものを探す。

 とりあえず目星をつけたのが『麦芽糖』。

 水飴である。


 水飴に決めたのは女神様の料理マニュアルに載っていることもあるけど、俺が小学校のときに作った記憶がある、作り方の簡単さからだった。


 あのときは大根とジャガイモを使った。

 ちょっと大根くさい水飴ができた。


 今回は大根じゃなくてちゃんと麦芽を使う。 

 麦芽はエールを作るときに必要だから、材料には困らない。

 材料はデンプンと大麦。


 デンプンは馬鈴薯じゃがいもに似た芋を使うことにする。

 この世界での名称があるが、馬鈴薯じゃがいもと呼ぶ。


 ちなみに、他の植物も同様だ。

 前世の名称で呼んでいるが、当然この世界での名称があり、似たような前世の食材に相当させている。


 馬鈴薯じゃがいもはこの世界では貧乏人の食い物である。

 なぜか地中にあるものは敬遠されるのだ。

 ただ、野良馬鈴薯は簡単に見つかる。

 

 大麦に水を与えて発芽させ、乾燥させる。

 麦芽のできあがりだ。

 伯爵邸の料理人は自分でエールも作る。

 麦芽は簡単に手に入るのだが、とりあえず自分で作ってみる。


 水飴の製作は難しくない。

 作り方はこうだ。


 抽出した液体をしばらく放置する。

 ↓下に白いものが沈殿する(デンプン)。

 ↓上澄みを捨てて新しく水を加える。

 ↓加熱する。

 ↓粘り気が出たら、加熱終了。

 ↓そこに麦芽を加え、手早く混ぜる。

 ↓サラサラになってくるのでそのまま放置。

 ↓こし器で濾す。

 ↓加熱して水分を飛ばす。灰汁は取り除く。

 ↓飴色になり水分を飛ばしたらできあがり。



「へえ、簡単なような難しいような」


「ですね。僕達、料理なんてしたことないですしね」


 俺はガッキーズの二人にもレシピを伝授した。

 こいつらにも料理を手伝わせたいからな。

 レシピは信用のおける人物にしか伝授しない。

 この世界ではレシピは黄金の価値がある。

 金貨百枚で取引されることもあるのだ。



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