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次に目を覚ましたとき私は、汚く、埃っぽい床に転がっていた。

口にはまだあの苦く、生臭い感覚が残っていて、思わずえずく。


タドラ大司教に飲まされたのは血だろう。

なんの血か分かったものじゃないが最悪だ。


いやそれより、私の神聖力は本当に失われたのだろうか。

試しに、自分の手の甲を、小さく噛んでみた。

ピリッとした痛みを感じ、手に血が滲む。

しかし、その傷口がすぐに塞がることは無かった。


「…最低」


どうやら本当に、私の神聖力は消えてしまったらしい。

聖女の資格が惜しかった訳では無いが、生まれながら当然に持っていた神聖力を失ったことは相応に辛かった。


すっかり気落ちしていることを自覚しながらも、とりあえずここはどこだと視線だけを動かした。

真っ先に目についた鼠の死骸を無視するならば、薄暗く狭い部屋の中には何も無い。

しかし、錠がされているであろう扉には五つの小さい覗き窓が付いており、これには見覚えがあった。

ここはおそらく、王城の牢獄だ。

大教会に忍び込んだ犯人の面通しで、一度来たことがある。

大教会と国王の蜜月は知れたことで、ということはここで私がなんと喚こうが、出してもらうことは出来ないだろう。


絶望的な状況を把握したところで、口から浅い溜め息が漏れた。

壁に背を預け、思い起こされたのは


「聖女様…どうしてるかな」


聖女アメリア様のこと。

アメリア様はきっと、私が『こんなこと』になっているなんて知らないはずだ。

あの人は間違いなく聖女であった。

それに神聖力の高さなどというのは関係が無いだろう。

彼女は優しく素直で利他的で、皆から愛されていた。

民を思い、私のことをいつも気にかけ、勇者を尊敬し…


「勇者か」


勇者はこの状況をどう思うだろう。

あの男、勇者らしい正義感があることは認めるが、いかんせん思想が強すぎる。

私のことも全部知っていた上で、「社会にとってメリットがあるなら仕方無いだろ」とかなんとか言われそうだ。


まぁいずれにせよ悲しいかな、私がいなくても、この世界は上手くいくのだろう。

聖女アメリア様と勇者の力で、魔王はきっと倒される。


「魔王は、きっと、倒される」


何百回と聞かされた、人間界の悲願。

そこに違和感を感じたのは、このときが初め


「オイ」

「きゃあ?!」


あらぬところから聞こえた声に、心臓が止まった。

いや止まりかけた。

私の視界がすぐに足元を映す。

そこに居たのは


「…ネズミ」


ネズミだった、五匹の。

大きいの二匹と、小さいの三匹。


「オイ、ここから出るぞ」

「でるぞ!」


『生きているネズミもいたんだ』などと考えている暇は無かった。

床にちまりと座ったネズミ達が、しっかりと喋っている。

冷静に考えて、飲まされたものに幻覚作用があったのだろう。


「オイ、聞いてるのか」

「るのか!」


他人の寝言と会話してはいけないと聞くし、これもきっと、無視をした方がいい。

しばらく様子を見て、ネズミ達が消えるかどうか、確かめることにした。


「オイ、無視するな」

「するな!」

「オイ、聞こえてんだろ」

「てんだろ!」

「オイ」

「おい!」

「オイ」

「おい!」


ダメだ、うるさくて我慢ならない。

祭りみたいな掛け声が耳に障る。


「あの、静かにしてくれないかな」


焦れた私がネズミに話しかけると(ネズミに話しかけると?)、ネズミ達から「ワァ!」と歓声が上がった。

心底、話しかけなければ良かったと思う。


「ここから出るぞ」

「でるぞ!」

「まず、君たちは黙ってもらえるかな」


大ネズミの言葉尻を繰り返す小ネズミ達を、声色と視線で黙らせる。

傷ついた表情を浮かべた小ネズミ達は、大ネズミの後ろにサッと隠れた。

罪悪感を感じてしまう自分が悔しい。


「私はここから出れないから。あなた達だけで出てね。なんかそこら辺に穴とか開いてるんじゃ

「どうして出ない?」

「…いや出ないんじゃなくて、出れな

「出れたら、出る?」


出れたら、出る?

いやでも


「出ても…」

「ヨシ、出よう」

「でよう!」


いや聞けよ。

再び顔を覗かせた小ネズミが不覚にも可愛かった。


「あのね。ここ牢屋だから、逃げたくても逃げれないの。そういう風になってるの」

「手伝う」

「てつだう!」

「……ありがとう」


私、どこかでネズミ助けたことあったっけな?

前世?前世がネズミ?

いずれにせよ、彼らに話を合わせる方が楽であるようだ。

しかし、ネズミに手伝ってもらったところで、牢屋から出られる訳がない。


そう思いつつも、試しにネズミ達の顔に触れてみた。

「チュウ」とネズミらしい声でくすぐったがる彼らは、どうやら幻覚ではなく、確かに実体があるらしい。

また、先ほどからの動きを見ている限り、普通のネズミよりも器用に手が使えるようだ。

それならば、まぁ、使い様はあるのかもしれない。


ぴったり閉じられた鉄の扉を眺めた私は、ぼんやりとした思考を巡らせた。

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ネズミかわいいです!!「ワァ!」かわいい!
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