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競技スペースに降りて、審判の説明を聞く。
勝負は三人一斉に行い、審判から負けを宣告されることなく残った者が勝ちとのこと。
どうやら大怪我をする前に、審判が止めてくれるルールであるようだ。
それに一先ず安心したところで、改めて二人と向き合う。
そしてこの対決は実にあっさりと、スポーツのように始まった。
三つ巴の勝負論など知らないが、目障りであろう私に攻撃が集中する可能性もあっただろう。
しかし、真っ先に動いたペルシカの剣先は、ディーバに向いた。
「何をボサッとしているんですか!少しでも勝つ気があるのなら、手伝いなさい!」
ディーバに斬りかかりながらも、ペルシカからこちらに檄が飛ぶ。
「え〜。ペルシカァ、先にあの子倒しちゃおうよ」
「そんな時間、あるわけないでしょう!」
ディーバの腕が、振り下ろされた剣を幾度となく受け止める。
その度に、金属を打ったかのような高い音が響いた。
つまり彼女は、腕、いやおそらく全身をかなりの硬度まで強化しているということだ。
…私の魔法、通んなさそう。
ウーリィの言っていた通りだが、魔力120で防御を張った相手に、魔力100の攻撃は一切通らない。
これまでの対人訓練でもそうだった。
それでも、「何かしなさい」「見てるだけでは何も変わりません」「何のために降りてきたんですか」などというペルシカの熱い言葉を受け、一応、ディーバに向けて魔法を撃ってみた。
魔力の動く感覚はあったものの、やっぱりほら、ディーバには何ら効いていない。
彼女は攻撃を受けたことすら気づいていないだろう。
かくして早々に、二人の熱戦を間近で傍観する私という構図が出来上がった。
それにしてもなぜ、ディーバが勝つと言われているのだろう。
確かにペルシカの剣は通っていない。
魔法で強化した剣なのだろうが、ペルシカとディーバの魔力出力にも差があるようだ。
ただディーバは先程から防戦一方で、防御を少しでも失敗すればやられてしまう状況にある。
二人の実力差がどこにあるのか。
その理由は直にわかった。
ペルシカの動きが突如、目に見えて鈍った。
彼女の小さな呻き声が耳に届いたとき、私の体にも大きな負荷がかかった。
両手足が尋常でなく重い。
そんな状況の中、やっとの思いで振り下ろしたであろうペルシカの剣は、ディーバの腕に負けてパキリと折れた。
その意味を考える暇もなく私は、酷い目眩と急な吐気で、その場に倒れ込んだ。
私に余裕があれば、毒ガスが撒かれたとでも思っただろう。
「ちょっと時間かかっちゃった」
ディーバの悪戯っぽい笑い声が聞こえた。
『これ』が彼女のせいなのだと理解したとき、私の役立たずな頭が、ディーバの通り名を思い出した。
ディーバと初めて会ったあの日、オーストから聞いた彼女の通称。
「…デバフの、女王」
「新人ちゃんは吐かないで待っててねェ」
ぐらぐらする視界を抑えて確認したペルシカは、片膝をつき、うずくまっているようだった。
そこへディーバが近付いていく。
その道すがら、折れた剣を拾い上げた彼女は
「じゃあねェ。ゴリラちゃん♡」
それをペルシカの背中目掛けて、勢いよく突き刺した。かに見えた。
しかしその既のところで、審判からペルシカの負けが告げられる。
ディーバは、つまらなそうな表情を浮かべ、折れた剣をその場に落とした。
次は私だ。
ディーバが、こちらに向き直る。
どうしよう。
いや、どうしろと言うのだ。
私にデバフがかかる前から、私の魔法は彼女に通らなかった。
つまり、仮にデバフが解除出来たところで、私はディーバに敵わない。
むしろ、このデバフがディーバにかかっていたとしても勝てるかどうか怪しいのに、
とそこまで考えたとき、ふと思った。
ロイの『譲受』、あれで譲る・譲られるものは魔力だけなのだろうか。
例えば『これ』を渡せたりしないのだろうか。
試しに、この『デバフ』を『ディーバ』に『譲り渡す』ことを願ってみる。
デバフは当然、ディーバに移らない。
しかし、私の魔力は、大きくうねった。
それは、この魔法の指示が有効である可能性を示していた。
ロイの言葉を思い出す。
この『譲渡』、契約があれば、
僕の魔力を譲り渡すことも出来るんですよ
するともしかして、ディーバと契約さえ結べれば?
ごくわずかな期待に、私の心臓がドキリと音を立てた。
◇
「あれ、疑ってます?」
「疑うというか…」
「この山でも吹き飛ばして見せましょうか」
この男は人畜無害そうな顔でなんてことを言うのだろう。
「…ここはどこですか?」
「ここ?ここは、人間界との境界近くにある山の中ですよ」
「カーブの」
「あ、そうです。よくご存知ですね。カーブの裏山です」
しかしここは、私の知っている裏山ではない。
そして目の前には、三百年も前に死んだはずの魔王がいる。
「今って、何年ですか」
「人間側の暦で言ったほうがいいですか?それなら1206年です」
間違いない。
「…三百年前です」
「え?」
「ここ、三百年前なんです。私、三百年先の、1524年の人間です」
魔王ロイべは一度真顔になってから
「まぁ、座りましょうか」
と微笑んだ。




