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第二師団に入って少し経ち、業務にも慣れてきた頃のことだった。

聖女様から、魔王の伴侶選びを観に行こうと誘われた。


現在、伴侶の候補は二人いるそうだ。

一人は勿論、魔王の私室前で話したディーバである。

そしてもう一人、ペルシカさんという第一師団の副団長が候補であるらしい。

その二人が直接対決をし、勝った方が、魔王の伴侶になるのだと聞いた。


正直、伴侶が選ばれるところなど見たくない。

それでも「魔族でたくさんの会場に私に一人で行けっていうの?」と目を潤ませる聖女様に、「あなた魔族に溢れた酒場で働いてるんでしょう」などと言うことは出来なかった。




そこでこうして、直接対決の場となる会場までやって来た訳なのだが


「前!前行きましょう」


聖女様のはしゃぎっぷりは何なのだろう。

魔王とは、万が一にでも目を合わせたくない。

それなのに聖女様に手を引かれ、ほぼ最前列まで下りてきてしまった。


会場の人の入りはそこそこといったところで、魔王軍の関係者が多いように見える。

会場の大きさも比較的小さめで、文化的に、野次馬が観に来るものではないのかもしれない。

そんなことを考えながら肩身狭く待っていると、真ん中の競技スペースに見たことのある女性が出てきた。


「あ、聖女様。あの手を振ってる人がディーバさんですよ」

「へぇ、あの人がディーバさん。じゃあ、あっちがペルシカさん?」


ディーバに後れて現れた女性を、聖女様が指差した。

美しい金髪を一つにまとめた長身の女性だった。


「多分そうですね。ポニーテールの女性がペルシカさん。私も初めて見るんですけど」


フンフンと話を聞く聖女様。

そんな彼女が次に指を差したのは、


「あっ。ねぇ、あの人。あの人ってもしかして」

「…魔王ですね」


競技スペースから一段高い位置に座る魔王であった。

膝を組み、肘をつく気怠そうな姿でも華があるのだから不思議だ。

彼の周りには、なんとなく見たことのある面々が並んでいる。

聖女様の席取りは完璧で、戦う二人からはもちろん、魔王からも程近い。

あまりジロジロと見ることのないよう、私は目線を下げた。


審判らしき人物が現れたところで、どうやらそろそろ始まるらしい。

詳しい理由は知らないものの、ディーバが勝つことはほぼ決まっているそうだ。

しかし、第一師団の副団長といえば相当な


「ちょーーーっっと!待っったぁーーー!」


まさに対決が始まろうとしていたそのとき。

その場に水を差す大きな声が、会場に響いた。

よく通る、その透き通った声が、私は昔から大好きだった。

それなのに今は、ひたすらに嫌な予感がする。

私は目を伏せたまま無言で、立ち上がった聖女様の服を強く引っ張った。

しかし彼女が止まることはなかった。


「その勝負ッ!」


やめて


「ここにいるッ!」


やめてやめて


「魔王の元カノもッ!参加しまーーーっっす!」


やーーーん!


会場が俄に騒ぎ出したにも関わらず、耳が遠くなるのを感じる。

魔王が「僕に元カノいたんだ」と言ったような気がした。

これぞ本当のカクテルパーティー現象である。


聖女様が「エディ!ほら、立って」と言った。

今、立ち上がって大声で訂正すれば、無かったことに出来るのだろうか。

そんな気持ちで、俯いたまま、ゆっくりと立ち上がった。


「貴方!やめておきなさい、怪我では済まないかもしれませんよ」


ペルシカから声をかけられる。

この人はきっと良い人だ。

その言葉に乗っかってと思いきや、


「え〜。私はいいよ?後から因縁つけられても嫌だし。ホラ、降りておいでよ〜!」


ディーバがすかさず口を挟む。

聖女様から「降りてきていいって!あの人、良い人だね♡」と笑顔で耳打ちされた。


「ディーバも適当なことを言うのはやめなさい。実力差があり過ぎるでしょう」

「え〜。誰と誰が?私とペルシカ?」


ペルシカが顔を歪める。

それに追い打ちをかけるように「だから誰が相手でも同じだって言ってるの」とディーバが笑った。


「いいじゃない、あの子、魔王さまのことが好きなんでしょ。思い出作らせてあげようよ」


「ね、いいですよね、魔王さま」と言って、ディーバが魔王の方を向く。

魔王は、勝手にしろとでも言うように、手を振った。


「ホラいいよ。降りてきなよ」


ディーバから再び声をかけられる。

勝てる見込みが無いことはわかっていた。

魔王軍の中でいえば、私は一介の兵士にすら及ばない。

隊長、副隊長格の人に敵うはずがなかった。

それでも


『困難な状況でも諦めないんだっていうところ、僕に見せてください』


私には呪いがかかっているのだ。

諦めなければいいというだけなら、やってやる。


魔王の元カノ?

魔王のことが好き?

勝手なことばっかり言って。

魔王も止めろ。


聖女様の席取りは完璧で、競技スペースに降りる階段はすぐ近くにあった。

そこへ向かって、私はふらふらと歩き出した。

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― 新着の感想 ―
聖女様の毒のない快活なところ大好きです!かわいい!アシスト最高!!!
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