王立高等学院入試前夜
王立高等学院。
この王都にある伝統ある学校には、王国の貴族子弟は全員受験することになっている。合格者は15~16歳のの2年間、学業に勤しむ。
なお、不合格となっても受け皿となる学校がある。
王立騎士学校、領立高等学院、教会の神学校である。
結局、貴族子弟は王国の15~16歳の2年間各学校で勉学に励むことになる。
入学試験は、入学後の席次を決定するための重要な指標ともなる。クラス編成は成績順だからだ。A組とドベクラスのE組とでは天国と地獄だ。卒業後の扱いにも差が出る。
本年度の貴族子弟の受験数は約600人。定員は約70名。これは例年並みの人数である。
さらに平民から選抜される。
実力主義で、家柄や身分は一切関係ない。
1学年の定員は約100名。平民から30名前後が選ばれることになる。競争率は非常に高く、毎年数千人の若者が受験に志望する。
フェーブル領からは
俺、スキニー、ジャイニーの貴族階級。三人とも幼い頃から魔法の素養を磨いてきた。
それから、獣人レッドや孤児たち瞑想で鍛え上げられた十五人。彼らは特別な訓練を受け、魔力操作に長けている。
順調に人材として成長しつつある子どもたちを2年間も学院に押し込めるのはちょっともったいない気もする。
ただ、より将来を考えた結果、こうした。
同様に、俺やガッキーズの二人も領経営的には厳しいのだが、俺達は基本的に授業が終われば転移魔法陣で領に戻ることになっている。
それと、ブランシェがものすごい成長をみせている。
事務的なものは俺達が不要だ。
「ふう。やっとついたぜ」
「ああ。フェーブル領からここまで1週間。馬車での長旅は本当に疲れる」
「しかもですよ。道が悪いですから、お尻が痛いのなんのって。座布団を何枚も重ねても効果がありません」
「改良馬車でも道が悪いと効果半減以下だよな。最新の衝撃吸収機構も限界があるってことだ」
「ホーバークラフト使えたらなぁ。あれなら道の状態に関係なく快適な旅ができるのに」
「あれは先進的すぎて刺激が強すぎるからな」
「今でさえ、売ってくれとか技術提携とかの申込みが殺到してるし、なかにはタダでよこせなんて図々しい奴もいる」
「まあ、一度拠点さえ作れば転移魔法陣で移動できるからな。瞬時に目的地まで行けるんだ」
「なんだよ。拠点作ればよかったじゃんか。そうすれば、こんな長旅も必要なかったのに」
「まあ、そうなんだけどな。費用が高いわけでもない。でもな、俺達、贅沢に慣れすぎてるだろ? たまには不便も経験しておくべきだと思ってな」
「そうか? 別に贅沢してるつもりはないんだけど」
「ジャイニー。フェーブル領、特に俺達の周りは生活水準が高すぎるんだよ。しかも、人間てのは贅沢にはすぐに慣れてしまうんだ。当たり前のように感じてしまう」
「昔はこの馬車よりも乗り心地酷かったんですから。木の板を組み合わせただけの簡素な造りでした」
「そういえば思い出したぜ。辺境伯邸の懇親会に参加したとき、お尻にデキモノができたよな。あの時の馬車は本当にひどかった」
「あのときは僕なんかもひどい揺れでずっと気分が悪かったですね。一日中吐き気に悩まされました」
「馬車もそうだが、あらゆる場面でフェーブル領の良さがわかるぞ。技術も生活水準も、他の地域とは大きな差があるんだ」
◇
「坊っちゃん。よーくわかったぜ。なんだよ、この飯のまずさ。塩加減も火加減も最悪だ」
「馬車旅行は野営ばっかりだった理由がわかりますね。宿の食事を避けていたんですね」
「ああ。野営のほうがずっとましなんだ。飯の水準も衛生面も寝床でさえね。自分たちで用意したほうが安全確実だしな」
「転移魔法陣で帰ったっていいし。食事だけフェーブル領から持ってくることもできる」
「その通り。でも今回は経験のために我慢しよう」
「それにしても、宿泊先の飯のまずさよ。調理人の腕が悪すぎる」
「あのさ。あれでも、王国レベルでは上等の部類なんだよ。他の宿はもっとひどいんだ。料理人の腕っていうよりも、食材が悪すぎる」
「は? そんなわけあるかい。これ以上まずい飯なんてあるのか?」
「よーく思い出せよ。カチンカチンの黒パン。塩とひなびた野菜だけの貧相なスープ。鼻がひん曲がりそうな腐った肉。それが普通の食事だったんだ」
「あああ、そうだったな! あれがほんの2年前のことだったとは。今の宿の食事が上等って考えると恐ろしいな」
「いまじゃ、デザートもついてくるからな。王国でもダントツトップ水準の。フェーブル領の食事は特別なんだよ」
「ジャイニーなんか一口食べただけでしたからね。あまりのまずさに箸が進まなかった」
「結局、坊っちゃんのもってきてくれた食べ物のお世話になったぜ。野営のほうがましってのがよーく理解したぜ。保存食でも宿の料理より美味しかった」
「おそらくだが、学院の寮な、これより質が低いんじゃないかな。大量調理だからね」
「ああ、可能性高いですね。学生相手だから手抜きも多そうです」
「そうなのかよ、どうすんだよ、飢え死にしちまうぜ! 一年も耐えられない」
「風呂とか水シャワーだろうし、トイレはクッサイし。衛生面も期待できないな」
「ダメだな、こりゃ早急に拠点を建ててくれよ! 生活環境を整えないと勉強にも集中できない」
「まあまあ。実は土地は購入済なんだ。学院の学生街の郊外にな。いつでも建設できる状態だよ」
「なんだよ。何度も言うけど、拠点建ててれば問題なかったじゃん。建築費用なんてそんなにかからんだろ? 早めに準備しておけばよかったのに」
「ああ。基本、俺達の魔法で建築するからな。まあ、受験が終わったら転移魔法陣設置を兼ねて、とりあえずの拠点を建設しておこうか。快適な生活環境は大切だからね」
【補足 貴族とは。その他】
貴族は王国から正式に叙勲された本人及びその家族を言う。
クラス的には公侯伯子男爵の順になる。
騎士は準貴族で一代限り。
貴族の家族とは、貴族本人の二親等
(祖父母、兄弟、孫、その配偶者)
までの家族のことである。
それ以外は平民として厳しく区別される。
王国の人口は約六百万人とされる。
騎士以外の貴族は約千家族、家族総数約一万人弱。
騎士爵は約二千家族、家族総数約二万人。
領主は百程度。
それ以外の貴族は法服貴族(文官)、
または武官として王家や領主の配下となる。
学院の入学試験 対象者は15歳となったもの
貴族子弟 対象者は全国で約六百人いる。
そのうち七十名が合格となる。
庶民子弟 対象者は約十万人いる。
そのうち三十名が合格となる。
庶民については各領約百で予備選抜をおこなう。
その結果、本選に挑むものは五百人に絞られる。
さらに本選で三十の狭き門突破を目指す。