図書館と秘密部屋
「坊っちゃん、今日はお固い場所に来たな。図書館なんて、俺達には場違いな気がするぜ」
「(ジャイニー、声を落として。他の人の迷惑になるぞ)」
「(ジャイニーは本とは縁遠い人間ですから、外で待っていた方がよろしいのでは)」
「(スキニー、なんだよ。俺だって図書館ぐらい使うぞ。本だって読むんだからな)」
「(ふふ、いいか、夜になったらここに忍び込むからな。大事な情報があるんだ)」
「(おー、さっそく行動開始か。楽しみだな)」
「(多分だが、あそこの司書が座っている場所、カウンターの裏に事務室があるわけだが、そこの奥に開かずの部屋というものがある。そこに何かありそうなんだ)」
「(なんで、そんなこと知ってるんだよ。誰かに聞いたのか?)」
「(前、鉱山の隠し部屋に行ったことがあったろ? あの時の件と関係があるんだ)」
「(ああ、宝物のあった部屋か。あの時は良い物が見つかったよな)」
「(その宝物。魔杖があったよな。シスターに渡したやつ。シスターが言うにはそれが語りかけてくるらしいんだ。ここを探せって。何か重要な物があるはずなんだ)」
「(へえ。すると、女神様案件ということでしょうか。また神聖な任務というわけですね)」
「(うむ、多分そうだろうな。女神様に関係する何かがありそうだ)」
「(よし、わかったぜ。じゃあ、夜に忍び込むか。楽しみだな)」
◇
夜になり、三人は図書館の前に集合した。
「坊っちゃんの解錠スキルも随分なものになってきたな。まるでプロの泥棒みたいだ」
ジャイニーが感心した様子で言った。
「おまえらだって気配隠蔽スキルも大したもんだぞ。完全に姿を消せるようになったじゃないか」
「僕達、立派に盗賊として生きていけますね。まあ、それは冗談ですが」
「まったくだ。でも今回は正義のための侵入だからな」
俺達は鍵のかかった図書館をスルスルと突破した。
そして開かずの部屋と目される部屋の前で、やはり簡単に部屋の鍵を解錠した。
「よし、ガッキーズ見参!さあ、何があるかな」
ジャイニーが期待に胸を膨らませた。
「うーむ、なんだか独特の匂いがするな」
「古い本の匂いだな。図書館の何倍も強い匂いだ。相当古い本が保管されているんだろう」
「おお、あれをみてみろよ。すごいものがあるぞ!」ジャイニーが指差した。
部屋の真ん中に見るからに豪華そうな机がある。
黒檀と思われる高級木材で作られ、金の装飾が施されている。
その上にやはり豪華そうな杖が。
魔杖だ!
全長約1m、純白の杖身に金の装飾、先端には拳大の水晶が埋め込まれている。
「これ見ろよ。見るからにシスターの持つ魔杖の上位魔杖って感じだな。これは相当な代物だ」
「よし、坊っちゃん。もっていこうぜ。きっと役に立つはずだ」
「坊ちゃま、あれみてくださいよ。奥になにやら転移魔法陣らしきものがありますよ」
スキニーが部屋の奥を指差した。
「え? あ、本当だ。これは意外な発見だな」
「よっしゃ、転移してみよーぜ。冒険が待ってるぜ!」
「いや、待てよ。どこに通じてるのかわからんぞ。危険かもしれない」
「俺達に結界をかけて飛べば大丈夫さ。さあ、行くぞ。冒険者なら、こういう時こそ前に進むべきだ!」
◇
「うわっ。真っ暗。何も見えないぞ」ジャイニーが声を上げた。
「よっしゃ。ファイアで明かりを灯してみたが、漆黒の闇って感じだぜ。相当深いところまで来たみたいだ」
「おい! どうやら魔物が出るみたいだぞ!」
軽く下見して帰るつもりだった。
でも、ついつい奥の方まで見に行ってしまった。
出てくる魔物がそこそこ強く、俺達はちょうど釣り合った強さで面白かったのだ。
流石に奥まで来すぎたことを反省した俺達は帰ることにした。
その帰り道の途中のことだった。
「坊ちゃま、こんなところに隠し扉がありますよ。見逃すところでした」
スキニーが壁の不自然な部分を指摘した。
「あ、本当だ。行きではわからんかったな。よく気づいたな」
中に入ってみた。
「倉庫か? いや、本の保管場所みたいだな。相当古い本が保管されているようだ」
ホコリを被ってはいたが、本棚が整然と並んでいた。
「おお、またもや怪しく発光する書籍が!」
スキニーが興奮した様子で言った。
すぐに直感した。
これは女神様関連の書籍だと。
俺はその本を手にとった。
表紙には『天空図書 最終バージョン』
とあった。
「うーむ。光っているだけだな。特別な効果があるわけじゃない。でも、重要な本なのは間違いなさそうだ」
「シスターに見せてみようぜ。きっと何か分かるはずだ」ジャイニーが提案した。
「ああ、そうだな」
「坊っちゃん、こっちに別の扉があるぞ。うーんしょ、こりゃ頑丈だな」
「ジャイニー、いつも言ってるだろ。慎重にやれって。罠かもしれないんだぞ」
「俺なりに探ったから大丈夫だって。信用してくれよ」
「むむむ……この扉、俺の解錠スキルでもあかないぞ。ていうか、物理的にガチガチに固められてるみたいだ。じゃあ、俺の鉱脈レーダーを飛ばしてみるぞ」
「坊っちゃん、何かわかったか?」
「うーん、推測なんだが、地上にあるのは王都の真実教会本部じゃないかな」
「確実か? それは重大な発見になりそうだが」
「いや、朧気なんだが、一度真実教会の本部に行ったことがあるよな? あのときの形状とか地理感覚に似てるんだ。間違いないと思う」
「じゃあ、何か。僕達は真実教会の秘密部屋にでもいるっていうことですか?」
「だな。これ、坊っちゃんの解錠スキルでもあかない、ガチガチの扉だぞ。オレ達はそんな重要そうな部屋を暴いたんだろうか。バレないよな?」
「まあ、早めに退散しようぜ。長居は無用だ。今日の発見だけでも十分大きいしな」
「そうですね。この本と魔杖を持ち帰って、シスターに相談しましょう」
「ああ、そうだな。それに、この場所のことも報告しないとな。真実教会の地下に繋がってるってのは重大な情報だ」
「よし、じゃあ帰るか。今日は良い冒険になったぜ!」
三人は来た道を戻り、図書館を後にした。
今夜の発見が、これからどんな展開を生むのか。
そんなことを考えながら、俺達は夜の街を歩いていった。