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スングルモ

 惑星γ26星の横断歩道はごぼう200本分くらいの長さがある。舗装はされておらず、紫色の地面が剥き出しでドクダミやらたんぽぽやらが不規則に植えられている。無造作に並べられたレンガの薄いブロックによってかろうじて歩道だと認識出来るくらいには荒れているのが惑星γ26星の横断歩道だ。

 そもそも惑星γ26星には信号が存在しない。ここには車がないのだから信号がないのは当然なのだが、その代わりにどす黒いスライム状の物体が大体一時間ごとに一、二回通るのだ。

 こいつらが厄介なのは、一度通った道をマーキングするから、もし誰かが彼らの通った道を歩くと、すぐに引き返してきてその侵入者を捕まえて食ってしまう。

 ただ一部の場所は嫌いなのかジャンプしてかわす性質があり、そんな中で残った場所が現在の、他の生き物達のための横断歩道となったわけだ。

 スングルモはその日、急いでいた。スングルモは地球でいう黒猫の一種で、唯一違うのは首の辺りにクラゲの触手のような毛がびっしりと生えていることだ。

 動くクマのぬいぐるみのボダン君と遊びすぎたスングルモは、一日の活動限界である5時間20分のうち4時間30分をボダンと遊ぶと急いで自分の巣に戻っていた。後50分経つと身体が疲弊し、何も出来なくなりその場でうずくまってしまうのだ。

 惑星γ26星では巨大な鳥が生態系の頂点に君臨しており、もし彼らの活動時間にうずくまっていたら小さなスングルモなど簡単に捕食されてしまうだろう。

 スングルモはだから急いでいたのだが、その日は運が悪かった。

 なんと横断歩道を渡る前に大量のどす黒いスライム状の物体がやってきてしまったのである。一度に来るならまだしも今日は列をなしてしかもゆっくりと行進している。

 スングルモはそれを見ると仕方なく彼らに尋ねた。


「ドスグロさん、ドスグロさん。横切るのに後どれくらいかかりますか?」


 惑星γ26星に共通言語は存在せず、違う種族間でコミュニケーションを取る際は目や身体を発光させる。地球でいうモールス信号のようにやり取りをするのだ。

 スングルモに対してドスグロことどす黒いスライム状の物体は身体をミラーボールのように発光させて答えた。


「あと20分はかかるでしょう」


 この横断歩道から巣までは35分かかる。そんなに悠長に待っていられないスングルモはなんとかしようと頭を捻っているとドスグロは見兼ねて提案した。


「では、あなたの首から生えた毛を何本か食べさせてくれたらその分だけ止まってあげましょう」


 鳥に食べられるよりかはマシだろうと首の毛を何本かむしり取ったスングルモはそれを横断歩道の右と左に投げるとドスグロ達がそれに群がった。

 これでジャンプするドスグロを避けて頭を屈めながら歩く必要がなくなったスングルモは堂々と横断歩道を歩くことにした。

 紫色の地面にスングルモの足跡がつく。ドクダミやたんぽぽを避けて進むとあっという間に横断歩道を渡り切った。

 後は真っ直ぐ家に帰るだけなのだが、スングルモは横断歩道を無事渡りきったことで余裕を感じていた。

 故にスングルモは自分の毛に群がるドスグロ達に向かってずっと疑問に思っていた事を聞いた。


「ドスグロさん、ドスグロさん。後一時間もしないうちに鳥の活動時間になりますけど、皆さんは鳥が怖くないのですか?」


 ドスグロはスングルモの毛を全部口に含むと、それを咀嚼しながら答えた。


「怖いですよ。でも考えないようにしています。考えるだけ無駄なので全力で逃げます」


 そう言ってドスグロはまた横断歩道の上をジャンプしながら進み出した。スングルモはそれを尻目に巣を目指す。巣を目指しながら先ほど遊んでいた動くクマのぬいぐるみのボダン君との会話を思い出す。


「スングルモ君は鳥が怖いかい?」


 そのことについてあまり考えた事がなかったスングルモは即答出来ずに唸っていると、ボダンは続けた。


「奴らはコレクションにするために、僕の目ん玉や服のボタンやらを突いては奪っていくんだ。もう生まれただけ損だよ」


 嘆くボダンにスングルモは聞く。


「それなら取られないところに隠したり、逃げればいいんじゃないかい?」


 それに対してボダンは首を横に振りながら嘆いた。


「僕らは簡単に生まれ故郷を捨てられないし、頑張って得たものも簡単に取られてしまうんだ」


 そう言ってボダンは何もせずに横になった。どうやら一日の活動限界が来たらしい。

 そんな事を振り返ったスングルモは残り半分になった帰り道で立ち止まった。

 そして考える。もし自分が何か行動したら鳥が怖くなくなったりするのだろうか?

 そんな事を考えていると突然、スングルモの背後に黒い影が覆い被さった。


「早起きはしてみるもんだな」


 鳥は美味しそうなスングルモを見てそう思った。特に首の周りに生えた毛が美味そうだ。

 じゅるりと垂れた涎を啜りながらスングルモの背後に立つと鳥は告げた。


「今すぐ食われるか、追いかけっこするか。選びな」


 スングルモは走った。怖くて怖くて、おっかなくておっかなくて仕方がなかった。

 鳥にとってはただの遊びだ。本当はすぐにでも取って食えるのにあまりにも簡単に食べられるとつまらないからゆっくりと滑空しながらスングルモを追いかけている。


「どうせ食われるのになんで逃げるのか俺にはわからないな」


 確かにボダンのように諦めてされるがままになったら楽だ。でもスングルモはそんな事を受け入れるつもりはなかった。かと言ってドスグロのように逃げ切る体力も能力もスングルモにはない。

 スングルモは走りながら頭を回転させた。

 とりあえず巣に戻れば大丈夫だ。

 そう思っていた矢先、スングルモの身体が軽くなった。どうやら追いかけっこに飽きた鳥がスングルモの身体の半分を口に含んだらしい。

 意識が遠のく。

 やがて感覚が全てなくなったスングルモを飲み込んだ鳥が呟いた。


「やっぱ死ぬ直前に抵抗しても無駄だな」


 そうして鳥はどこかに飛んでいった。

ホラー小説って書き方分からない

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