落としのヤマさん
自分ではコメディーだと思ってるけどサスペンス要素もちょっとあるふわふわ世界観で事件を解決する話
※試験に落ちる、自爆、自慰などのワードが含まれます
「えー君はもう完全に包囲されている! 諦めて投降しなさい! 」
「うるせぇ! こっちくんじゃねぇ! きたら爆発させるぞ!」
う”ーう”ーーと不快な音が鳴り響くここは、魔法学園都市スカンディラの噴水広場。普段は学生憩いの場として穏やかな雰囲気の場所だが、今は夕暮れで赤くなった街並みにサイレンが轟き、誰もが険しい面持ちで緊迫した空気が漂っている。
警官に投降を呼びかけられているのは、トシロー・オジュケン27歳。最後の受験に失敗した彼は、世を儚むだけでなくなんと自らを爆弾として広場に立て篭もった。そして、自爆テロを行い自らの才能を証明すると宣言したのだ。
事件のきっかけとなったのは今日の昼ごろ。この広場から500mほど離れた場所にある学校の校庭で、合格者の発表があった。喜ぶもの、悲しむものがそれぞれのテンションで帰路につこうとこの広場を通りかかった瞬間、広場中央にある噴水の淵に座っていた一人の男が「うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!」と叫び出し、何事かと注目された途端、バッと着ていたコートを脱ぎ捨てたのだ。
さては露出魔か!? と急いで我が子の目を隠したり恋人の目を隠したりした大人たちは、露出魔の身体を見て驚愕する。
思ったより小さかったとか貧相だったとかではない。彼の体には無数の魔術が刻まれており、ぬらぬらと青白く光っていたのだ。これはほぼ魔法陣が完成しており、最後に魔力を注ぐだけで魔法が行使されるというサインであった。
警戒の色を強くした周りの人間に、満足げな笑みを向けた露出魔は、こう叫んだ。
「俺の才能が分からない馬鹿な世界に知らしめてやるよ! この大天才、トシロー様の最高傑作の人間爆弾でな!!!」
急いで警察が呼ばれた。通報する人々に対して露出爆弾魔は特に反応することなく、にやにやとした笑みを浮かべるだけだった。しかし、すぐさま爆発するわけでないと気づいた受験生や保護者たちが逃げようとすると、途端に怒鳴り散らす。
「おい! 動くんじゃねぇよ今すぐ吹っ飛ばすぞ! 店にいる連中もだ! 一人でもここから逃げ出したら全員まとめて殺す!」
この場には、子供も多い。自分のせいで大勢が被害を受けることを懸念し、誰もが警察が到着するまで動けなかった。保護者たちは自分の子や一人で来ていた子供を盾になるように抱きしめ、広場周りにある商店街や家に住む者たちは家族や仲間と集まって震えるしかできなかった。
警察は通報からすぐに到着した。魔法が使える者がまず噴水を囲うようにして魔法障壁を展開させる。そして警官たちがずらりと並んで、市民たちの壁となった。学校にも連絡がいって、防衛魔法が得意な教師たちが増援に呼ばれている。
この国の治安を守り続けて50年、ベテラン刑事のスズキさんが早速説得を始めた。
「田舎のとーちゃんかーちゃんが泣いてるぞ! こんなことをさせるために育てたんじゃないってな!」
「俺に親父なんていねぇよ! それにおふくろは都市部でバリバリ働いてらぁ!!」
説得失敗。「オレの十八番が破られるなんてな……ヤキが回っちまったようだ」スズキさんは痛む腰を摩りながら退場する。
もう後がなくなってしまった警官たちは狼狽える。そんな彼らの動揺を抑えるために、この場の最高責任者で指揮官のフツーウ・ニイキタイは、ある決断を下すことを余儀なくされた……。取り出した通信機で、何処にか連絡をとっている。
こう着状態の中で露出爆弾魔トシローは、いかに自分が天才的頭脳を持っているか、素晴らしいか、それに気づかない学校ひいては世間がいかに愚かか、などを叫び散らしている。そして、己の力を知らしめるため、警察や学校の教師が張った魔法障壁を打ち破り、この街を壊滅させるのだと。
そんな中、一台のパトカーが到着した。中から出てきたのは、サラリとした指通りの黒髪をショートカットにし、張った胸や尻を惜しげなく見せつけるようにピシャリと背筋を伸ばした、女刑事である。
彼女の姿を目にした警官たちは、「お、落としのヤマさん…!?」「え、あの伝説の……!」「ウソだろ俺初めて見た。」「ママに自慢しなきゃ……」などとザワザワした。
そう、彼女こそ通称「落としのヤマさん」と呼ばれる敏腕刑事であり、警察関係者からは尊敬を集め、後ろ暗いものはその名を聞いて震え上がるほどの実力者である。数年前に異世界から誤って召喚された後、数々の難事件を多彩な「落とし」で解決した伝説を持つ。
ヤマさんは周りの動揺など気にせず、手渡された資料に目を通していた。
「ふむ……トシロー・オジュケン27歳独身。13歳から受験し続けるも、今日年齢制限的に最後となる14回目の試験に落ち、やけになって自爆テロを起こした。父親は有名な魔術師だが認知されておらず、母親は王都で弁当屋を営んでいる、と」
「ヤマさん! お疲れ様です。ご足労頂き感謝いたします! 先程スズキさんによる説得が行われたのですが、家族の悲しみに無頓着のようで……。残酷で、悪魔のような男です」
「あぁ、ニイキタイ警部。報告ありがとうございます。しかしまぁ、名は体を表すというか……十四浪くんね。真面目なのかな」
「は……?」
「いえいえ、こっちの話です。お気になさらず」
ニイキタイは、なにかの暗号かな……? と思いつつ、気にするなと言われたため流すことにした。そして、キリリと表情を引き締める。
「あやつの魔術は、悔しいことに完璧です。専門家に確認してもらいましたが、身体中に刻まれた魔術式に綻びはありません。また狙撃班による空中からの狙撃も視野に入れましたが、魔法弾が身体に接触した瞬間に魔力が吸われ、爆発に至るだろうとの見解が出されました。犯人の意思一つで、高威力の爆発が無差別に被害を起こすでしょう」
「おけおけ。まかしとき。」
「え、ちょっヤマさん!?」
すたすたと犯人のいる噴水に歩いていくヤマさん。ニイキタイはその気軽な雰囲気に驚きながらも、頼むぞ…ヤマさん……! と拳を握って祈る。
オーディエンスは出揃っただろう。そろそろ寒くなってきたし、一発ドカンと決めようかな、と思っていたトシローは、警官の合間からぬるっと出てきたヤマさんに目を向けた。
「女? なんだお前」
「トシロー・オジュケン。才能を示すためとは言え、このような方法しかとれなかったのか? 魔法学校はここ以外にもある。なぜそこまでここに拘る?」
「決まってんだろ! スカンディラ学園は三大学園の中でも魔術式と魔法の効率化の研究でトップだ! そんくれぇのところならマシかと思ってたのに、馬鹿ばっかりでカワイソウだよなぁ!! いっぺん更地にしてやって、俺の才能を見せてつけてやるんだ!!!!!」
ヤマさんはその言葉を聞いて、うん、とひとつ頷いた。そして、拡声器を口元に当てる。
「その意気や良し!!!!!!!」
「は?」
突然大声で犯人を全肯定され、その場にいたほとんどの者が、突然良しと言われた本人と同じ心境に陥った。
つまり、は?コイツ何言ってんだ? である。
「己が能力を誇り、それをさらに高めようと策を練る、大いに結構!!」
「は?」
「だが、その成果がお前一人の満足というのはいただけないな。壮大な手順の割に答えが単純すぎる」
「えっえっ」
「お前一人が楽しむだけなら家ででもやってろ。一人で自慰行為でもしていればそれで、自分一人が満足を得るという結果は同じだ。何もここまで複雑な工程をこなし、頭を使う必要はない。脳の半分でもあれば出来ることだ」
「んっ? 俺遠回しに貶されてる?」
「お前の策をさらに高めるように目標を変えるとすると、まぁ簡単には数を増やすことだな…」
「数を」
ヤマさんは、ここで話を切り、ちょうどそこにあったみかん箱の上に乗った。ちょっとした段差はハイヒールで登るには少し高く、後輩のイシダくんに支えられて両足を乗せる。それをみたトシローは、なんとなく肉体を強化して噴水の女神像のてっぺんに乗った。相手と距離をとりたかったのか高さで優位性をとりたかったのかは不明。
※肉体強化は爆発の際に肉片がよく飛ぶよう予め仕掛けてあったので、新たな魔力供給とならず魔術式への影響はない。
「そうだ。あぁ、お前が喜ぶ方法を増やせというわけではないぞ。喜ぶ総数、人数を増やせということだ。人というのは儘ならぬ物で、千変万化。千差万別。それら全てを喜ばせる策など、歴史上多くのものが挑戦して、最高値を叩き出すことはかなわなんだ。顧客満足度が100%になることはない。99%を超えることはない。だからこそ、誰もが挑戦する」
「お、おれ…」
「どうだ? お前の能力を示すのに、よい目標だと思わないか? お前が一人で楽しむ自慰を、見たものも楽しめるように、聞くだけでも、話を聞いただけでも興味をひけるようにするのだ」
「その例えはちょっと」
「お前には、それに挑戦できる実力がある。見てみろ! お前一人の行動で、これだけの多くの人間を動かし、注目を浴びることができたんだ」
トシローはごくりの生唾を飲み込んで、自分をまっすぐ見つめるヤマさんの周り、自分を注視する大勢の警官や市民たちを見回した。
「さぁ、若人よ! 自分を絶対と信じ、突き進む未来を担う者よ。私にその価値を示してみなさい。歴史上誰もなし得なかったことを成し遂げ、私を、世間を、認めさせてみろ!」
雰囲気につられて、周りからおぉーー! という歓声が聞こえてくる。なんかよくわかんないけど、バインと胸を張ったヤマさんの自信満々で後ろから風が吹いているような様子に、希望が見えた気がする。
ヤマさん式落としその①、俺は頭が良くてすごいんだ系の馬鹿にはその実力を認めてやって、お前にはもっと良い目標やポジションがあるだろ? と落としどころ提案が決まった瞬間だった。
露出爆弾魔トシローは、ぷるぷると震えて俯いた。そろそろ暗くなってきたので、像の天辺に立つ彼の姿は様々な方向からのライトで照らされている。暗闇の中そこだけ切り取られたような白い空間の中で、彼の白い裸体と稲妻のように脈動する魔術が浮かび上がっている。
「いやっ、それ俺のやりてぇことはなんも解決してないし俺様が他人のためになんてやってやる義理もねぇし!! んな周りくどいことしなくたって今ここでドカンとやりぁ明日のニュースは俺への関心100%になるだろうが!!!」
「ちっ」
説得失敗。思わず漏れた舌打ちは、そばにいた後輩のイシダくんにしか聴かれず、ヤマさんの品性は保たれた。
しかし、説得によりトシローのやる気がさらに促された形となってしまったため、ヤマさん伝説に疑問を持ち始める人が出てきてしまった。さっきはなんとなくおぉー! となったが、初手からヤベェ奴を褒め出す刑事は信用できるのか……? という疑惑の目がそこかしこから向けられてくる。
「ちっ余計な時間を食っちまったぜ。残念だったな女刑事さんヨォ?自分の実力不足を恥じて死ね!!!」
「まてっ!実は、お前に後悔してほしくなくて私はここに来たんだ!私は、もう家族に会えないから……っ!!」
ヤマさん式落としその②、泣き落としを仕掛け始める。「だが、家族ネタは先程スズキさんが失敗したばかりだ!下手にアイツを刺激すると爆発のリスクが高まってしまう……!!」フツーウ・ニイキタイはこれが最期の晩餐になるかもしれないと、近くにあったジェラート屋さんで頼んだピスタチオのアイスを食べながら言述した。
「私は、お前が初めて受験をした年齢のときにこの世界へ飛ばされた。13歳の少女が、家族も友達も、今までの過去全部を失ってここに来たんだ。家族に話せばよかったなんて言葉はまだ尽きない。親孝行、したいときには親はなしってね」
「へっなんだよ。今更家族への愛でも叫べっていうのか?」
「いいや。でもせめて、君がなぜこのような事態を引き起こしたのかをきちんと解明しなくてはと思ってね。特に、君の母上には。勘違いされたままでは悲しいだろう?」
「はぁ……? お袋は関係ねぇよ」
「いいや、あるさ。そして君のお父上もね」
「さっき私の質問に、ちゃんと答えなかったものがあるだろう。なぜこの学園に執着するのか」
「うるせぇな! 大体俺に親父なんかいねぇって何回言わせるんだ!」
「いいや。生物学的に父親は絶対にいる。じゃなきゃコウノトリが父親になってしまう。……君の父親は、人間だね」
ヤマさんは、ここに来る前にパトカーで読んだ、トシローの過去についての調査結果を思い浮かべた。
「君の父親は、ある著名な魔術師だ。そんな人がなんの魔力も持たない平民と結婚したと聞いて、一時期は大層なニュースになったようだな。しかし、そんなシンデレラストーリーを歩んだはずのお母上が王都の端で弁当屋を営んでいるところから見ると、幸せな結婚生活が続いているとは言えないのだろう」
「なっ……がっ!」
「君の父親は君の母親を捨てた。そして母親は一人で君を育て上げた。身の程知らずにも魔術師なんかの子供を産んだ女として、憐れみの目で見られながら。何度も試験に落ちる自分に似た息子に、『おかあちゃんに似たせいで、ごめんなぁ』と謝りながら」
「お袋はなんも悪くねぇ! いっつも飯を食わせて、俺を育ててくれたんだ! 悪いのはクソ親父だ! 魔術師だ! だから俺はっ俺は……!!」
「そう、だから君は。母親を幸せにする魔術師になりたかった。不幸にさせた父親のことなんて忘れさせて、自分の得意な魔術で母親を喜ばせたかった。魔術師と聞くと咄嗟に悲しい顔をする母を、自慢の息子の職業ですと言わせたかった。」
「く、うぅ……!!」
「君の父上の出身校がここだ。ここで父親よりも良い成績を取り、母親に報いることが君の復讐になるはずだったんだろう。それが、まさかここまで落ちてしまうとは……」
「ちょっヤマさんそれ余計!」ニイキタイと後輩のイシダくんは心の中でそう思い、ヤマさんもヤバって顔をしたが、取り繕った。
「とにかく! 今、君の母上をこの場に呼んでいる。すべて壊してしまうのではなく、また新しい絆を構築するため、」
「おふくろが、くるのか。……ごめん、かあちゃん。またおちちゃったよ……」
ヤマさんの言葉に顔色を変えたトシローは、突如「gaあああああああ!!!!!!」とうめきだした。
悶える彼の動きに沿って、体に刻まれた式もグネグネと蠢く。
「なんだ!? どうした!?」
「見ろ! 式が、どんどん赤く……!!」
ライトアップされた白い光の中で、青いゆらめきが段々と紫色に染まってゆく。トシローが魔力を魔術式に注いでいるのだ。あの紫色が赤くなれば、この場で大爆発が起きてしまう!!
警官たちはパニックになりながらも、市民の避難を急いだ。魔法が使えるものや教師たちが、幾層にも魔法障壁を重ねて被害を減らそうとする。誰もが自分を、他人を、何かを助けるために動いている。
ふっと、照らされていた身体が消えた。たまたまそれに気づいた警官の一人が、もう爆発が始まったのかと慌てて頭を抱えた。数秒してなにも起きないことに気づき、うっすらと片目を開ける。
目の前で、ヤマさんがトシローの首を締め上げていた。
すこし隣で、後輩のイシダくんが「ワンーー! ツーー!」とカウントをとっている。大蛇に巻きつかれたトシローの顔色は頭に血が溜まって真っ赤だったが、酸素が足りずに段々と真っ白になっていた。それに伴って、身体の魔術式の色も赤一歩手前の赤紫色から色が抜け始め、今では斬新なボディペイントです! という風になっている。
イシダくんのカウントが5,6を超えたあたりから「ヤマさん!! 落ちてます落ちてます! 意識もう落ちてますから!」と周りの警官がヤマさんの腕を剥がし、トシローは酸欠ギリギリで救出された。そして急いで魔力が使えなくなる錠をかけられ、ついでに寒いだろうからと毛布もかけられた。
先程の時間で何があったか。
まず、自分が失言したかもしれないと気づいたヤマさんは、いやでもこれ私悪くなくない?? と開き直って屈伸運動をした。そして、発狂して赤くなり出したトシローを横目に足の筋を伸ばし、ぐっぐっとバネを調節して、びゅーんと飛んでドロップキックを決めたのだ。先程一番高いところに登っていたからこそ、障害物もなく下からの蹴りが鳩尾に入った。ジャジャジャジャーンでお馴染み崖の上の自白を真似たのがやはり正解だったな……と思う。人間高いところに追い詰められるとボロが出るのだ。彼は自ら登ったが。
そして、ドロップキックで体制を崩した後、空中でマウントを取り地面に組み敷く。そして細い腕で器用にも頸動脈と気道を抑え、チョークスリーパーを見事に決めたのであった。
ヤマさん式落としその③、物理で落とせ! である。自らの頭を誇る相手に、物理的に落として頭を使えなくする。えげつねぇぜ、ヤマさん!
「さて、こいつをどうするか……。未遂とは言え、これだけの大騒動を引き起こしたんだ。思想的にも危険。検事にどう説明しよう……」
「失礼、少し彼と話をしたいのじゃが、いいだろうか?」
ニイキタイが罪状を確認していると、豪華なローブを羽織った老人が話しかけてきた。ニイキタイは彼の姿を見て、目を見開く。
「がっ学園長殿!?あ、この度はこちらの警備不足でこのような事態を引き起こしてしまい……!!」
「いえいえ、今回のことで言えば、非はこちらにあるとも言えましょう。なぁ、オジュケンくん。」
意識を取り戻していたトシローは、虚な目で学園長を見た。
「もともと、学の道に進むのを、年齢を理由に阻んではいけないと思っていたのだ……。今回君の意見を聞き、それほどの熱量を持ってくれている若者を見捨てては、魔法学園スカンディラの名折れだと思い知ったのじゃよ」
穏やかな目の奥でどのような感情があったかは、正面で対峙したトシローにしか見えないだろう。
「刑務所にうちの教師を派遣して、講義を受けられるサービスを去年から行なっていての。どうじゃろうか。オジュケンくん。魔法倫理についてきちんと学んでから、また、うちの門を叩きにきてほしい」
トシローはぼおっと学園長の言葉を聞いてから、目を伏せ、ペコリと一度、彼に頭を下げた。そして警官たちにつれられて、パトカーに押し込まれていった。
完
おまけ
"今回も事件を見事解決!落としのヤマさん、快進撃続く!"
「いやぁーー実力者ってのも辛いなぁ。まーた伝説を作っちゃったよ。ほら見て新聞の一面」
「落としのヤマさん、たってほとんど物理攻撃で犯人捕まえてるじゃないですか…」
「んーーーー?なんか言ったかなイシダくん。」
「イエナニモ」
「あ、そうそう、トシローさん。留置所内で講座申し込みしたらしいですよ。生活態度も真面目で、このままちゃんと学んで、すぐに出られると良いですね。……ヤマさんの家族ネタ泣き落とし。なんでスズキさんのはダメだったんでしょう」
「そりゃあ、彼は家族に対して複雑な思いを抱えていたからね。適当なことだけ言ってるんじゃあただ刺激するだけだよ。」
「あぁ。あの妙にリアルな心情描写……。お知り合いで?」
「まさか! あれは完全な妄想だよ! 知ったデータ内で、まぁこうでしょうって思った劇を演じたんだ」
ヤマさんはこう言って、「さー次はどう落とそうかなぁ」とわざとらしく呟きながら腕を組み、昼寝の態勢に入った。
落としのヤマさん。彼女の落としの技術は、まだまだ謎が多いままである。
了
「そういや、今年も受験されたそうですよ、オジュケンさん」
「おぉ。もう出所したか。今年こそ遂に合格か!?」
「いえ、今年も不合格だそうです。……本当はプライバシーに関わることなんですが、流石に気になったんで聞いてみたんですよ。なんでそんなに受からないのか」
「よっぽど苦手な分野があるか、ドジっ子すぎて解答欄が間違えちゃうとか……?」
「字がね、その、汚すぎて読めないそうで……。魔術式は完璧なんですが、他の問題の解答がなんて書いてあるのか分からなくて、丸にできないみたいなんですよ」
「お、お母上ーーーーーーーーー!!!飯食わせるよりも先にやることあったろ!!!!」