マルコシアス
俺達の疑問はひょんなところから解消した。
「はー、とんでもない目に遭わされましたわ」
なんと、マルコシアスが二年ぶりぐらいに復活したのだ。
こいつは悪魔である。
黒猫によると、こいつらはもともとは天界の住民だったらしい。
素行不良で天界を追い出されたのだという。
そういう存在をまとめて悪魔と呼んでいる。
その名にふさわしく、人の嫌がることが大好きだ。
人のネガティブな感情を糧としている。
マルコシアスはレナルドの両親に狙いをつけた。
彼らに呪いをかけてフェーブル領を散々かき回したのだ。
そのために俺達にとっつかまり、お仕置きとしてリジェネを二年にわたりかけ続けられたのだ。
何しろ、悪魔にとっては回復魔法は何よりも苦手の魔法。
回復魔法により魂が浄化されるのだが、それが 地獄の苦しみとなるのだ。
「二年間もやで? ずっと発狂寸前の状態で、業火の苦しみに耐え続けてきたんや。いや、むしろ発狂していた方がましやったで。あまりにも残酷すぎるんちゃいます? あんたらの方が悪魔やと思うで」
「ほう。まだ生意気な口を叩くのか。もう少しリジェネを体験してみるか?」
「あほか。ワテの魂はすっかり浄化されたんや。リジェネかけてもなーんの効果もあらへんわ。ていうか、気分ええわ」
『(御主人様。その通りでございます。現在では完全に浄化され、元悪魔になっております)』
「えー、善なる存在になったというのか?」
『(うーん、まあ、一応は……)』
「何だよ、その歯切れの悪い言い方は」
『(そうですね、大きな悪事は働かないとは思いますが、些細な悪戯程度はするかもしれません)』
「ダメじゃん」
「なんや、ご主人様。ワテにご不満か?」
「というかさ、俺が御主人様? むしろ、調教したシスターこそがご主人様なんじゃないのか?」
「あかんわ、あの別嬪さん。性格が硬すぎてチーともおもろない。それにな、女神教会って苦手だんねん」
「まあ、酷いことしないのならいいか」
「そうでっせ。ワテのイタズラは一つのチャームポイントみたいなもんや」
「なんだか、ムカムカしてきたんだけど」
「御主人様、短気は損気やで。ていうかな、今話題になっとるエレーヌはん。あれな、ワテが教えましょか?」
「うん? 悪魔が関係してるのか?」
「あれはな、ワテより上位悪魔が関係してんねん。エレーヌはんに呪いをかけてまんのや」
「呪い? 俺の両親みたいにか」
「もっと強い呪いでんな。あれ、人を虜にする術を使ってまっしゃろ。あの術はな、蠱惑っていう暗黒スキルや」
「蠱惑?」
「ああ、そない名前やったと思うで。魅惑よりもたちの悪いスキルや。人をたぶらかすって意味合いの強いスキルやな」
「ほう」
「たちが悪いのはな、術が強力だけやないんや。ステータスに状態異常が現れんのや」
「ああ、それそれ! どうにかならんのか?」
「強力な鑑定士なら、なんとか痕跡を見つけられるんちゃいますか。隠しステータスという形でな」
「隠しステータス?」
「ステータス欄にな、透明の文字が記載されますんや。本当に強力な鑑定やとその文字も読めますけど、人属やと、せいぜい何かそこに文字があるのを感じる程度でっしゃろな」
「そうか。対策はどうすれば」
「いろいろありますな」
1 女神の加護持ちがそばにいたり、女神教会の信徒になること。
術がかかりにくいし、かかっていても解呪されやすい
2 かかった場合は、神聖魔法か聖魔法の上級清浄魔法が一番強力。
「なるほど。思い当たるフシがある」
俺も含めて俺の周りにいる人が以前はエレーヌのことを美人と思っていたにも関わらず、俺の転生に合わせて美人と思わなくなった理由がこれか。
女神の加護持ちは、俺、ジャイニー、スキニー、女神教会の三人、レッドなど何人かいるしな。
「あんさん、強力な魔杖をもってますやろ。それ、隣にいてはるブランシェはんに渡したらよろし。それと、えろう格の高い書籍も」
「ああ? 真実教会本部の地下室にあった本か? 辺境伯邸図書室の蔵書のバージョンアップしたものと天界言語習得の最終マニュアルって話だが」
「多分それや。それもブランシェはんのもんや。より強力な魔導士になりまっせ。清浄魔法なんかはこの世界でも一番のものを放てるんちゃいますか」
「そうか。ブランシェ、悪いけど、これからもっと忙しくなるかもしれないけど、頼めるかな?」
「はい、もちろんです。私にできることでしたら」
「じゃあ、まずは魔杖と本を渡すよ。それと、エレーヌの件は内密にね」
「承知いたしました」
これで少しは対策が立てられそうだ。
エレーヌの蠱惑の術から人々を守れるかもしれない。
ホント、領の事務といい、ブランシェ様々だよね。