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スーパーのトイレ

作者: わいいち

月曜日は営業車に乗って客先に行き、コーヒーを出してもらう。

おじいさんの会長とその息子が社長、経理は社長の奥さんがしている。

他に従業員はいない。

奥さんが出してくれるコーヒーはちょうど良く酸味があり、すごく美味しい、きっと珈琲屋で買っているのだろう。

これに何も気にせず砂糖とミルクを入れれるようになれば、自分はこの人達にもっと親身になれるのかと考える。

そういえばあまり会うことのない上司に缶コーヒーを奢ってもらう時 

「ブラックで」 

と言うのは何か遠慮があるからなのか、ブラックでも微糖でもココアでも値段は変わらないのに、なにも遠慮になっていないのに、そんな事を考えていた。

「冴島くんはもう3年くらいになるかね?」

「あっはい。もうすぐ丸3年です。」

無言だったからか会長が喋り出した。

「いやぁ、最初は大人しい子と思っとったけどしっかりしたなぁ。これからも頼むで」

「いえいえ、僕なんてまだ分からない事いっぱいありますから、会長のこと師匠と思ってますんで会長のおかげです。」

そう言うと会長は笑いながら喜んだ。会長は師匠と言われるのが嬉しいらしくもう30回は師匠と言っている。

ちなみに自分は全ての客に師匠といっている。そうすれば喜ばれるし尊敬していると思われる。便利な言葉だ。

施設のシステム管理装置の販売をする今の会社に転職してもうすぐ3年。以前は居酒屋で店長をしていた。

10年働いて年収は400万ほどで休みも少なかった。

頭がバグを起こしていたのだろう。

辞める時は自分が辞めれば周りが困るかもしれないとか、常連の客に辞めないでと言われたが、会社は辞表をすんなり受け入れた。

あっさりし過ぎて自分は捨て駒だったのかと思いちょっと凹んだ。

しかし、2ヶ月後に本社の上司から戻って来てくれと電話があった時はこれでもかと喜んだ。

就職先はまだ見つかっていなかったが、盛大に断った。捨て駒扱いされた腹いせでもある。なにより戻ってもまた辞めたくなるのは目に見えていた。

占い好きの学生バイトに転職するなら今年と言われていたのも大きな理由である。現に今は年収も増えて休みがまともにある。

もっと早く転職すればとも思うが、占いが当たっているなら失敗していたかもしれない。


コーヒーを飲み終わり客先を出た。

営業といっても仕事の話は最初の10分ほどで後は世間話ばかりである。

そのほとんどの内容は客先を出る時にはもう忘れているような中身の無い話だ。

だがたまに、興味深い話もある。


国内シェア1,2を争う大企業の得意先に営業に行った時事務員たちからこんな話を聞いた。

うちのライバル企業で数億円にものぼる横領が起きたという噂。そしてその犯人が35年勤めている経理のパートというのだ。

その真相が気になり、俺は調べることにした。

以前業界の会合で知り合ったライバル会社に勤務している黒石に聞いてみた。

「あぁ、早坂さんね。あの人行方不明になったよ。」

そう言って事の経緯を教えてくれた。

早坂は入社10年頃からホストにハマり多額の借金をしていたと言う。同僚や後輩にも借金があり、要注意人物だったそうだ。ある日から借金を徐々に返済し始めてここ最近は大人しく悪い噂は無かったが、横領疑惑が上がり行方をくらましたらしい。ただ、行方不明になる前、仲の良い同僚に

「次の私が来る。早く変わらないと」

と言っていたと、挙動も不審で人が変わったようだった。

未だ早坂は見つかっていない。

そして何より驚いたのは早坂は俺との関係性があった。

俺の母親のパート先の同僚の行っているヨガ教室の先生のお茶友達の息子の奥さんの育ての母親だったのだ。

それがわかった時、俺は衝撃を受けた。

まさかこんな近くでこんな事件が起きているとは思いもしなかった。


なんて妄想を買出しの途中、スーパーのトイレでしている。

コンビニのトイレじゃ店員の目があって長居できないからスーパーのトイレで。

今日も焼鳥を焼かないと。

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