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領の宿舎

 フェーブル領の宿舎は学院正門から歩いて5分のところにある。

 建物は3階建てで、外観は普通の寮のように見える。

 

 2,3階が個室。1階は会議室と食堂・台所、地下室がトレーニング室と風呂・シャワー室、研究室、転移魔法陣がある。


 個室は全て南向きで日当たりが良く、各部屋にはベッド、机、椅子、本棚、クローゼットが備え付けられている。

 もちろん、自慢の各種生活便利魔道具に溢れている。


 会議室は三十人程度が収容できる広さで『映画館』の設備がある。


 食堂は明るく清潔で、これまた三十席ほどある。台所には最新の調理器具が揃っている。


 地下のトレーニング室には筋トレマシンやランニングマシンなどが設置されている。

 魔法訓練のために、防御結界は万全だ。


 風呂は大浴場とシャワーブースがあり、いつでも温かいお湯が使える。

 研究室には実験器具や薬品が整然と並べられ、安全設備も万全だ。

 転移魔法陣は領との往来に使用する。


 朝晩は全員が領にもどってみんなと訓練に励み、領で食事をとる。

 朝は6時から8時まで、夜は17時から19時までが訓練時間だ。


 昼食はこの宿舎でとる。

 弁当形式で領から運んでもらう。

 メニューは日替わりで、栄養バランスが考えられている。

 トレーンングが終わったあとのお風呂やシャワーも宿舎の設備を使用する。


 石鹸は液体石鹸に初級回復薬をアレンジして調合したもの。

 傷の治癒を促進し、肌の再生を助ける効果がある。

 ボディ用とヘア用の2種類がある。

 それをポンプ付容器に詰めてある。

 泡のたつタイプだ。

 構造は単純で簡単に作ることができた。

 使用感は柔らかく、肌にやさしい。


 さらに、リンスも初期の単純なレモン水からいろいろなヘアケア製品を混ぜて髪の毛のダメージをケアし、サラサラしっとりヘアにする。

 髪の内部まで浸透して補修し、キューティクルを整える。

 紫外線からの保護効果もある。


 香りもレモンを始めとして様々な香りタイプを用意している。

 柑橘系、フローラル系、ハーブ系など、好みに合わせて選べる。

 香りは長時間持続するが、控えめで上品な香りだ。



「ねえ、気付きました? フェーブル領の生徒たちの髪の美しさ」


「ええ、認めたくはありませんが」


「入学式後の最初のクラスで、私は真っ先にその違いに気づかされましたわ」


「まるで絹のようにツヤツヤと輝き、さらさらと柔らかな髪ですわね」


「彼女たちが歩くたびに、その美しい髪が風になびくのですよ。しかも、どの髪も潤いに満ちた上質な艶を放っているのが分かりますわ」


「これは何か特別な魔法の効果なのでしょうか? でも私たちの知る浄化魔法では、あのような美しい髪にはならないはずですわ」


「それに、彼女たちの髪から漂う香りも気になりますわ。すれ違うたびに、とても良い香りが漂ってきますのよ」


「ええ、爽やかな柑橘系の香りを纏っている生徒が多いですわね」


「花のような優雅な香りをまとった生徒もいますわ」


「この状況は私の気分を害しますわ。彼女たちは平民の身分なのに、このような贅沢を」


「ルシールさま、どうかお怒りを抑えてください。そのような態度は淑女としてふさわしくありませんわ」


「ああ、私としたことが。申し訳ありません。ですが、彼女たちが私たちとすれ違う際の、あの優越感に満ちた眼差しが許せないのです」


「本当にそうですわ! 私たちが親切心から諭そうとしても、彼女たちは軽々しくかわしてしまうのですわ。私たちが彼女たちのためを思って助言しているというのに!」


 注 彼女たちの『助言』とは悪口


「貧しい身分であるにもかかわらず、なんという態度でしょう!」


「その通りです! 卑しい生まれの者たちのくせに、なんて傲慢なのでしょう!」


「それに加えて、皆様はお気づきになりましたか? 平民たちの口臭について」


「まあ、そのような不快な話題は避けたいものですわ。私はそもそも彼女たちに近づきたくもありませんわ」


「私も同感です。ですが不運にも、廊下の角で平民の一人とぶつかりそうになってしまったのです」


「なんということでしょう! 平民のくせに、もっと気をつけるべきですわ!」


「もちろん、その平民はすぐに謝罪してきましたわ」


「当然のことですわね。それで、何か特別なことがあったのですか?」


「ええ。驚いたことに、その子の息から良い香りが漂ってきたのですのよ」


「良い香りですって?」


「はい。まるで花が咲いているかのような、清々しい香りでしたわ」


「まさか! そんなことがあり得るはずがありませんわ!」


「私も驚いて思わず、その平民の口元に目が行ってしまいましたの。そこで見た歯の白さに、さらに驚かされたのですのよ」


「歯が白いとおっしゃいますか?」


「ああ、私もそれには気づいていました。普段、私たちは平民の顔など見向きもしません。下品なことですから」


「その通りですわ」


「それに、平民たちは私たちの前では滅多に口を開かないものでしょう?」


「ええ、そうですわね」


「ところが偶然、彼女たちが会話している場面に遭遇したのです。その時、彼女たちの口元が真珠のように白く輝いているのを目にして、驚きを隠せませんでしたの」


「本当に、それは見間違いではないのですか?」


「はい、その後も気になって、平民たちの口元を注意深く観察するようになりました」


「つまり、彼女たちは白い歯を持ち、口からは花のような香りがするということなのですか?」


「はい、残念ながら、その通りなのです」


「これでは、もう彼女たちの体臭について非難することもできませんわね……」


「ええ、そんなことを言えば、私たちの方が惨めになってしまいますわ」


「私は実家に調査を依頼することにしましたの。皆様のご存知の通り、私の家系は国の警備関係にも多くの人材を輩出している名門ですから」


「まあ、アモーラ様、もし詳しいことがお分かりになりましたら、私にもぜひお教えいただけませんか?」


「私にも是非教えていただきたいですわ!」


「ええ、皆様、少々お待ちください。必ずやこの謎を解明してみせますわ」


 ◇


「アモーラ様、調査の進展はいかがでございますか?」


「父に依頼はしたのですが……」


「あら、表情が暗いようですが」


「確かに、彼女たちの宿舎に何か重要な秘密があることは間違いないのです」


「ええ、それは私たちも薄々感じていました。彼女たちはいつも宿舎から出てくる時、頬を紅潮させ、艶やかな髪と様々な香りを纏っていますもの」


「ですが、その建物の中に入ることができないのです」


「普通の建物ではないのですか?」


「ええ、まず正門から人を選別しているのです。建物に入るには、ボタンを押して機械を通して対話しなければならないようなのです」


「まあ、なんて傲慢な仕組みでしょう」


「さらに驚くべきことに、密かに侵入を試みると警告音が鳴り響くのです。それでも進もうとすると電気ショックを受け、さらに強行突破を試みると雷のような強力な衝撃が襲ってくるそうです。既に何人もの方が気絶して、警備兵に運ばれる騒ぎになっているとか」


「何人も、ということは、以前にも強引な侵入を試みた方がいたということですの?」


「ええ。私たちと同じように、あの宿舎に強い関心を持つ方が大勢いらっしゃるようです。中には正面玄関ではなく、窓から侵入を試みた方もいて……」


「その方はどうなったのですか?」


「轟音とともに全身真っ黒に焦げてしまったそうですわ」


「まあ、恐ろしい!」


「父も警備のプロとしての誇りにかけて、諦めきれなかったようで」


「まさか、二度目の試みをなさったのですか?」


「ええ、フェーブル領まで赴いたのです。しかし今度は、調査に向かった者たちが私たちの屋敷の屋根に縛り付けられる始末で」


「えっ? 屋根に縛り付けられた? つまり、完全に見破られていたということですか?」


「残念ながら。さらに屋敷の前には、何が起きたのかを詳細に記した看板まで設置されていて。大勢の人々が集まって、笑い物になってしまったのです」


「信じられませんわ」


「これ以上ない恥辱ですわ。おまけに、次回同じことをすれば容赦しないという警告の手紙まで添えられていたそうですのよ」


「まあ、大変な事態になってしまいましたわね」


「本当に。もちろん、屋敷の使用人全員がこの一件を知ることとなり、私も侍女から詳しい話を聞かされる始末ですの」


「一体あの領地には、どのような秘密が隠されているというのでしょうか?」


 ◇


「アモーラ様が学院を去られたそうですわね」


「あの建物の謎を暴くと意気込んでいらしたのに、どうしてでしょう」


「何があったのかしら?」


「詳しくは分かりませんが、アモーラ様のお父様が突然引退なさったようです」


「引退なさったのですか?」


「次男様がいらっしゃいますよね? 現在は彼が領主代行を務めているとのことです」


「次男様ですって? 長男様ではなく?」


「長男様は廃嫡になられたそうです」


「まあ! 一体何が起きたというのでしょう?」


「詳しいことは分かりません。ただ、次男様が代行を務めているものの、まだ成人されていないため、筆頭執事が実質的な采配を振るっているようです」


「アモーラ様にも継承権があったはずではありませんか?」


「ええ。次男様は第三継承権者で、アモーラ様は第二継承権者だったはずです。一体何が起きているのでしょうか」


 アモーラの父親は俺の警告にも関わらず、しつこく宿舎の建物を調べようとした。

 何度も警告をしたが、彼は聞く耳を持たなかった。

 だから、黒猫により『犬』の文字が額に刻印された。

 どうあっても消すことができない。

 魔法でも、薬でも、手術でも消えない永遠の刻印だ。


 そのために、現職である国家警備機関の重職を辞任。

 額の刻印は隠しようがなく、人前に出られなくなったためだ。

 領主は引退することになった。

 しかし筆頭継承権のある長男も父親の行動に加担していたため、廃嫡となった。


 ちなみに、アモーラは何をしたのかわからないが、現在は修道院送りとなっているそうだ。

 宿舎の調査に関連して何か良からぬことをしたのだろう。


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