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エレーヌ対策

「レナルド様、お呼びでしょうか」


 忙しいブランシェにちょっと来てもらった。

 実は領の事務の統括はブランシェに一手に引き受けてもらっている。

 さすがはミス・パーフェクト、学院をトップで合格しただけはある。

 事務能力は能吏としかいいようがない。

 こんな小さな領で働かせるのはもったいないぐらいだ。


「忙しい最中に申し訳ないのだが、少し聞きたいことがあってね。時間を頂戴できないだろうか」


「はい、もちろんでございます。どのようなことでも承ります」


 ちなみに、彼女のバカ丁寧な口調は誰に対してもこの通りだ。

 それこそ、庶民であっても。


 対して、俺は当初こそブランシェを公爵令嬢として遇していたが、ブランシェからの要望で普段通りの口ぶりとなっている。


 俺は彼女の雇用主であり形式的にはブランシェは公爵家を追放されているということで。


「第1王子と仲がいいという女性について尋ねたいのだが、その方の名前はエレーヌというのかな」


「あら? 以前にお伝えしていなかったでしょうか?」


「いや、それについては聞いていない。もし聞いていたのなら、必ず何らかの反応を示していたはずだ」


 根掘り葉掘り聞けなかったしね。


「もしかして、その方とご面識がおありなのでしょうか」


「知り合いというよりも、今後どうせ知ることになるだろうから話すけど、彼女は以前、俺のフィアンセだったことがあるんだよ」


「まあ、そのようなことが!」


「よくある政略的な婚約でね。俺が12歳の時に破棄されてしまったのだが」


「はああ、それは何とも奇遇と申しますか...」


「率直に言うと、婚約が破棄されたことは俺にとって幸いだった。悪く言うつもりはないが、どうも相性が合わないと感じていたものでね」


「まあ、貴族社会においてはいろいろとございますね」


「それで気になっているのだが、彼女の容姿について」


「容姿ですか?」


「はっきりと言うよ。我々フェーブル家の者たちの間では、彼女が美しいとは誰も考えていないのだ。醜いというわけではないが、極めて平凡で地味な印象しかないというのが共通認識なのだよ」


「うーん、美の基準は人それぞれかと存じますが……」


「いや、そんなレベルじゃないんだよ。学院での様子を見て驚いたのだが、彼女を世界一の美女だと評する者が驚くほど多い。いくら寛容に考えても、それは明らかに行き過ぎているだろう。一体どこにそれほどの魅力があるというのだろうか?」


「ええと……」


「しかも実際のところ、彼女の周りには多くの男性が群がっている。俺には、何か裏に仕掛けがあるのではないかと思えてならないんだ」


「……こういったことを申し上げますと、嫉妬心からの発言と誤解されかねませんので、これまで一切口にはしておりませんでしたが、その点に関しては私も非常に不可解に感じております」


「ああ、やはりそう思う?」


『(横から失礼いたします。魅惑のようなスキルを使用している可能性はございませんでしょうか)』


 珍しく、黒猫が口をはさんできた。

 ブランシェのガードとして常時ついている黒猫だ。


「魅惑、だって?」


『(はい、その名の通り、対象を自分の虜にしてしまうような効果を持つスキルでございます)』


「ほう、そのような能力が存在するのか」


『(ただし、魅惑スキルを使用した場合、状態異常としてステータス画面に表示されるはずなのです)』


「となると、その可能性は低いということか?」


「レナルド様、いかがなさいました?」


 ブランシェは黒猫の念話をキャッチできない。

 だから、黒猫の秘密と会話の内容を伝えた。


「まあ。この可愛い猫ちゃんが……大変驚きました。それと魅惑の件ですが、ステータスで確認できるということもありますし、王国では魅惑スキル使用は厳禁とされております。使用したら火炙りの刑です。そんな危険なことをするとは思えないのですが」


『(うーん。少し調査をさせていただけませんでしょうか。私自身、この件に関して興味が湧いてまいりました)』


「そうか。それは是非ともお願いしたい」


『(かしこまりました)』


 ◇


『(学院まで赴いて、詳しく観察して参りました)』


「おお、待っていたよ」


『(結論から申し上げますと、明確な証拠は得られませんでした)』


「黒猫の力を持ってしても判明しなかったというのか」


『(申し訳ございません。私の鑑定スキルもさほど強くありませんし。ただ、極めて不自然な状況であることは間違いありません。私は人間ではございませんので、人の美醜を論じる立場にはございませんが、私の目から見ても、特段美しい容姿とは思えませんでした。むしろ、不快感すら覚える女性という印象でございます)』


「黒猫までそう感じるのか。私も同感だ。あの様子では、相当に性格に難があると見ているのだが」


『(全く同意見でございます。しかし、まるで魔法にかかったかのように、目をハートマークにして彼女を追い回す殿方が後を絶ちません。やはり、何らかの特殊なスキルを使用しているのではないかと)』


「結局、決定的な証拠は得られなかったということか」


『(このような中途半端な調査結果しかお届けできず、申し訳ございません)』


「いや、黒猫の力をもってしても解明できないとなれば、相当に難しい問題なのだろう。調査、感謝するよ」



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