入学式~初の決闘2
「でな、さっそく燃え上がっているようだから、決闘システムを紹介するぞ」
アロイス先生は、にやりと笑って言った。
決闘システム。
これは二通りの使い方がある。
学院で揉め事があったときに物理的に収拾を図るもの。
もう一つは、席順をかけて争うもの。
こちらはチャレンジ・システムとも呼ばれる。
席順が一つ上のものに対して決闘をする権利があるのだ。
実力主義を徹底するための制度らしい。
勝てば順位が入れ替わる。
負けたら、一ヶ月チャレンジできない。
これは実力差のある者が何度も挑戦してくるのを防ぐためだ。
「さっそく、このシステムを使ってみるか? 上手い具合に、ベイリーは席次3位。レナルドは2位じゃないか」
アロイス先生が提案する。
「当然です! 私がこいつより下なんてことはありえません!」
「レナルド、どうだ? 受けるか? まあ、決闘を申し込まれたら拒絶はありえんが」
「まあ、仕方ないですね」
◇
担任と生徒全員は入学式の隣にある建物に行くことになった。
バレーボールコート程度の広さの建物がいくつも並んでいる。
白い石造りの建物で、魔力を通しにくい特殊な素材が使われているらしい。
「ここは訓練をするための建物だ。二十あるんだが、使用するには事前に事務局に予約をする必要がある。特に試験前は予約でいっぱいになるからな。早めに予約しておけよ」
担任は中に入ると、結界魔道具を稼働させた。
建物の四隅に設置された魔道具が青く光り始める。
魔法防御、物理攻撃防御の魔法がかかっている。
それと、攻撃力を十分の一程度に落とす結界が 体育館全体にかかっている。
勿論、使用時に魔法・結界をかけるわけだ。
そうでなければ、魔力が無駄に消費されてしまう。
「君たちにはこのプロテクターを付けてもらう。攻撃があたった場合に、攻撃力が数値として表示される。致死ダメージと判定された場合は赤ランプがつく」
アロイス先生は胸当てのような形をした魔道具を取り出した。
訓練場の結界、そして、プロテクターによる攻撃力減衰により、実際の攻撃は随分と弱いものになる。
これなら全力で戦っても大丈夫そうだ。
「思いっきりやってくれ。ああ、怪我しても救護耐性はばっちりだ」
建物の外には医務室もある。
対戦エリアの外には観戦エリアがある。
雛形になっており、見やすい。
段差をつけて、後ろの席からも見えるようになっている。
「じゃあ、二人共。ベイリーはこの線。レナルドはこの線。見合って」
対戦エリアの中央、だいたい3mほど離れて向かい合った。
床には白線が引かれている。
「GO!」
担任の掛け声とともに、俺はやつを睨みつけた。
入試のときよりも強烈に。
あのときは軽く(少なくともそのつもりだった)睨んだだけだが、今回は威圧の強度を高めた。
「ウガガガ……」
ベイリーは開始直後にまともに威圧を受けて床にくずれさった。
「はい、そこまで!」
「「「えええっ!」」」
「坊っちゃんの威圧スキルかよ。俺達でも受けたらキツいのに、やつではたまらんだろうな」
俺はやつの実力がすぐにわかった。
冒険者クラス的に言えば、CかDというところだろう。
俺はB。
しかも、ギルマスからほぼAだって言われている。
ジャイニーやスキニーにしてもBだ。
レッドはもうすぐBに昇格するだろう。
それにしても、睨んだだけで失神するとは。
いくらなんでも弱すぎんだろ。
こいつが3位だって?
採点基準がおかしいのでは?
担任が顔をペチペチとやって回復薬を飲ませている。
すると、まもなくベイリーは目を冷ました。
「……! まさか、俺は? いや、レナルド! 卑怯だぞ! まだ俺の準備ができていない隙をついて攻撃するなんて!」
いや、睨んだだけなんだが。
「ふうむ。魔法は少しやるみたいだな。こうなったら、俺の強い分野でいこう。オレは魔法より剣のほうが得意なんだ。受けて立つ勇気はあるのか?」
だから、俺は魔法を放ってないっての。
睨んだだけだってーの。
まあ、ちょっと強めに睨むと威圧スキルが自動的にのっかる。
それにしたって、スキルであって魔法じゃない。
「いいぜ、剣で。じゃあ先生」
「ああ、備え付けの模擬刀がある。威力が減ぜられるから、思いっきり勝負してくれ」
僕は、適当に剣をとり、素振りを始める。
「ブンブンブン」
魔法ほどではないが、俺は剣も得意だ。
この通り、剣からうなりが発せられる。
「バン!」
ああ、素振りが速すぎて音速を越えたようだ。
「ソニックブーム」が室内に響き渡る。
これは衝撃波によって生じる轟くような大音響だ。
「……!」
「そこそこ頑丈そうな剣だな。これなら、なんとか使えそうだ。じゃあ、やろうか。腕の一本ぐらい、ねじきれるかもしれんがね。攻撃力が十分の一になっているということだから、死にはせんだろ」
「い、いや……」
「どうした? 領じゃ殺しあう前提で対戦するぞ? 覚悟しなよ」
ベイリーは尻込みをするばかりだ。
結局、俺の不戦勝ということで決着がついた。
◇
ベイリーの受難は続く。
翌日、スキニーのチャレンジを受けた。
やっぱり、威圧スキルで気絶した。
その翌日。
次はジャイニーだ。
数日後。
今度は10位から順位を上げてきたレッドの番だ。
あっという間に、3位がスキニー。4位がジャイニー。5位がレッドとなった。
ちなみに、BとC組の子供たちもあっという間にクラスを締めることになった。
残念ながら、違うクラスへのチャレンジはできない。