対策会議2
「経緯は以上だ」
俺は領主代理会議を開いた。
出席するのはもちろん、ガッキーズの二人、領軍司令官と副司令官だ。
「なるほど。確かに変だとは思ってましたな。以前はものすごい美少女に見えてたのが、ある日を境にまるで魅力が見えなくなってしまいましたもんな」
「そうだぜ。成長過程の女性にはたまにある、なんて理由付けしてたけどよ、なんだよ。あの女、オレたちに魅惑スキルを使ってたんか」
「厳密には魅惑より上位スキルの『蠱惑』らしい」
「魅惑だとステータスに状態異常として載るということですよね。それが蠱惑だと載らないと」
「そこも厳密に言うとだ、透明ながら載ってるらしいぞ」
「で、その状態異常が消えた理由は、坊っちゃんが『女神の加護』を受けたことにあると」
「ああ。さらにおまえらも『女神の加護(小)』を受けたからな。あと、女神教会の三人も『女神の加護』を受けているし。俺達を中心にどんどんと状態異常が解消されていったわけだ」
「それにしても、あの女にそのスキルを与えたのが、悪魔だって?」
「マルコシアスが言うにはな。まあ、奴らは堕天使って存在らしいが」
「奴も結構上位の悪魔なんだろ? そいつよりも上位なのか」
「らしいな」
「やばすぎんだろ。マルコシアスだって、普通の人間だと相手にならんかったんだぞ。坊っちゃんだから対抗できただけで」
「マルコシアスが言うにはだ。やつの影響力を削いでいくのが先決らしい」
「影響力を削ぐ?」
「王国には蠱惑をかけられたものがわんさかいる。その数に比例して、悪魔の力は増大するらしい」
「なるほど。蠱惑を消していくわけか」
「蠱惑は呪いだから、解呪していくことになる。方法としては、女神教会の使徒契約を結ぶとか、俺達が積極的に交友していくとかだが」
「時間がかかるな」
「でな、もっとも効果的なのは、上級清浄魔法をかけること。特に、ブランシェ。彼女の清浄魔法はほぼカンスト状態らしい。広範囲にわたって清浄魔法をかけることができる」
ブランシェは例の魔杖と真実教会本部の地下室にあった書籍を得たことにより、魔法がバージョンアップしていた。
「広範囲って?」
「やってみんことにはわからんが、フェーブル街程度なら1発で清浄化できるとよ」
「うお、凄すぎんじゃね? 聖女様どころか、大聖女クラスじゃねえか」
「じゃあ、早速清浄化してもらえば」
「いや、早まるな。残念ながら、ブランシェは学院を追われた身。下手に動くと逆効果になりかねん」
「じゃあ、次は?」
「少しずつ、味方を作るぞ。次はルサージュ公爵閣下だ」
◇
「ほう。あの娘にそんな秘密があったのか」
ここはルサージュ公爵邸。
ブランシェの実家だ。
「閣下、確実ではありません。状況からそう判断したまで」
閣下と呼ばれる相手は辺境伯だ。
わざわざ辺境伯領から起こし頂いた。
「いや、君たちの疑念はもっともだ。私も当初から彼女に関しては不思議に思っていた。なぜ、あんなに評判がいいのか。失礼ながら、ごくごくありふれた女性に見えていたからな」
どうやら、辺境伯閣下にはエレーヌの蠱惑が効いていないようだ。
「で、どうだね? レジェ子爵」
この場にはエレーヌの養父であるレジェ子爵も呼んである。
「衝撃的です。私は今まであの娘に騙されていたとは」
隣に座るのはブランシェ。
彼女が清浄魔法を二人にかけたのだ。
「ブランシェが君を誘導しているとは思わんか?」
「いや、何か私の胸に刺さっていたトゲのようなものがスーと消え去るのをはっきりと実感しました。途端に曇っていた視界が晴れ渡るような気分になりました。明確に理解しました。私はあの孤児院で彼女にあった瞬間から彼女に騙されていたことに」
「ほう。そんなにはっきりとわかるものなのか」
「はい。あくまで私個人の話ですが」
「これならば、王室に相談する価値はありそうだが」
「公爵閣下、どうでしょうか。学院で私と仲のいい友人に第2王子がおります。彼は聡明で公平性に富んだ人物に見受けられます。彼に相談してみるのは」
「ふむ。私はとかく王室とは対立状態にあると見られておる。私も情報収集をしてみるが、君のほうでもその線で進めてくれるか」
「承知しました」
◇
「王子、まことにありがたい情報でございます」
これは王室で雇用されている鑑定士だ。
王国でも鑑定士の第一人者として知られている。
「そうなの?」
そう返事をするのは第2王子。
レナルドから相談を受けて、鑑定士に話をもっていっている。
「ええ。健康診断で王室のかたがたが何かに汚染されているのが判明していたのです」
「汚染というと」
「精神操作ですね。状態異常のようなものがステータスに載っているようにみえるのです」
「ようにみえる?」
「はい。はっきりとは文字として記載はされておりませんが、それが何か禍々しいものであることは把握できておるのです」
「ほう」
「ただ、何も汚染されたのかは判明しておりませんし、もちろん、解除の方法もわかりませんでした。しかし、それが『蠱惑』ということになると一大事です」
「蠱惑とはそんなに酷いものなのか?」
「ええ。世間一般には魅惑というスキルが知られております。対象を魅了して虜にするスキルですが、ステータスを見ればすぐにバレてしまいます。ですので、瞬間的な時間しか有効性がありません。それに、魅惑スキルを使用すれば火炙りの刑に処せられます」
「ああ。私もそれは知っている」
「しかし、蠱惑は状態異常がステータスに載りません。厳密に言えば、透明の文字で記載されるため、感知が非常に難しいとされておりますが、私はその存在を書籍でしか知りませんでした」
「なるほど。王族の現状と同じというわけか」
「はい。しかもですね、これはスキルより質が悪いですね。『呪い』ですから」
「呪い?」
「そうです。この呪いを発することのできるものは人族には滅多におりません。たいていは『悪魔』が行っていると見られております」
「なるほど。確かに一大事だな。とりあえずは、解呪方法は清浄魔法だということだが」
「ええ。ただ、並の清浄魔法ではダメでしょうね。ここまでとなるとかなり上位の悪魔が呪いを発動していると思われます。最上級の清浄魔法が必要ではないかと」
「幸運にもブランシェ嬢が最上級清浄魔法を放てるらしいのだが」
「うーん、幸運かどうかは……王室的には気詰まりでしょう」
「まあね。でも、王室は彼女に総懺悔しなくちゃいかんだろう。彼女との婚約を破棄し学院から追い出した上に、彼女を暗殺しようとしたんだからね」
「ブランシェ様の清浄魔法を疑うわけではありませんが、蠱惑に汚染されていると見られているものを治療してもらいましょう。そのうえで王に判断を委ねましょう」