放課後
「決闘、凄かったね。あの剣術の速さと正確さは見事だった」
「ああ、どうも。まだまだ未熟だけど」
「謙遜する必要はないよ。自己紹介しておくよ。僕は王家第2王子のフィナーレ・カールマンだ。父上は現国王陛下、母は旧ヴェルナー侯爵家出身だ」
「いやいや、みんな知ってるでしょ。新入生代表で挨拶したんだもの。あの堂々とした姿は印象的でした。とりあえず、自分も。レオナルド・フェーブル、フェーブル領の伯爵代理をやっていますよ、フィナーレ様。父は伯爵で、現在は隠居しています」
「ああ、堅苦しい話し方はやめよう。学院は身分の差はないという建前だしね。それに、他の国と違って王家にさほどの権力はないし。実質的な権力は貴族評議会にあるからね」
「はは。じゃあ、フィナーレ。これでいいかな。確かに学院では平等が建前だもんね」
「うんうん、いいじゃん。君も順応が早いね」
「ぶっちゃけ、育ちが良くないんでね。礼儀作法よりも実践を重視してきたから」
「ははは、君の噂はちらほら聞いていたよ。いろいろな意味でね。特に最近は凄い噂ばかりきいている。領地改革の成功は素晴らしいってね」
「ああ、どうも。昔は醜い豚貴族とか言われてたけどな。今でも時々耳にするけど」
「眼の前にすると信じられないね。ルックスでは僕の兄がパーフェクトだと思っていたけど、タメをはるじゃないか」
「ありがとう。でも、ルックス褒められても嬉しくないけどね」
「そうだね。ていうか、最近の君の業績が耳目を引きすぎるんだよね。特に領地の生産性向上と治安維持は見事だった」
「一生懸命やった結果ですよ。領民のために働くのは当然のことです」
「素晴らしいね。ところで、剣の速度にも驚いたけど、最初のは威圧スキルだろ。とんでもないレベルだな。同じ年だとは思えない。あの重圧感は離れてみていても足が竦むほどだった」
「ああ、いわゆるハッタリスキルだね。実戦で鍛えた成果かな」
「聞くところによると、魔法もすごいって聞くし、君、僕にチャレンジする? するなら、すぐに順位を譲るけど。僕は無駄なことはしない主義なんだ。実力主義を重んじているからね」
「いやいや、俺も無駄なことはしない。トップなんかになったら目立つしね。いろいろ面倒臭いことも増えるし。現状で十分です」
「そうか。まあ、いつでも言ってよ。正直、僕の順位は粉飾されたもんだから。実力以上の評価をもらっているんだ」
「それ、自分で言っちゃうんだ。かなり驚きだよ」
「しかも、ちょっと悪意があるね。上からの圧力というやつさ」
「悪意?」
「入学そうそう、君に順位を明け渡すって茶番を期待されてる。政治的な駆け引きの一環というわけさ」
「そうなのか? なんだか複雑な事情がありそうだね」
「僕の兄が2年生にいるんだけど、彼も順位は1番なんだよ。彼は入学時には3位でね。まあ、1位と2位はスーパーレディがいたからそんな順位だったんだが、でも、2年生になったらトップさ」
「凄いじゃん。でも、本人の実力はどうなんだろう」
「僕と似たようなもんさ」
これに関しては、後日いろいろ調べてみた。
すると、こんな事情がわかった。
第1王子のすぐ下、つまり第2位の順位の生徒に極めて強力な配下がつけられている。第3位の生徒がチャレンジしても誰も突破できない。その第2位の生徒は当然王子にチャレンジしない。つまり、王子の第1位は安泰ってわけだ。
「スーパーレディって?」
「一人はね、絶対的強者だったらしいんだけど、残念ながらいろいろあって退学したんだ。一人はなんというか、誰もチャレンジしたくなくなるような優雅で美しい女性らしい。本人もチャンレンジとかには興味がないみたいでね。実力はあるのに使わないタイプってやつさ」
ああ、退学したのはブランシェだな。
「へえ。その女性も面白そうだね」
「エレーヌ様っていうんだけどね。子爵家令嬢の。優雅で気品があって、魔法の才能も一級品らしい」
「エレーヌ?」
ひょんなところから、聞いたことのある名前が。
彼女で間違いないだろう。あの時の少女が、こんなところで名前が出てくるとは。
「とっても、美しい方だと言うんで私もお会いするのが楽しみなんだ。噂では月光のように清らかな美しさだとか」
ああ、それは話十分の一で思っておいたほうがいいな。
実際に本人を知る身としては、その評価は物凄く違和感がある。
「まあ、これからもよろしく頼むよ。君との交友を深められたら嬉しい」
「ああ、こちらこそ。気さくに接してくれて感謝します」
第2王子は気さくな爽やかイケメンだった。
彼の評判は、魔法も結構やるが、何よりも頭脳明晰だっていう。
政治的な駆け引きにも長けているらしく、若くして評議会でも一目置かれる存在だ。
その点、第1王子は明らかな残念王子。
ルックス以外は凡庸王子。
学力も運動能力も並以下で、政治的センスも皆無。
ただ、母親の実家が大変な実力者。
現在の王国最大の実力者である侯爵家の出身で、その権力は絶大。
王国一の経済力を持っているからだ。
第2王子の実家も悪くないんだけど、どうしても圧倒されがちだという。
旧男爵家から這い上がった新興貴族のヴェルナー家では、さすがに侯爵家には及ばない。
だから、学院でもこうして陰湿な仕打ちをしかけられるらしい。
第1王子派閥による嫌がらせは日常茶飯事なのだ。