表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/117

エレーヌ

 ああ、ようやくあの醜い豚と離れられる。

 痛快だったわ、あの婚約破棄宣言。

 あいつの目前で行ってやったときのあの驚愕した表情。

 何回でも思い出せる。

 そのたびにスカッとする。


 もともとが政略的な婚約。

 というか、私が子爵を誘導してしたものなのよね。


 あの醜い豚との婚約はストーリー的に非常に重要なイベント。

 奴を地の底に落としてトラウマを受け付けること。

 それが私の未来につながる。


 婚約破棄については子爵に提案するのは簡単だったわ。

 魔鋼鉱山の奪取計画をほのめかしたから。

 だって、こちらには勇者候補がいるんだもの。


 魔鋼鉱山は伯爵家との長年の懸案事項。

 というか、子爵的に無理筋な問題。

 確かに山の位置は伯爵領と子爵領にまたいでいる。

 でも、鉱石の採れる位置が明らかに伯爵領側。


 それに、伯爵と子爵の戦力差。

 伯爵は王国でも有数の魔導師。

 それに対して子爵はよく言えば文系。

 太鼓持ちで地位を保っているタイプ。

 

 王国には揉めたら武力で決めろという取り決めが根強い。

 でも、武力で戦う必要はない。

 そんなこと闘う前から結果がはっきりしている。


 だから私の提案に子爵は乗り気になったわけ。

 色仕掛けで鉱山を奪い取る。


 乗り気でなくても私には蠱惑スキルがあるけどね。



 でも、あの醜い豚と婚約するというのは本当にきつかった。

 いくらストーリー的に重要だからといっても。

 絶対に我慢がならなかった。


 私の横にはイケメンがふさわしい。

 そしてルックスとともに圧倒的な社会的地位の持ち主の。

 勇者のような。


 だって、私は世界一の美少女。

 この世界の主人公。

 外見も力も肩書もそれ相応のものが必要でしょ。


 ディオンはまだ勇者候補であって勇者ではない。

 私の結婚相手としては今ひとつ。

 でも、ルックスは最上級クラスだ。


 結局、子爵が婚約破棄を承認してくれたのはディオンが勇者候補だから。

 ディオンの将来性に子爵はかけたわけね。

 まあ、そのように蠱惑スキルを使ったのだけど。


 私的には魔鋼鉱山の経済的価値も重要。

 でも、それ以上に魔鋼鉱山の『魔杖』がどうしても必要。

 

 私の中には神聖魔法が眠っているはず。

 魔杖はそれを最大限にパワーアップしてくれる。

 そうすれば、仮にあの豚が魔王になったとしても十分対抗できる。


 あ、普通にゲームを進めれば、レナルドはどんどん発狂していって領民に過酷なことをやりつくしたあと、領民の一揆→火炙りの刑に処せられるのよね。


 でも、生意気にも魔王ルートもある。

 こっちの確率も決して低くない。

 あいつがやる気を見せれば恐怖の大魔王になってしまうのだ。


 その場合、討伐できても大被害が王国にもたらされる。

 できれば避けたいルートなのよね。



 あと、婚約した目的は伯爵家に代々伝わる地下室の秘宝。


 伯爵邸って案外歴史が長い。

 数百年前に建築されたといわれている。

 以前の所有者が賢者と呼ばれた魔導師らしい。


 その彼が収集したという設定の秘宝。

 それは

 中級回復魔法魔導具、中級清浄魔法魔導具、

 中級マジックバッグの三つの魔導具セット。

 それと天界言語巻物中級編。


 聖女セットと呼ばれている。

 もちろん私のためのもの。

 私は世界一の美少女。

 ゆくゆくは大聖女として世界中から崇められ称賛される存在。


 その第一歩がこの地下室にある。

 特に重要なのが中級回復魔法魔導具ね。

 私は初級回復魔法が少しだけ使える。

 訓練を重ねればどんどん上達していく。

 でも、訓練はだるいし気持ち悪い。


 回復魔王の訓練って前世のお医者さんと同じ。

 人体構造を知るために死体を解剖したりする。

 血まるけの怪我人をおさえつけて治療したりもする。

 そういうことを何度も何度も繰り返す。


 できるわけないじゃん。


 そんな訳のわからない訓練はやめる。

 そのかわり中級回復魔法魔導具を使う。

 一気に中級回復魔法を使えるようになるのだ。


 そして、これらの魔導具は将来的に上級魔導具にバージョンアップする。


 また、天界言語巻物中級編は辺境伯邸の図書室にある天界書を紐解くための重要な翻訳ツール。

 私が特級の魔導師になるための第一歩の巻物。


 これらのおいてある地下室。

 場所を特定しておく必要があった。

 このイベントは伯爵一家が外出している僅かな時間で取得しなくちゃいけない。

 家の中をうろうろしていたら、すぐに家人に見つかってしまう。


 だから、伯爵家訪問時にトイレ行くような顔して家の間取りと地下室の場所をチェックしておいた。


 この間取りはゲームでもやり直しの度に変化する。

 事前にチェックすることが必須なのだ。


 

 さて、婚約を破棄してからは密偵を派遣した。

 一家が外出する日取り・時間帯を調べるために。


 決行日。

 私の手にあるのは気配消去魔導具と鍵開けの魔導具。


 子爵は先祖をたどるといわゆるシーフだった。

 まあ、有り体にいって泥棒。


 でも、私は義賊。

 だって、悩める愚民に癒やしを与える存在だから。

 しかも美少女怪盗。

 キャッ◯アイって古いアニメがある。

 あれって、私がモデルかも。


 この魔導具があるから婚約破棄に踏み切れた。

 私自らこっそりと伯爵邸を訪問して地下室を探せば良い。


 間抜け顔した勇者を護衛に誘って。

 理由も詳しく言わなかったけど。

 流石、私の蠱惑スキル。

 すぐにできる番犬の顔をして私についてきてくれた。



 伯爵邸にはするすると入っていけた。

 あ、ここは私だけで。

 ディオンは丘で待機。

 気配消去魔道具の都合上ね。


 でも、気配は完璧に隠すことができるし古い建物の鍵なんて大した事ない。


 それにしても、伯爵邸って臭いわ。

 なんていうの?

 私がブサイクになるような気がする。

 あの醜い豚が生活しているかと思うと。


 我慢しなくちゃ。

 ハッチには隠蔽魔法がかかっている。

 これは一種の鍵魔法。

 でもこの魔導具は魔法鍵だってバッチリの代物。

 だから、簡単に突破することができた。


 この倉庫のハッチをあけて。

 そろそろと下に降りていく。

 うふふ。

 この先ね。



「うそ。どこにもない!」


 目的のものがない。

 ゲームでは薄く発光していたはず。


 パニクった。

 でも、ないものはない。

 なんで。

 どうしよう。


 地下室に時間をかけられない。

 気配消去魔導具には時間制限がある。

 魔石が切れちゃう。

 ここを早く離れなくちゃ。


 頭が混乱したまま私は地下室を抜け出した。

 後ろ髪を引かれる思いで。


 どうしよう。

 こんなことゲームでは遭遇したことなかった。

 時間制限超過したことはある。

 でも物がおいてないということはなかった。


 ということは伯爵家の誰かが使っている?

 それとも元からなかった?

 あるいは場所を移動した?


 あまりにも痛すぎる。

 でも、ムリにでも気持ちを整理して前に進もう。 

 どうやってカバーすべき?

 ああ、ダメ。

 頭がグチャグチャでどうにかなりそう。

 

 もう伯爵家には用はないわ。

 早く子爵をたきつけて魔鋼鉱山を占領しなくちゃ。

 鉱山の隠し部屋にある魔杖を手に入れなきゃ。



『ピー!』


 ところが地下室を出たところで警報音が鳴る。


 魔導具の魔石が切れかけている!

 そんなに長く地下室に滞在したの?

 ああ、ショックで呆然としてしまったから?


「侵入者だ!」


 伯爵邸に残っている家人が騒ぎ始めた。

 侵入警戒の魔導具に引っかかったようだ。

 マズイ。


 私は人生初めてってぐらいの猛ダッシュをした。 

 大急ぎで伯爵邸を抜け出した。

 ああ、もっと運動しとくべきだった。

 私、運動大嫌い。

 脚が痛い。息が切れる。胸が張り裂けそう。


 でもあの丘の麓までたどり着ければディオンがいる。



「キャッ」


 盛大につまづいた。

 顔から泥の山につっこんだ。

 

 と思ったら、何やら臭い。


「嘘でしょ! これ馬◯?」


 私は馬の◯の山につっこんだようだ。

 信じられない。

 ありえない。

 最悪。

 ホント、今日は最悪。



「ワンワンワン!」


 犬にも追いつかれた。

 痛い、痛い、犬が私に噛みついてくる!

 痛い、痛い、そこ大事なお尻!

 

「スリープ!」


 ディオンが駆けつけて犬にスリープかけてくれた。

 あんなのぶっ飛ばしてしまえばいいのに。


 でも、ディオンはできる男だ。

 私をおんぶして最速のダッシュで逃げ出した。


 馬◯で臭いのに。

 間抜け顔なんて言ってごめんね。

 早く身体を洗いたい。


 噛まれたところが痛い。

 しかも、お尻!

 やはりエロガキ家の飼ってる犬だけあるわね。



 私は回復魔法が使える。

 でも、まるで訓練していない。

 初級中の初級レベルでしか使えない。

 つまり、この傷跡に魔法をかけても全然治らない。

 一週間ほどは熱が出て寝込んだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ