表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/15

第11話 〝力〟の魔法少女の独白

 オレたちに両親はいない。


 母ちゃんは3年前の神災で死んじまったらしいし、残った父親は妻と二人の娘よりギャンブルを優先するクズだった。


 オレと妹……アカメは、遊ぶ金が欲しい父親にヤクザへ売られそうになった。

 だがどうやらオレには『魔法少女』の素質があったらしい。


  すんでの所で初めて魔法少女へ変身したオレは、まだ幼いアカメを連れてヤクザの元から逃げ出した。


 オレの力を使えばあの場のヤクザどもと父親を殺すのは簡単だったと思う。だが、世の中は『力』だけじゃどうにもならない事は知っていた。


 オレたちは逃げた。ヤクザに、父親に見つからないようアテもないまま彷徨った。親戚に頼る訳にもいかなかった。


 橋の下でアカメと身を寄せ合って暖を取った。

 時には泥水を啜り、名前も知らない草を食って腹を壊した。


 だがそんな生活もほどなく終わりを迎える。


 ある日のことだ。オレたちの目の前に、災獣が現れたのだ。


 今思えば大したことのない4級くれえの雑魚。だがまだ戦闘経験もろくにない当時のオレにとっては、恐怖の対象でしかなかった。


 それでもオレは逃げる訳にはいかなかった。後ろでアカメが震えてるんだ。


 オレは災獣に我武者羅に殴りかかった。




 ……そんな姿をどっかの誰かが撮影していたんだろう。橋の下のオレたちへ、魔法省から綺麗な身なりの大人とそいつらを従えるガキが訪ねてきた。


 ……後に世話になる桃姫さんだ。


 桃姫さんはオレたちの境遇を真摯に聞いてくれると、オレと妹を魔法省の権限で庇護してくれた。


 屋根のある家に住まわせてくれた。美味い飯を腹いっぱい食わせてくれた。温かい布団で足を伸ばして眠れた。


 学校へは通わせてくれるし、オレや妹の今後必要になるであろう学費も負担してくれることになった。


 ……もちろん条件はある。

 

 オレが、〝【力】の魔法少女『寂寞の武闘姫(トリスティア)』〟として戦うことと交換条件だ。


 ちなみにだが、桃姫さんはかなり間接的にオレたちの支援をしてくれている。直接会って話したのは最初くらいで、あとは手紙や部下を使って遠回しだ。


 だからか、上層部はオレが桃姫さんと無関係だと勘違いしてるみてえだ。桃姫の息のかかっていないオレをユメハの監視の任務につけるとか言い渡されたときは笑っちまうかと思ったぜ。


 桃姫さんは大恩人だ。



 そんな訳でオレは、災獣と戦う事に何の躊躇も葛藤もない。


 アカメの為ならなんだってやってやるさ。


 見ず知らずの他人なんて、見えねえ場所で不幸になろうがどうでもいい。

 だが、妹のためなら感謝されなくとも泥を被ってでも人助けをしてやる。




 ……そんなオレを、アカメがひどく心配している事は知っている。



『おねがいお姉ちゃん……無茶しないで……』



 どんな大怪我をしようと、死ななければラクリマが治してくれる。一度オレは(はらわた)をぶちまける大怪我を負ったことがある。


 無論ラクリマの力により当日のうちに完治したのだが、アカメにはオレが大怪我をしたという話が伝わっていたらしい。


 その時はひどく泣かれて怒られて……もう心配はかけたくねぇって思った。


 だが戦わない訳にはいかない。


 ……アカメはオレが任務に行く前に必ず、絆創膏をくれるんだ。

 少しでもオレの役に立ちたいって、そう願ってな。


 だからアカメがくれる絆創膏は、オレにとって御守りだ。

 ポケットで腐らせるには勿体ねえ。怪我もなくてもオレは頬に貼ってから任務に就くことにしている。


 そうすりゃ、不思議と『力』が湧いてくるんだ。どんな敵にだって負ける気はしない。


 だからアカメのためなら命だって懸けられる。だが死ぬ気はない。アカメが悲しんじまうからな。








 ……カコは、違う。


 悲しませたくない誰かがいない。


 だから、どこまでも自身を犠牲にできてしまう。



 最強の魔法少女だとか持て囃されて危険な任務に就かされ、時には心ない批判を一身に浴びる。


 ……最強の魔法少女だとか以前に、カコは普通のどこにでもいる女の子だ。


 ただの女の子が、自らを犠牲とし心なき言葉を受け大き過ぎる責任を背負わされている。そして本人もそれをよしとしている。


 あるいは何かに対して焦っているようにも見える。




 だが、ユメハが来てからのカコは少しだけ、楽しそうに笑うようになった。






 ――カコは3年前の大神災で兄貴を目の前で亡くしているらしい。

 両親も幼くして死んじまって、兄貴が親代わりだったという。


 本人は行方不明だと言っているが、災獣に喰われれば死体は出ねえ。……認めたくねえんだろう。






 ……余計な御世話かもしれねぇが、オレはカコのことが心配だった。


 だが、オレじゃあカコの心を救うことはできねえ。カコの兄貴の代わりにゃなれねえ。


 桃姫さんでさえ、寄り添うので精一杯だ。あくまでオレたちはカコにとっては『他人』だからな。



 だが、ユメハは他人じゃない。



 カコはユメハといる時は楽しそうに笑うんだ。カコの中にある焦りみてえなものが、ユメハと一緒にいる時だけは和らいでいるように見える。



 ……きっと、ユメハならカコの心を救えるんだろう。



 どうかユメハよ。……カコの『呪い』を解いてやってくれ。


 カコのダチとして、オレはそんな願いを抱かずにはいられない。






『アナテマ』は『呪い』という意味だったりします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ