周囲の反応・父ちゃんズ1
【ジャイニー】
レナルド坊っちゃん、スキニー、そしてオレ。
三人は小さい頃からの馴染みだ。
日が出ているときは用事のない限り一緒にいた。
親といるよりも一緒にいる時間が長かった。
まるで兄弟のように成長してきた。
長子的ポジションはレナルド坊っちゃんだ。
オレとスキニーの父ちゃんがレナルド家、つまりフェーブル伯爵家に仕えている。
領軍の指揮官待遇だ。
だから、レナルド坊っちゃんが一番上だ。
でも、最低限の敬意は示すものの、ほぼ同格の友達のようにやってきた。
オレの場合は、坊っちゃん、と呼ぶが、坊っちゃんに対して敬語はまず使わねえ。
敬語が苦手ってこともあるが。
スキニーはオレよりも言葉使いが丁寧だ。
坊っちゃんに対しては坊ちゃまだし、ずっと敬語で話す。
もっとも、スキニーは俺に対しても敬語だ。
三人でいるときはとても楽しい。
小さい頃から悪さばっかりしてきた。
でも、大抵のことには怒られない。
だから、ちょっと奢ってしまったのかもしれねえ。
ある日、坊っちゃんが衝撃的な告白をした。
坊っちゃんは女神様から御神託を受け、このままだと領民が一揆を起こし、火炙りになると言われたと。
俺達も命を奪われるらしい。
火炙りルートじゃない場合は、魔王になるとか。
俺達は悪の四天王の一角だ。
そうならないためには、仲間をたくさん作って環境を改善していくしかねえ。そう女神様から言われたと坊っちゃんは告白した。
ただの夢だ、と笑い飛ばしたいところであった。
しかし、坊っちゃんのスキルがすごかった。
なんと、坊っちゃんは四属性魔法を使ってみせた。
そして、オレ達にも魔法を植え付けた。
しかも、女神様の加護付きときた。
自慢じゃないが、俺達は勉強・魔法と剣の訓練、大嫌いだ。
だから、頭は悪いままだし、魔法も剣も劣等生だ。
坊っちゃんもそうだった。
ところが、坊っちゃんは女神様から御業をもらったという。
俺達も坊っちゃんの言う通りにやってみた。
即、俺達は魔法使いになった。
それだけじゃねえ。
俺達は剣士にもなった。
坊っちゃんがオレ達にスキルをつけてくれたんだ。
とんでもねえぞ。
人にスキルを発現させる。
教会の高官クラスでもできねえ。
『グル』スキル。
女神様から授かったスキルなんだと。
俺達は契約魔法を結んだ。
秘密を守るように。
そりゃ、そうだ。
こんなことが世間に広まったら、坊っちゃんは大変なことになる。
坊っちゃんは言ってた。
火炙りじゃなければ、魔王になるかも、と。
そう女神様に予言されたらしい。
オレ達はかなりの悪ガキだ。
領民から憎まれている。
その上に教会の高官でも無理なことを簡単にやってしまう。
このままだと周りからどう見られるか。
確かに、そう言われるとそうだ。
神様じゃない。
魔王だ。
そして俺達は魔王に仕える四天王だと。
だから、俺達は作戦を練った。
周囲の好感度上昇作戦だ。
とは言うものの、オレは何をしていいかわからん。
坊っちゃんも困ったと言ってる。
こういうことに頭の回るスキニーも同様だ。
とにかく父ちゃん達から指導をうけることにした。
心身ともに鍛えてもらうためにだ。
ちょっと前なら嫌で仕方がなかった。
剣の稽古。
それと父ちゃんの説教。
今は不思議と積極的に受け入れられる。
説教時間は時々寝たりしてるけどな。
スキルを得たときに、心構えにも変化がおきたのか?
今は厳しくて毎日がヘトヘトなんだが、かなり楽しい。
心身ともに強くなることが嬉しいんだ。
少し前なら考えられない。
まあ、この前はスライム相手にやらかしたがな。
父ちゃんズに大目玉くらって大変だった。
【父ちゃん クレール・レポート】
坊っちゃんがある日、儂らに頼み事をしてきた。
「剣の指導を再開してほしい」
一瞬、儂の聞き間違いかと思ったぞ。
「ええ。以前は癇癪起こしてしまって見苦しいとこを見せてしまったが、今回は真面目にやろうと思っている。あ、君たちの息子も一緒にな」
聞き間違いではなかったようだ。
坊っちゃんは健気なことをいう。
というか、口調が随分と大人びている。
儂は訝しみ、どういう風の吹き回しかと尋ねると、
「実は俺達には剣士のスキルが芽生えているんだ。遠慮はいらん。ビシビシ鍛えてほしい」
剣士のスキル? いつの間に。
しかも、儂らの息子にもか。
偶然にしてもできすぎじゃないか?
何にしても剣士スキルがあるんだという。
多少の無茶はゆるされるだろう。
儂が修行は厳しいことを伝えると、
「問題ない。それと、合わせて修養もな。俺達は生まれ変わる必要がある」
なんと、坊っちゃんは修養も要求してきた。
「俺達は気づいたんだ。今までの俺達はクソだったてな。恥ずかしくてたまらん。だから、精神修養も合わせて行って、立派な剣士に仕立ててほしい」
儂は感激した。
いつのまに、坊っちゃんはこれほど成長したんだ。
しかも、儂らの子供たちも同意していると。
儂はもともと王立騎士団に勤めていた。
剣の腕はそこそこであったが、魔法に難があった。
だから、出世が芳しくなかった。
ということで、儂は騎士団でくすぶっておった。
そんなときに先代の伯爵に声をかけられた。
儂の騎士道精神が見込まれたんだ。
儂は自分の騎士道精神が優れているとは思わん。
だが、そう見込まれたのは嬉しかった。
認められた気がした。
そう声をかけられたのは儂だけじゃなかった。
騎士団の同僚にも声がかかった。
セザール・アレオン、スキニーの父親である。
セザールも儂同様に魔法の力が不足して少し不遇をかこっていた。
儂らはすぐに決断した。
先代お館様に忠誠を誓うことを。
こうして、儂、クレール・レポルトは伯爵領の領兵を率いることになった。




