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「ということは僕が、三百年先の世界から貴女を呼んでしまったんですね」


これが、我々の出した結論だった。

かつての魔王ロイベは「うーん。あり得るかな」と自嘲気味につけ足した。

もしそれがあり得ないなら、これは私の夢の中だ。


召喚には、少なくとも何らかの契約が必要であるらしい。

その契り方には色々とあるものの、主人から『何か』をもらうことが基本であるそうだ。

例えば『相手の血』を飲むことでも契約になるのだとか。

そう言われると、思い当たることがある。


「細かいことはいいか。丁度、話し相手が欲しかったんですよね。折角だから、少し付き合ってくれますか?」

「…それは、いいですけど」


話し相手が欲しかったのは、むしろ私の方である。

それを誤魔化すように、出された葡萄ジュースに口をつけた。


「じゃあ、早速聞きますけど、なんでこんな辺鄙なところで魔王さまが野宿してるんですか」

「あ、ロイでいいですよ」


やはりここは、カーブの裏にある山の中であるという。

魔王城からはかなりの距離があるし、人間界との境界付近と言っても支障のない場所だ。


「この辺りって、懐かしいんですよね。田畑の広がる中に、農村と森林が点在していて、それを山が囲んでいて」

「…生まれがこの辺りですか」

「いえ、僕は都会っ子ですよ」


なんだコイツ。

焚き火越しに冷めた視線を送ると、ロイは嬉しそうに目を細めた。


「明日、ここを、勇者が通ります」

「…ここを?何のために?」

「それはもちろん、魔王討伐に向けて、魔王城に行くために。この山を迂回すると、川もあって遠回りになりますから」


ロイが、枝を折って、焚き火にくべた。


「じゃあ、ここで、それを迎え撃とうと?」

「迎え撃つ…というか、僕は勇者に勝てませんからね。どうせなら、早く終わらせようと思っただけです」

「でも、勇者に勝てないかどうかは戦ってみないと」

「戦うまでもありません。この世界はそうなるように作られてますから」


確かにこれまで、勇者は必ず、魔王よりも強かった。

そうなるように作られているのだと言われても、反論のしようが無い。

しかしそれでは、『あの』魔王も近く、必ず勇者に倒されることになる。


「現に、僕、負けましたよね?」


ロイのダメ押しに、私は答えることが出来なかった。

十代目魔王は確かに、勇者に敗れている。


ただ、彼には一つ、謎があった。


「…あなたは今も、史上最強だったと言われています」


それにロイは「へぇ、そうですか」と抑揚のない相槌を打った。

まるで当然のことであるかのようだった。


「それなのに、勝てる見込みがあったのに、無策にも一人で、勇者率いる神聖軍の軍勢に挑んだと」


魔王城で読んだ本には、そう書かれていた。

でも私は、その理由が気にならなかった。

奢っていた、あるいは誰かに騙されたのだろうと思っていたからだ。

しかし、当の本人と話してわかった。

私の推測はどちらも外れている。


一息置いてから私は、


「なんでそんなことしたんですか」


と言って、焚き火に淡く照らされたロイの顔を見た。

ロイは、小さく笑った。

私には、自分の死後も、自らの行動の理由が明らかとなっていないことを喜んでいるように見えた。


「過去に戻って聞くのはズルですよ」


まぁそれはそうかもしれないが。

私は再び、葡萄ジュースで喉を潤した。


「それより、貴女のことも教えてください。どうしてこんなところにいるんですか?キャンプ?」

「…状況はロイとちょっと似ていて、明日の朝、神聖軍がカーブを襲撃するらしく」

「あぁ。それで避難を?」

「戦えないお年寄りと子ども、あと女の人だけです。私は、逃げようって言ったんですけど、村の皆は戦うと」


ロイがきょとんとして首を傾げる。


「ただの村人じゃ、神聖軍に勝てないでしょう。それなのになんで戦うんですか?」

「それ、さっきまで散々、自分は勇者に勝てないって力説していた貴方が言うんですか。まぁ、いいですけど」


とは言うものの、自分の意見にやっと賛同を得られたような気がして、少し嬉しかった。

それで、何となく、気を許してしまったのだろう。


「無理なときでも、諦めない人っていますよね。私は、無理なときは無理だって直ぐに思っちゃうので、ちょっと羨ましいです」


気が付くと、神聖力を失ってからずっと思っていたことを話していた。

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