第13話 ある魔法少女の誕生日
カコとユメハの出会った日時の設定を変更しました。けっこう前になりますね。
魔法少女が立て続けに行方不明になっているらしい。
ここ半年間にかれこれ20人以上は消えている。
被害者は痕跡もなく忽然と姿を消し、魔法少女が消えている以外に被害はない。
魔法省はこの事件を未確認災獣事件として1級案件に登録、調査を進めている。
*
――そんなニュースの流れているテレビに、ユメハの目は釘付けになってしまっていた。
――ここ半年の間に、関東地方を中心に4級~2級の魔法少女が立て続けに行方不明となっているそうだ。
魔法少女は変身せずとも一般人の10倍以上の身体能力を有する。ただの人間が誘拐している線は薄いだろう。
――なぜかこんなにも胸の奥が蠢くのか。
わからない。
わからない。
ただ、知らなくては。
思い出さなければ
ユメハは瞳を閉じて、睡眠状態に入る。
『――ザー……私は、■■■■■……じゃない、■■■――そう造られたとしても、私は■■■、決して――』
……解析中
【それは許可されません】
【■■■■の権限により記憶データを自動で一部消去します】
――記憶保護プログラムを起動、■■■■の干渉をブロックしました
ユメハは、己の鉄の脳の中にかけられた『セキュリティ』の存在を把握している。
自身の『正体』に繋がる情報をシャットアウトし、脳内のプログラムを改竄する存在が。
ユメハはそれに抗うべく、日々脳内でさまざまなプログラムを駆使して『セキュリティ』の削除を狙っている。
それもこれも全ては……
(カコお姉ちゃんの隣に立つのなら……私は私の正体を把握しておかなければ)
『大切』な人のために、ユメハは一人静かに自己の脳の分析と解析を行う。
魔法少女連続失踪事件。
それは後に、最悪の事件へと発展して行くこととなる――
「ユメハちゃ~ん?」
「カコお姉ちゃん……?」
よだれを垂らして船をこいでいたユメハを起こし、カコは何かを手渡した。
「お誕生日おめでとうユメハちゃん!」
「たん、じょうび?」
ピンクのリボンと金色の紙でラッピングされたそれを開くと、中には愛らしい四つ葉のクローバーの刺繍の施された肩掛けの鞄が入っていた。
「忘れてたのかな? 今日10月23日はわたしとユメハちゃんが最初に出会った日で、ユメハちゃんの誕生日ってことになってるんだよ?」
「失念しておりました」
「お堅いなぁ~? 何はともあれ、ユメハちゃん誕生日おめでとう。プレゼントはどうかな?」
ユメハは無言で鞄を取り出し、肩にかけてみる。
そして鏡の前で真顔のまま観察し……
「【大切にします】」
そう、テンプレートで答えた。
「それからもうひとつ! ケーキも買ってきたんだよ~! 楽しみにしていてね!!」
――豪勢な夕食後、カコは冷蔵庫からホールケーキをテーブルへ持ってきた。
ホールケーキには『誕生日おめでとうユメハちゃん』と書かれたホワイトチョコが乗っている。
「ハッピーバースデーユメハちゃん~♪ ハッピーバースデーユメハちゃん~♪」
暗闇にゆらめく橙色の光が、嬉しそうに歌うカコの顔をぼんやりと照らしていた。
「ハッピーバースデーユメハちゃんー♪ ハッピーバースデーユメハちゃん~♪ おめでと~♪」
ぱちぱちと拍手をするカコを横目に、ユメハはたった1本のロウソクに灯った火を見つめる。
あの日――
渋谷でカコお姉ちゃんと出会った時のことは今も覚えている。
がむしゃらに、災獣を倒さなければと無心で戦っていた。
理由はない。
ただ、戦わなければいけなかった。
そう〝造られた〟のだから。
――思い出さなければいけない。
自分が何者なのかを。何のために『造られた』のかを。何故思い出せないのかを。
でも……
――私の『役割』。それはきっと、人類にとって有益なものではない。
『役割』を思い出した時、私は『ユメハ』でいられるのだろうか?
もしもこの日常が送れなくなってしまうのだとしたら。
「おめでとうユメハちゃん!」
……この笑顔を穢してしまうのなら。
「ふぅっ」
ユメハの吐息がロウソクの小さな灯を闇に融かした。
辺りの空気に暗闇が満ちた。
――『私』は、無知で盲目のままでいい。
今は、まだ。
この仮初の安寧を享受していよう。
今は――
――――――――――――――――
記録――
2015年 10月23日 23時39分
神奈川県 ××市 ××町 ××を中心に、半径11kmの異相空間の出現を確認。
異相空間には当時自宅で就寝中の零級魔法少女『薄明の聖騎士』および暫定3級魔法少女『祝福の簒奪者』の2名が居合わせており、民間人の救助を理由にやむを得ず変身。
――異相空間出現から20分後。
異相空間の消滅を確認。
一連の死者および行方不明者は12000人に上ると見られる。
また、災獣と交戦した魔法少女6名のうち、3名が殉職。
遺体はなく、この記録は薄明の聖騎士の申告によるものである。
魔法省はこの災獣を観測史上3例目の『零級』に認定。
しかし詳細は調査に差し障るとして公表されていない。
――零級災獣『■■■■■』の行方は、今も判っていない。
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