入学式~初の決闘1
俺達の新しい宿舎が一応の完成をみた。
今後も気づく点があれば改良していくつもりだ。
ただ、朝晩は転移魔法陣で領に戻らざるをえない。
シェフを宿舎に常駐させるのはもったいない。
それと、領での朝晩の訓練のためには俺が必要不可欠だ。
グルスキルは俺とシスターしかもっていない。
しかも、兵士も、となると、俺しか指導できるものがいない。
寝るためでさえも領に戻ればいい、ということになる。
検討の結果、朝晩の食事と訓練は領に戻る。
それ以外は宿舎にいる。
そういうことにした。
せっかく宿舎を作ったしな。
学院前に展開する学生街にもあまり用はなさそうだ。
まず、食堂は全滅だ。
俺達は舌を甘やかされすぎている。
まずい飯には我慢ならない。
フェーブル領のシェフが作る料理と比べると、天と地ほどの差がある。
せいぜい、服とかを買いにいくぐらいだ。
「観光客気分は1日で終了したな」
俺は窓から学生街を眺めながら呟いた。
「フェーブル領の外なんて出たことがなかったですから、興味津々でしたけど、ちょっとまいりましたね」
スキニーも俺の気持ちに同調したように溜め息をつく。
「ああ。臭いしな」
「少し前のフェーブル街を思い出しますね」
スキニーが鼻をつまみながら言った。
「こっそり、清浄魔道具で街を綺麗にしておくか。そうじゃないと、毎日が辛いぜ」
ジャイニーが珍しく殊勝なことをいう。
「俺達女神教会の信徒だからな。順番をきめて街を浄化していくか」
良い考えだからからかったりせず、賛成した。
少しずつでも街をきれいにしていこう。
◇
さて、入学式の朝になった。
俺達十名は制服に着替えて登校した。
やたらだだっ広い学園の敷地に入り、講堂に向かう。
そこで入学式が行われる。
場所は、入試の魔法実技が行われたところだ。
広大な敷地の中央に位置する巨大な石造りの建物だ。
講堂に入ると、椅子はクラス別のブロックになっていた。
早いもの順で席に座らせられる。
講堂は千人程度を収容できる大きさで、天井が高く荘厳な雰囲気だ。
入学式は日本と同じだった。
いろいろな人がスピーチする。
学院長、教育長、来賓と続き、一時間ほどで終わった。
新入生代表としては、王家の第2王子が壇上に立った。
彼が首席ということだ。
金髪碧眼の爽やかな感じのするイケメンだ。
女子生徒から黄色い声が上がっていた。
男から見ても嫌な感じはしない。
スピーチの内容も適度に謙虚で好感が持てた。
その後は所属するクラスへ向かうことになる。
学院でのクラスや席次は卒業後に大きな差異となって現れる。
特に、階級が下のものほど影響は大きい。
エリート街道を驀進するか、それとも小エリートとして地方の役人に甘んずるか、ぐらいの差はある。
A組からは中央官僚や大貴族の執事に、B組は地方官僚や中小貴族の執事になることが多い。
俺、ジャイニー、スキニー、レッドはA組だった。
正直、俺達は出来がかなりいいとうぬぼれていた。
俺達と同程度の生徒が何人もいるってことか。
入学後にも精進を続けなくちゃ。
油断すれば順位を落とされかねない。
フェーブル領の他の合格者はBとC組に分散した。
ちょっと首をひねったのは、俺達はテスト後に全員で検討会をした。
少なくとも、筆記試験に差はなかった。
おそらく、全員が満点か満点に近いはずだ。
となると魔法で差がついたということか。
多分、そうなんだろうな。
A組に入った俺たちと他の合格者たちとでは確かに差がある。
魔力量や魔法の制御力に大きな開きがあった。
なんにしても、孤児とか獣人とかが学院に合格できたんだから、めでたいことだ。
特に、獣人が合格したのは学院でも初めてらしい。
しかも、A組に配属されたのだ。
これは歴史的な快挙と言えるだろう。
◇
「あああ、貴様ぁ!」
A組の教室に入ると、俺を指さして真っ赤に興奮している少年がいる。
茶色の短髪で、小柄な体格の少年だ。
ん?誰?
なんとなくみたことがあるんだが。
入試の日に会った気がする。
ていうか、人を指差すな。
失礼な奴め。
貴族の子弟なら、もう少し礼儀作法を心得ているはずだが。
「俺を忘れたのか!」
少年は更に声を荒げる。
朧気な記憶はあるような。
確か少し前……。
「坊ちゃま、ほら、入試の日ですよ。朝、ちょっと知らない人と揉めたでしょ」
「ああ、思い出した。ちょっと睨んだら泡吹いたやつか」
威圧スキルを少し使ったら気絶した奴だ。
「泡なんか吹いてない! 何を適当なことを! あの朝は俺の調子が悪かったんだ!」
少年は顔を真っ赤にして否定する。
「へえ、そうなの?」
「くそ、そのあと逃げやがって!」
「逃げるも何も、おまえ気絶してたじゃないか」
試験に遅れるわけにはいかなかったしな。
「嘘を言うな! このクソッタレ!」
「ていうか、おまえ、一応は貴族の子弟だろ? 口調が汚いんだが」
「馬鹿野郎! セーブル伯爵家の次男、ベイリーだ!」
ああ、俺でも聞いたことのある家だ。
名門じゃないか。
「あ、そうなの? なんでもいいから落ち着けって。唾がこっちまで飛んできて汚いぞ」
「はぁぁぁ!」
「はいはい、そこまで」
そこでガラリと扉があいて、30歳ぐらいの男性が入ってきた。
茶色の髪に茶色の瞳、整った顔立ちの男性教師だ。
「朝っぱらから賑やかだな。とりあえず、落ち着いて席につこうか」
落ち着いた声で教室を静めた。
「だれ?」
「ああ、私はこのクラスの担任だ。アロイスと言う。席についたら、出席をとるからな」
慌てて俺達は着席した。
出席を確認したあと、この学院についてのガイダンスがあった。
時間割や校則、施設の使用規則などの説明が続く。