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父ちゃんズ2&スキニーの独り言

【父ちゃん クレール・レポート】


 残念ながら先代お館様は数年後になくなられた。

 亡くなる直前にお館様からは息子・ディオールを頼む、と懇願された。

 儂らは伯爵の嫡男であるディオール様にも忠誠を誓った。


 ディオール様は当初はまともなお人柄であった。

 美しく、誠実で誰もが称賛するタイプであった。


 だが、長男であるレナルド様が生まれた頃だ。

 どういう加減かぶくぶくと太り始めた。

 同じく美貌を称賛された奥様と同様に。


 そして、外観だけでなく内面も醜い有様になった。

 領民・家人に酷い態度をとるようになったのだ。

 儂らは何度か現お館様に諫言かんげんをした。

 だが、まるで響かなかった。

 むしろ、怒り狂い、儂らを遠ざけるようになった。


 儂らは職を辞すことも真剣に考えた。

 だが、先代お館様から頼まれたのだ。

 息子を頼むと。


 だから、ずるずるとここまで来てしまった。



 困ったことがもう一つある。

 その息子であるレナルド様がかなりの悪ガキに成長している。

 やはり父親に見習ったということか。

 領民や家人からそっぽを向かれる有り様だ。


 そして、レナルド様と兄弟のように育った儂らの息子、ジャイニーとスキニーも悪ガキに成長している。

 事あるごとに指導はする。

 だが、坊っちゃんの手前強く当たれない。

 息子たちも柳に風って感じだしな。


 儂らは頭を抱えた。

 このままでは伯爵家は破滅する。

 先代お館様からまかされた伯爵家は領民からの反感を買って滅びる。


 その予想は確信に近いものがあった。

 そして、その未来に儂らだけでなく子供たちも巻き込まれる。



 そういう焦りの中での光明。


「俺達に剣を教えてほしい」


 坊っちゃんは儂らに剣の指導を求めてきた。

 しかも精神修行もやって欲しいという。


「三人共に剣士スキルが発現したんだ。この機会を逃したくない」


 剣士スキルはボーッとしていては発現しない。

 影で努力をしていたのであろうか?

 

 儂らは希望に燃えた。

 そして、その光明はますます光輝いている。


 三人ともに剣士スキルが発動しただけはある。

 儂らのシゴキにも問題なくついてこれているのだ。

 それに剣の上達は驚くほど早い。



 さらにだ。

 坊っちゃんたちは剣の修行のあと、瞑想なるものをし始めた。

 クーリングタイムだとか言っているが。


 当初は筋肉を休めるのにちょうどいいんだ、なんて言っていたが、儂らの目はごまかされない。

 瞑想をしているときに体が白く発光する。

 あれは魔力だ。

 体から魔力が溢れているんだ。

 とんでもない量だぞ。


「坊っちゃん、その魔力量は?」


「え、わかる?」


「わかるも何も、魔力が体から溢れて体が発光してますぞ!」


 ある程度の魔法に習熟したものなら、誰でも他人の魔力の動きを見ることができる。


「ほら、このまえ辺境伯邸に行っただろ? あのとき、図書室で偶然本を見つけてさ。その内容を実践してたら、こんなに」


「坊っちゃんが、本を読む? あんなに本嫌いだったのに」


「はは……言っただろ。俺達は反省したって」


「それにしても、あまりに急な変化で」


「うーん、神の啓示があった、っていうと信じられる?」


「いや、信じますぞ。神の啓示が辺境伯邸でおきたっていうことですか」


「絶対、内緒にしてほしいんだけど、夢の中に出てきたんだよ、女神様が」


 坊っちゃんはとんでもないことを言い出した。

 以前ならば、何を馬鹿なことを、となったろう。

 しかし、すんなり納得することができた。

 眼の前のとんでもない魔力量がそう信じさせるのだ。


 今回じっくりと坊っちゃんと話してみた。

 以前とはまるで別人のように感じる。

 子供っぽさを感じなかった。

 大人と話しているみたいだ。


 しかも、突然剣士スキルを身に着けた。

 瞑想なる魔力増強方法も習得していた。


 女神様の何らかの影響があった。

 そう考えるほうが腑に落ちるというもの。


 女神様は女神教会の信仰する神だという。

 で、女神教会へ訪問することになった。

 無論、儂らの護衛付きである。

 スラム地区に位置しているからな。



 そのあと、懇願して瞑想を教えてもらった。

 これがすごい効果だった。

 一週間ほど毎日の訓練に取り入れてみた。

 その結果、魔力が体の奥底から湧き上がるような勢いを感じる。


 冗談抜きで、この魔力があれば儂らは王立騎士団でも相当な地位にいけたのでは。


 実際、儂らは魔法を剣に纏わせて訓練場のカカシを両断することができる。


 カカシは魔力により防衛されてある。

 騎士団員たちでも両断できるメンツは少ない。

 そのカカシを儂らは両断する。


 王立騎士団でもトップクラスの実力が身についた。

 そういうことだ。

 

 

 その後、領軍の兵士たちにも瞑想をやらせた。

 領軍兵士に瞑想の時間が取り入れたのだ。


 兵士たちも喜んでいた。

 当初は厳しい鍛錬の時間の一部を楽できると思っていたと思う。

 しかし、すぐに気づいた。

 自分の魔力が爆上がりしていることを。


 そうなれば、瞑想が楽しくて仕方なくなる。

 魔力が増えてくると精神も鍛錬されるのか、訓練が楽しくなってくるのだ。



 また、坊っちゃんのリクエストで不肖儂らが説教を行うことになった。


 儂は騎士団では小隊の隊長クラス、今では領軍の指揮官である。

 部下に檄を飛ばすことは慣れている。


 だが、坊っちゃんは教会の神官のような話をしろという。

 深い精神性のある話だ。


 ちょっと儂らの手に余る。

 力不足すぎるとは思ったが、坊っちゃんはぜひ、と言う。


 ええい、ままよ、と説教をしてみるのだが、坊っちゃんや儂らの息子、そして部下に対しても案外好評のようだ。


 それどころか、精神異常耐性が発現したようだ。

 儂らの説教が辛くてそんな耐性になったのか。

 当初はそういぶかしんだ。

 しかしそうではなく、儂らの説教が精神的な落ち着きを与えているからだという。


 こそばゆいような誇らしいような気分だ。


 そういえば、ジャイニー、儂の息子など、煽るとすぐに怒る単細胞だったんだがぐっと大人になってきた。


 などなど、少し前を考えると儂らの環境は短期間に驚くような変化を見せている。勿論、いい方への変化だ。



【スキニーの独り言】


 またやってしまった。

 先日のスライム戦だ。

 僕は昔からそうだ。

 二人の足手まといばっかりしでかす。


 僕は身体が小さい。

 運動も得意とは言えない。

 だから三人で何かするときは僕がヘマをすることが多い。


 そうなると二人して僕をからかう。

 でも、そのからかいは僕の気を軽くするためのものだって知ってる。

 そして、そのあと必ず二人のフォローが入る。


 坊ちゃまもジャイニーも普段は暴れん坊だった。

 本当の悪ガキだった。

 でも、僕をおざなりにしたことはなかった。

 必ず、僕の味方をしてくれた。


 以前、街の子供たちを喧嘩になった。

 きっかけは、僕が道でころんだことだ。

 それを見た街の子供たちが大笑いし、散々嘲った。


 坊ちゃまは激怒した。

 それで喧嘩になったんだ。

 そのとき、ジャイニーはいなかった。

 それでも坊ちゃまは集団に向かっていった。

 当然、ぼこぼこにされた。


 そのことを館で黙っていた。

 ころんだとか言って。

 そして、次の日ジャイニーを誘って三人でリベンジした。

 今度は完勝した。

 

 あのときは僕達の結束を感じたものだ。


 でも、そのときでも僕は足手まといだった。


「スキニー、そんなことないぞ。お前はお前で頑張ってるんだから」


 坊ちゃまはそう励ましてくれる。

 坊ちゃまは僕には昔から優しかった。


「それに、お前は物知りじゃないか」


 体力面では足手まといの僕。

 少しでも二人の役にたちたくて、僕はしょっちゅう本を読んでいた。

 特に、伯爵邸の図書室は本が多かった。

 貴重な本なのに、坊ちゃまは気軽に本を貸してくれた。


「見つかると叱られるから、しっかりと隠すんだぞ」


 そう言われると僕も困るけど。


「どうだ、スキニー。役に立つ本があったか?」


「うん。ためになるのがたくさん」


「そうか。俺達は勉強嫌いだからな。その方面はスキニーにまかせるぞ、なあ俺達の参謀」


 冗談だと思うけど、坊ちゃまは僕のことを参謀と呼ぶことがある。

 身に余る光栄なんだけど、とてもじゃないが参謀なんて僕に釣り合わない。


 でも、虚弱な僕をカバーし少しでも二人の役に立つため、毎日勉強を欠かさない。



 それと、坊ちゃまが僕に授けてくれた剣士。

 ()付きで拳士ともある。

 虚弱な僕なのに?


「いや、スキニーは力は弱いが、かなり素早いだろ。それを活かして頑張れば、案外おもしろい実力を身につけるかもしれないぞ」


 そう坊ちゃまに言われている。

 確かに、僕は小回りがきくとよく言われる。

 

 力が足りなくても素早さに特化すれば、うまく立ち回りができる。

 僕は最近そう感じ始めている。

 今回は虚をつかれて醜態をさらしたけど、次回はもっとうまく立ち回って見せる。



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