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市民課葬祭係  作者: JUN
7/26

独り(4)同居解消

「体をくれないか」

 穂高は田ノ宮に言われた内容を頭の中で繰り返し、処理速度が落ちたパソコンの如くゆっくりと言葉の意味を理解すると、

「うわあああああ!!」

と叫びながら田ノ宮を振り払い、部屋を飛び出した。

 と、玄関ドアの外の横に、立っている人影があった。

 それにギョッとして距離を取ろうとし、誰か気付いた。

「向里さん!?」

 向里は「はあ」と大きく嘆息し、もたれていた壁から身を起こした。

「わかったか。ヘタな同情なんてするんじゃない」

 穂高は夢中で何度も何度も頷いた。

「はい、すみませんでした、よくわかりました、助けてください」

 言いながら、涙を浮かべて向里の背中に回った。

 向里は無造作に玄関から中を覗き、突っ立っている田ノ宮に向かって言った。

「大人しく成仏して下さい。こいつはまだ職員として働かないといけないんで」

「うああ……ああ」

 田ノ宮は両手をあげて突き出すようにしながら近寄って来る。

「ヒイイッ!?」

 穂高は向里の背中にしがみついて震えた。

「重い。肩が凝る」

 向里は不満気にそう言い、田ノ宮にむかって、懐から取り出した札を突きつけた。

「ウギャッ?」

 田ノ宮は足を止め、それに札を押し付けるようにして貼り付ける。すると札は急に大きくなって田ノ宮を包み込み、コロンと床に転がった。

 ビー玉くらいの大きさの丸めた紙にしか見えなくなったそれを向里が拾い上げると、穂高は息を止めていた事に気付き、忙しく深呼吸をした。

「何、え?なんで?何を?」

 向里は振り返り、穂高を見た。

「全く。これでわかったな。変な同情はするな。ただ敬意を払って送るだけだ。いいな」

「はい。

 え、何で?何をしたんです?」

 向里は頭を掻いて、面倒臭そうに言った。

「まあ……要するに、封じたんだ。

 お前に憑いていたいたのはわかってたし、今日だってことも予想してたから、いい勉強になるだろうと思って、今日まで放置してた」

「はあ!?何かあったらどうするんですか!」

「だからこうして助けに来てやっただろ」

 向里がムスッとして言い、穂高はその通りだと現状を思い出した。

「ああ、はい。そうでした。ありがとうございました」

 穂高が頭を下げると、向里は歩き出して背中越しに手をあげた。

「じゃあな。礼は鍵当番1回交代」

 穂高はそれに、再度頭を下げて見送った。


 向里はその足で、極楽寺に行った。

 本堂では連絡を受けて、住職が待っていた。土村蒼龍、向里の古くからの友人である。

「これだ」

 そう言いながら、紙を丸めたようなそれを渡す。

「わかった。

 何も問題はなかったか?」

「大丈夫だ。あのバカにはいい薬になっただろう。まったく」

 向里はフンと鼻を鳴らし、土村は苦笑した。

「優しくて素直なのは美点だけど、時によりけりだからなあ」

 そして、同時に笑みを消す。

「あいつの仕業じゃなかったな」

「ああ。くそ」

 向里は忌々しそうに虚空の何かを睨みつけたが、

「じゃあ、頼む。またな」

と手をひらひらさせて、踵を返した。

「寄って行かないの?」

「明日は早番なんだよ」

 土村はにこにことそれを見送り、本堂の中に姿を消した。







お読みいただきありがとうございました。御感想、評価などいただければ幸いです。

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