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第9話 ある魔法少女は独り決意を抱く

 死者行方不明者126人


 怪我人591人、うち重傷者61人、重体2人



 今回のオシラヒメと呼称されることとなった一級災獣の被害は、居合わせた三人の魔法少女により最小限(・・・)に抑えられた。


 異相空間に魔法少女でない人間が囚われれば、生存は絶望的とさえ言われる。にも関わらず、当時ショッピングモール内にいたおよそ1500人のうち9割が一級災獣の異相空間から生還したのだ。


 ……にも関わらず、ごく一部のマスメディアは魔法省および現場にいた3名の魔法少女の不手際であったかのように報じた。


『零級魔法少女であればもっとやりようはあったんじゃないですかねぇ? これは災獣被害であると同時に、人災でもあったのでは――』


 また、犠牲者の遺族による薄明の聖騎士(アルバ)への風当たりは極めて厳しいものであった。


『娘を返せよぉ!!!!』

『お前らのせいで、お前らが妹を殺したんだ!!!』


『絶対に許さない』


 災獣そのものは既に消滅している。


 故に怒りと憎しみの矛先は、多くの人々を救ったはずの魔法少女たちへと向けられていた。


【国民の血税で飯食ってクソしてるくせに肝心な時に仕事しねーなこいつら】


【怠慢は魔法少女どもが自らの命をもって償え】


【死ねばいいのに】


 他にも……一部の報道を鵜呑みにしたごく一部の者による薄明の聖騎士(アルバ)への非難……というより、中傷と呼べるような声もネット上では散見される。



 それらの声は決して多数派ではない。ごく一部の少数派によるものである。



 だが時として――

 一の罵声が10の応援に勝ってしまうこともある。





「ねえももひー……わたしどうすればよかったのかな」


「……どうしようもなかったと思いますよ」


 執務室にて異相空間での出来事を桃姫に報告していたカコは、ぷつりと糸の切れたかのようにか細い声でそんな弱音を漏らした。


「……と言っても、納得はできないのでしょうね。

 貴女は強いですから、己に大きな責任があると思っている。それは間違いではないです。しかし、いくら強くても貴女は1人の子供なんです」


 9割の人間を救っても、手から零れ落ちた1割の犠牲者がいるという事実は変わらない。


「それでも……助けられなかったのはわたしのせいで――」


「それでいいんです。救えなかったと悲しむのは構いません。しかし、背負うのは貴女の役目じゃない。それはあなたの『罪』ではない」


 桃姫は静かにかつ、厳かに小さな口でカコに告げる。


「〝それら〟は我々大人が背負わなければならない業です。

 これは感情論ではなく『義務』の話です。私は大人で貴女はまだ子供。そこを履き違えてはなりませんよ」


「……大人って、その見た目じゃ説得力ないよ?」


「……人が真剣に励ましているのに茶化さないでもらえます?」


 頭半分ほど小柄な桃姫に、カコは気の抜けた言葉を返す。


「ありがとうももひー。少し頭が冷えたよ」


「なら良かったです」


 過去はどうしようもない。『あの時どうすれば』などいくら悩んだところで、何の解決にもならない。


 カコとてそれは分かっている。分かっていても、感情はどうしようもない。


 だからそういう時は、桃姫に今のように話を聞いてもらうのだ。そうやって感情とすべきことを切り離す手助けをしてもらっているのだ。


 心のつかえが取れた訳ではない。人命を取り零したのは今回だけでなく、過去にも何度かある。


 ただ、その度に桃姫に言葉で頼っている。桃姫との付き合いはとても長い。

 桃姫はカコにとって唯一の理解者でもあり、母親のような存在と認識しているのだ。


「……そういえば貴女が駐車場に放置していた購入品は回収しておきましたから。食材は冷蔵庫に保管してあります」


「! ありがとうももひー!!!」


「……今回だけですからね」


 報告を終えたカコは、そのまま施設の地下へと駆けてゆくのであった。


 そして執務室に残された桃姫は、独り呟く。






「……兄の背を追い続けますか」





 桃姫は嘗てのカコとその兄との思い出を馳せる。


 カコにはかつて兄がいた。


 彼は責任感の強い少年で、もしも女性として産まれて魔法少女の才に恵まれていたならば良い魔法少女となれたであろう。


 とても清々しい少年であった。歳が近ければ惚れていたかもしれない。



 しかし、あの事件さえなければ――




 〝西神奈川大神災〟さえなければと、そう思わずにはいられない。


 いや、桃姫に限ったことではないだろう。カコも、フウカも、あらゆる人々が同じ思いを抱いている。


 何より大神災はまだ終わっていない。問題を先送りにしているに過ぎない。


「どうか命だけは投げ出さないでくださいね……」


 カコが『守る』ことに執着するのは、兄の末路のせいだろう。今の『盾』の魔法に覚醒したのも、兄を喪ってからだった。


 カコは死ぬ気だ。

 大神災に決着をつけるためならば、自らの命すら擲とうとしている。


 だから、どうか。それだけは阻止しなければ。



 桃姫は1人の友人(・・)として、カコを守る決意を抱いていた。




topic

『おしどりこどもの園』

××県に存在した児童養護施設。3年前に災獣の襲撃により壊滅した。

その後の調査で、この施設を襲撃した災獣はオシラヒメと判明。


追記

更なる調査によると、おしどりこどもの園の運営は、子供の臓器を定期的に中華系マフィアへ売っていた事が発覚した。

とりわけ、肉体の最盛期に近い14歳以上のものが好まれて『出荷』されていたという。


絹糸の魔女(オシラヒメ)』との関係性は不明である。





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