表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/37

22

村の外れには、小さい山がある。

そこには昔からの野営地があって、今でも猟師の間では使われているそうだ。

老人と子ども、そして女性の避難場所として選ばれたのは、その野営地であった。


大人が一様に落ち着かない中、状況を理解出来ずに燥ぐ子ども達もいた。

中央に作られた焚き火の周りを走っているのはダンとミークだろう。

二人はいつもふざけ合う。

一方で、大人達の雰囲気を察して不安げにしている子も居れば、おそらくこの状況をきちんと理解している子もいる。

『子ども達の先生』を自称しておきながら、そんな彼らにかける言葉も見つからず、我ながら呆れてしまう。

村の大人に混じることも出来ない私は、大きな木を背もたれに、山に響く夜鳥の声に耳を傾けた。


「せんせ」


その小さい声に気が付くと、前にカリンが立っていた。

熊の縫いぐるみを抱きしめた彼女は、目を伏せ、口をもごつかせている。


「どうしたの?」


努めて普通の声色で尋ねた。

しかし彼女は答えない。


「どこか痛いの?」


それでもまだ彼女は俯いたまま。

カリンが言いたいのは、そんなことではないらしい。

この年の子が、あえて私に言いに来たのだ。

そう考えると彼女は、『母親に言えないことを言いに来た』もしくは


「…お母さんは?」


『母親のことを言いに来た』のだろう。


「…来てない。お父さんと、お家に残るって」


私の考えは当たったらしく、カリンの丸い双眸がちらりと持ち上がった。


「来てないって、じゃあここまでどうやって来たの?一人?」

「おばさんと、いっしょにきた」


カリンの母親はどんな人だったか。

そんな私の思考は、彼女の「ねぇ」という可愛らしい声で遮られる。


「なに?」

「『おばさんの言うこときいて、みんなから好きになってもらえる人になりなさい』って、どういういみ?」

「…お母さんに言われたの?」

「そう」


それがどういう意味か。

村と人の価値さえ測りかねた私に、わかるはずもない。


「それは、お母さんが迎えに来るまで、おばさんの言うこと聞いて、お利口にしてなさいっていう意味でしょ?」

「…そっか」


彼女の目が、再び地面を映す。

きっとそれは、彼女の求めていた答えではない。

村は疎か、一人の少女にさえ出来ることの無い自分に、ほとほと嫌気が差す。

それを詫びるような気持ちで、立ち去る気配の無いカリンに「あのさ」と声を掛けた。


「先生、一人でちょっと寂しいな。ちょっとだけ、お話ししない?」

「…うん」


私の隣に、カリンがぽすりと座る。

距離を誤ったのか何なのか、カリンの腰が私にピッタリとくっついた。


子ども独特の体温を感じながらポツポツと、短い言葉を交わす。

一人じゃないことだけを確認するような、取り留めのない会話。

遠すぎる夜空の下、この繋がりに縋ったのはきっと、私の方だった。




夜が増々と深まった。

中央の火が落とされたことも相まって、辺りの温度が一段下がる。

うつらうつらとしたカリンは、彼女の叔母に手を引かれ、私の元を離れていった。

少ない明かりの中、目を凝らして見えた人影の多くは、まだ寝付けないでいるらしい。

私の重い頭も、眠る気はさらさら無いようだ。


それでも、目だけは閉じていよう。

そう思ったそのとき。


気付けば私は、『知らない場所に立って』いた。

反射的に周囲を確認し、いや、全くの見知らぬ場所ではないと思い直す。

ここはきっと、私がさっきまでいた野営地だ。

避難した住民もいない。

キャンプサイトとして整えられた部分も狭い。

それでも、木の生え方や土の色、そして遠くに聞こえる夜鳥の声は、あの野営地とそっくりであった。


夢を夢であると知覚できるのは才能だ。

もう少し支離滅裂なことが起こってくれないと、私には夢と現実の判断がつかない。

その『何か』が起こるのを、小気味良い焚き火の音を聞きながら、ただ待っていると


「あれ?君、誰?」


その『何か』は意外と直ぐにやって来た。

ほんの一瞬、魔王に声をかけられたのかと思った。

それなら、すぐに夢だと気付けたことだろう。

しかし振り向いた先に立っていたのは、大きな灰色の目が印象的な、線の細い、色白の男であった。


「いや、違うか。僕が呼んじゃったのか。でもそんな契約したっけ、人間と」


スラスラと独り言を言いながら、その男はこちらに歩いてくる。

その手には枝が集められており、この焚き火を起こしたのが誰であるかを物語っていた。


私の近くで立ち止まって、男は言った。


「わかりますか?僕のこと」


わからない。

年は私よりもやや上だろう。

男の顔を見たまま黙っていると、


「僕はロイベ・アダンって言いまして」

「…ロイベ・アダンって、もしかして」

「あ、ご存知ですか?そう、僕、魔王なんです」


男は人当たりの良い笑顔を浮かべながら、三百年前に倒された魔王の名を名乗ったのだった。

好きな話などあればイイネしてもらえると嬉しいです、今後の参考にします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ