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そもそも、魔力とはどうやって使うものなのだろうか。

呪文が無い時点で、神聖魔法の使い方は参考にならない。

また、もっと直感的に使うものなのだとも聞いたことがある。

魔王の使っていた魔法を思い出してみると、「邪魔な人を飛ばす」「望んだ場所に移動する」「壁に穴を開ける」?

確かに直感的、むしろ直情的なものばかりだ。

それ故に教会は、魔族の魔法を黒魔法と呼び、下等なものとして軽んじていたのだが。


そんなことを考えながら走る内に、夜が明け、私は村の裏手にたどり着いた。

そこに人陰は無い。

しかし、周囲には重低音が響き、その合間には喚声が聞こえる。

既に何らかの襲撃を受けていることは明らかだった。

私は、細い灰煙の上がる村中央へと急いだ。




戦闘が間近に迫ったところで、私は建物の陰に身を隠した。


ここから確認する限り、相手の数は五人であるようだ。

剣士三人に、魔法使いが二人だろうか。

いずれにせよ、村一つ壊滅させるには余りある戦力だった。


魔法使いが建物を壊し、それに抵抗する人々を剣士が斬りつけるというその様は、実に手慣れている。

それに村の装備で敵うはずもなく、村人達は次々に倒されていく。

その面々全てが見知った顔なのだから、私は声を抑えるのに必死だった。


『どうしよう』が頭を埋め尽くす。

その先を考えるための余地も無い。

敵はもう間近に迫っている。

それなのに私の足は、『どうしよう』の答えを求めて動かない。


そんなとき、女性の逃げる声が聞こえた。

女性の声は目立つ。

今この村に残っている女性はほとんどいないからだ。

反射的に確認した声の先には、カリンの母親がいた。

彼女は、私より一分一秒でも長く生きていなければならない人だ。

動く理由を探していた私の体が、そこでやっと、動いた。


神聖軍の兵士が、カリンの母親を追う。

前のめりに走っていた母親は、遂にバランスを崩し、勢いよく地面に倒れ込んだ。

彼女が立ち上がるまでの僅かな時間で、兵士との距離はみるみる縮まる。

彼女の背中はもう、男の間合いの中だった。

兵士が自らの剣を振りかぶる。

その剣先は、


「っエディ?!」


母親を突き飛ばし、両者の間に割って入った私の腕を掠めた。


「逃げて!」


兵士と目を合わせたまま叫ぶ。

男に、カリンの母親を気にする素振りは見られない。

男の標的が、私に移ったのだ。


後退りする私に、男が剣を構え直す。

どうしようすら無くなってしまった頭の中は真っ白だ。

ただただ『止まって』と祈った。


するとそのとき、私の体の中で、何かがザラリと動いた。

神聖力を使ったときと少しだけ似ていて、でも全く違う。

私の中に、神聖力ではない何かがあった。

しかし当然、目の前の兵士は『止まって』いない。

何かが違う。

何かが足りない。

剣を振り上げる男の前で私は、必死に『止まって』『来ないで』『止めて』とガチャガチャ命令を入れ替えた。

剣が打ち下ろされたのと、私が『あっちに行って』と願ったのは、ほぼ同時だっただろう。

そこで、何かがガチャリとはまった。

体の力がふっと抜ける。

その瞬間、兵士が後ろに吹き飛んだ。


『あっちに行って』?

吹っ飛んだ兵士は文字通り、『あっちに行って』倒れている。

きっとこれが黒魔法なのだろう。

でも発動条件がわからない。


「エディ危ない!」


はたと我に返った。

慌てて顔を上げ、そして視界の端に詠唱中の魔法使いの女を捕える。

この位置からだと呪文は聞き取れない。

しかしこういうときに使われやすい神聖魔法というのも限られていて、例えば


「ファイアーボール!」


そう、ファイアーボールだ。


魔法使いの詠唱は、最後の部分だけやけにハッキリと耳に届いた。

女の手元から、人の頭ほどの五つの火球が放たれる。

その進行方向にいるのは私で、そのときやっと、それらが私に向かって投げられたものなのだと理解した。

考える時間など無かった。

もう、さっき嵌まった言葉を試すしかない。

熱いと感じそうな距離まで迫った火球に私は、『あっちに行って』と願った。

私の魔力が再び動いた。


結論、火球が『あっちに行く』ことは無かった。

すぐ目の前で、ただただ、弾けるように霧散したからだ。

魔法使用後の脱力感も相まって、思わずその場にへたり座り込む。

そのとき誰かが


「助けが来たぞ!」


と言った。

振り返ると、五、六名の集団がこちらに歩いてくるのが見えた。

彼らの服装には見覚えがある。

あれは魔王軍の制服だ。

それに神聖軍の兵士たちも気付いたのだろう。

ここで魔王軍と事を構える気は無いようで、彼らは早々に撤退の姿勢を見せた。

そして、


「なんだ。もういねーじゃん」


魔王軍の助けが村中央に着いたときにはもう、神聖軍の姿は無かった。

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