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準備が整ったのを確認して、私は


「わー!!!」


思い切り、大きな声を上げた。

二、三度叫んだところで、


「おい!静かにしろ!」


遠くから声が聞こえた。

計画通り、見張り役に目をつけられたようだ。

それに構わず、声を張り続ける。

すると、見張りの男が「やめろ!」と言いながら、こちらに近付いて来たのがわかった。


扉の前まで来た男はきっと、


「…ん?」


扉に開いた五つの覗き窓全てが塞がっていることに気が付くはずだ。

以前ここを訪れた際に教えてもらったことだが、この五つの覗き窓は、どんな大男を以てしても一度に塞ぐことが出来ない配置で作られているのだという。

左側に三つ、右側に二つ、郵便受けのような形の窓だが、確かにいざ内側から見てみると、手足体をどう使っても全てを一度に塞ぐことは出来ないだろう。


それを私は、ネズミで塞いだ。

正確には、内側からの視界を遮るために作られた窓の庇にネズミを乗せて、私の服の切れ端を垂らすように持たせた。

小ネズミの握力は些か怪しく、彼らの布が窓を完璧に覆っているとは思えないものの、この薄暗い中である。

外からの視界を何らか邪魔出来れば十分であった。


「おい、何をした!おい!」


外の怒声を無視していると、見張りの男の舌打ちが聞こえた。

どうやら痺れを切らしたようだ。

男は、私の牢屋の扉を、用心深く、僅かに開いた。

床に座っている私と、男の目が合う。

私は、無意識ながら、笑顔で会釈を返した。


「…?」


窓を塞いでいるのが私でないとわかり、男は怪訝な表情を浮かべた。

そして、扉の内側を確認しようと思ったのだろう。

男の肩から上だけがゆっくり、部屋の中へと挿し込まれる。

開いた扉から私が逃げないよう、扉と男の体はぴったりとくっついている。


そのまま男がもたれるように、じりじりと開いたその扉を、私は思い切り、蹴り開けた。


「おぉっ?!」


部屋の中へとつんのめった男の肩口に、手をかけ、思い切り体重を乗せる。

倒れ込む男を乗り越え、男と入れ替わるように、牢屋の外へと飛び出した。

すかさず、開ききった扉を閉じる。


これも以前ここを訪れた際に聞いたことだが、この扉には鍵など無いそうだ。

外側からはいつでも開くし、内側からは決して開かない仕組みなのだという。

つまり、


「おいっ!出せ!!!」


まずは牢屋から脱出することが出来たと言える。

いつの間にか私の肩に乗っていたネズミ達から、「ワァー!」と歓声が上がった。

今のところ、他の見張りはいないようだ。


上手くいってしまったというのが正直な感想だった。


「早く行こう」

「いこう!」

「…そう、だね」


そのままネズミに急かされ歩き出す。


しかし、これからどうしたものか。

ここは王城の地下であるはずで、肩にネズミを乗せた私が(?)、誰の目に触れることもなく敷地外に出るのは不可能だ。

そこら中に衛兵がいることだろう。

かと言って、突き当りの階段まで、廊下と牢屋が続くだけのこの場所に留まることも出来ない。


まぁ階段を登ってみるしか…と思っていたところ


「流石、天晴じゃ!」


と声を掛けられた。

どこかの牢屋の内側から。


口調の割に若い声だなと思いつつ、もちろん無視をする。

牢屋に入れられているのだ。

ろくな奴であるはずがない。

ネズミが増えるのもご免だった。


だから立ち止まることなく廊下を進んだのだが、「待て、通り過ぎておる」「ここじゃ、ここ、ここ」「聞いておるのか」「耳をやったか」などという声に混じって


「おい、止まれエディ」


と聞こえてしまったものだから、思わず足が止まった。

もちろん、止まれと言われたからではない。

渋々少し戻って、声の主がいるであろう牢屋を覗き込んだ。


「なんで、私の名前を」

「おぉ、やっと気づいたか!」


そこに居たのは、肩までの銀髪と、深い青色の目が印象的な男であった。

歳は三十前後といったところだろう。


「見張りの男が喚いておったから聞こえんかったんじゃろ。しかしやはり自分の名前には自然と注意が向くらしいの。知っておるか、これをカクテルパーティー効果と言って」

「…なんで私の名前を知ってるのか、聞いてるんですけど」


こんな男が知り合いに居た記憶は無い。

しかし男は、私の問いにおそらくあえて答えることなく


「ここから出せ。助けてやろう」


と言って、得意気に口角を上げた。

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