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村は半壊、重軽症含め怪我人が多数、しかし死者は出なかった。
これは村人達の作戦と努力の結果に他ならない。
そしてあのタイミングで助けが来たのだ。
私が出ていったことに大した意味はなかっただろう。
それでも、カリンが母親と抱き合う姿を見ると、自然と頬が緩んだ。
幾分か状況の落ち着いたとき、
「エディ、お前、魔法が使えたのか」
私が『あっちに行って』(仮称)を使ったところに居合わせたであろう人から、声をかけられる。
「いや、使えたわけでは…」
「え?!先生、魔法がつかえるの?!」
「俺、魔法、見たことない!」
聞きつけた子ども達からあっという間に囲まれた。
「見せてー!!」
「いや、見せるほどものじゃ」
「なんで?!すごいじゃん!」
「いや、すごくはな
「いや、すげーよ」
会話に割って入ったのは、魔王軍の内の一人であった。
「あれ、上級の神聖魔法だったろ?簡単に打ち消せるもんじゃねーよ。しかもあんな寸前で」
「…見えてたんですか」
寸前だったのは勿論、意図してやったことでは無い。
そんなこちらの気も知らず、「そこで相談なんだけどさ」と男が続ける。
「キミ、魔王軍に入らねぇ?」
「はい?」
「すごい!」「カッコイイ!」「いーなー!」と騒ぐ子ども達をとりなしながら、
「待って待って、無理です、無理」
と私は慌てて首を振った。
「無理じゃねーよ。才能あるって」
「私、人間ですけど」
「んなん見たらわかる。こっちから人間殴りに行く訳じゃねーんだから、別にいいだろ」
「あ、あと、私、魔王城には居られないです」
魔王軍の男は「は?それってどういう意味で?」と言って、不思議がった。
どういう意味もこういう意味も、魔王に会うと気まずいからである。
ただそう素直に言うことも出来ず、「過去にちょっと」と言葉を濁した。
訳ありであることは伝わったはずだ。
それなのに男はなぜか引き下がることなく、「まぁいーや」と納得してしまった。
「魔王軍にも色々あんの。第四に配属されりゃ地方勤務だから。ここみてーな田舎の村を守れるぜ」
「それ、配属希望、通るんですか…」
「通るだろ?」
なぜ疑問形なのか。
「まーさ、希望通らなかったら辞めりゃいーじゃん。魔王の負け戦、一緒に戦おうぜ」
魔族の中にも、今度こそ魔王が勝つのだと信じている者はいない。
それはわかっていたはずなのに、なぜか今になって、妙に気に障った。
「…負け戦かどうかは、まだ、わからないでしょう」
「そー思うなら、手伝えよ」
男がにやりと笑った。
今回のことだけで、私は『困難な状況でも諦めな』かったのだと胸を張ることは出来ないだろう。
何ならロイは、この魔力で勇者に勝ってみろよと言っていたようにも思える。
そして私は、この村を捨てて逃げようとしたのだ。
いずれにせよ、ここでこのまま暮らしていく資格があるとは思えなかった。
魔王の目に触れないところで、貰った魔力に報いる方法があるのならば、それも悪くないのかもしれない。
ところで私を誘ったこの男、名をノーダチャンクというそうだ。
ノダックと呼んで良いとのことなので、じゃあノダック、二つ三つ言わせてほしい。
魔王軍は確かに、配属先の希望が出せる。
第四が地方勤務なのも確かだし、第四であれば配属希望も通りやすいと言われた。
しかし、本配属までの研修の多くが、魔王城及びそこに併設された軍本部で行われるというのは聞いていない。
あとちなみに、魔王軍は人手不足だったりしないだろうか。
私の入軍は、執拗かつ大いに歓迎されてしまった。
ここでやっぱり辞めときますと言える奴が、果たしているのだろうか。
ということで私は目下、もう近寄ることすら無いと思っていたあの魔王城で、魔王軍の入軍研修に従事している。
研修中は有難いことに、色んな仕事を一通り体験させてもらえるそうだ。
そして今日の夜はなんと、魔王さまの私室前の警備を経験できるのだとか。
恐れ多くて、泣きそうだった。




