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市民課葬祭係  作者: JUN


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道を外れたもの(3)優しい読経

 なにが起こったのか、その時誰も瞬時には理解できなかった。

 魂魄鬼が足を止め、己の胸に当たって転がったものを見た。

「桃?」

 そして、それが投げ込まれた方向──入口へと目が向けられる。

「足立!?お前、何してるんだ?」

 向里が訊く。

 穂高は、青く強張った顔付きで、スーパーの袋を左手に下げ、右手に桃を掴んでいた。

「差し入れですよ。桃はスーパーで買って来ました」

「差し入れ?」

「はい。向里さんと土村さんが揃っていなくなるなんてきっと魂魄鬼だろうと思って。で、何か手土産をと思って仕事帰りにスーパーに寄ったら、初物が出てたんで」

 全ての者があっけに取られていた。

 が、向里と土村が笑い出した。

「ははは!足立ってやっぱり面白いやつだな。桃か」

「何と言うか、ありがとう」

 穂高は、何となく2人は極楽寺にいるのだと思い、手土産を持って極楽寺に来たのだ。もしいなくても、極楽寺で土村の家族にでも居場所を聞けばいいと思っていただけだ。

 それが、来たら本堂から何人もの読経の声がするし、鳴り物の音もするし、何事かとヒョイと覗き込んだら、魂魄鬼が向里に迫っていたというわけだ。

 それで思わず、手土産の桃を投げつけたのだった。

「はあ。まあ、桃ですんで。手りゅう弾とかじゃないですので……すみません」

 穂高は小さく頭を下げた。

「いや、ナイスだよ、足立君」

 土村が言い、皆は思い出したように魂魄鬼の方を見た。

 魂魄鬼は転がった桃の実と潰れて飛んだ果汁を避けるように、後ろに下がっていた。

 桃が不浄を祓うものであり、あの世からの物を桃の実で退けたという神話を穂高は思い出した。

 が、その時には、これを好機と見た僧侶たちが一斉に攻勢に出ていた。

「ええい、小癪なまねをする!」

 魂魄鬼は苛立ち、穂高を睨んだ。

 確かにいきなりだったこともあって桃に怯んだ魂魄鬼だったが、この程度でどうにかなるものではない。

「お前もコレクションしてやる。引き裂いたら鳴いてくれるんだろう?ええ?」

「ヒエッ!?」

 穂高は震え、そんな穂高の前に僧侶が立つ。

 魂魄鬼が読経や陣でどうにかできないのは変わらない。再び絶望が本堂に満ちた。

 が、新たな侵入者があった。

 強くて黒い何かがいきなり魂魄鬼を囲むように4つ出現し、誰もが驚きに声も出せないうちに魂魄鬼を黒い鎖で縛り上げた。

「お、おのれえ!」

 魂魄鬼が初めて余裕の無い声をあげる。

「職務を逸脱し、回収して輪廻に戻すべき魂を蒐集するとは何事か」

「彼岸へと死者を導く死神の誇りを忘れた愚か者め」

「死神の任を解く」

「ここで消滅するがいい」

 彼らは淡々と魂魄鬼に向かって言い、魂魄鬼を絞めつける鎖に力を込めた。

 逃げ出そうともがく魂魄鬼だったが、悲鳴を上げ、黒い塵をパッと撒き散らすようにして消えた。

 後には籠がいくつも残り、それを彼らは拾い上げる。

「あ……何?」

 誰かが声を上げ、麻痺したような頭で向里はそれらを見ていた。

 と、中の1体が向里に近付いて来て籠に手をのばし、反射的に向里は籠を抱きしめてかばうように下がった。

「輪廻の中に戻さねば、その魂が苦しむ」

 それが静かな口調で言い、向里は籠を見下ろした。土村も中を覗き込む。

「兄ちゃん?」

 光は籠の中で緩く明滅し、金網にくっついていた。それはまるで、向里と見つめ合っているように穂高には見えた。

 彼らが何者か、明確に説明できる者はいなかったが、彼らに囚われていた魂を託せばいいというのはわかった。

「ふむ」

 中の1人が軽く籠に触れると、籠の入り口が開き、中の光が外に出て声が聞こえた。

「ありがとう。昌成、蒼龍。元気で。それと、仲良くね」

「兄ちゃん!?」

「行兄!」

 光は2人の周りをくるりと周り、穂高の前に来ると、

「弟をよろしく」

と言い、黒い4人の方へと飛ぶ。

「あ、はい」

 穂高は辛うじてそう返事をし、土村や僧侶の読経の中で彼らが消え去り、向里が脱力したように座り込むのを眺めていた。


 




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