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市民課葬祭係  作者: JUN


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最後のお別れ(2)真夜中の斎場

 人がいなくなった後の斎場は、昼間とは違う。夜の学校が昼間と違う顔をしているのと同じようなものだ。ただでさえ死が日常になっている空間で、焼く前の遺体があったり、保管されている遺骨が並んでいたりする場所だ。「出る」気がするのも仕方がない。

 しかしその静謐さの中で、鍵当番の向里は館内を見回って来た後、畑中家の葬儀場に静かに入った。

 小さな子供用の棺は、ただ子供用というだけでも大人よりもより痛ましい印象を与える。

 向里にとっては、兄の葬儀を思い出させる苦痛のタネでもある。

「まだ出ないな。来ないつもりなのか?」

 呟いて棺に近寄り、周囲を見回す。

 家族と親類だけの葬儀で、椅子の数も多くはない。学校の友人達は、学校でお別れの会を開く事になっているらしく、通夜、葬儀には呼んでいないのだ。

 祭壇の遺影はあどけない笑みを浮かべており、未来の到来を疑ってもみないようだ。

「そりゃあ、そうか」

 向里は言い、棺の中を覗き込んだ。

 どれだけ恐ろしかっただろうし、痛かっただろう。しかし遺体の顔は、安らかに眠っているように見える。

 しかしそれは、見せかけているだけに過ぎない事を向里は知っている。この棺の中、布団の下では、今も体はいくつかに分かたれ、それを包帯で巻いて辛うじて姿勢を保たせているだけだ。恐怖に強張っていた顔は死後硬直が融けてそう見えるようになっただけで、化粧をしてそれらしくしたのは自分だ。

 その目がぱっちりと開いて自分を責めるように見た錯覚を起こし、向里は一瞬たじろいだ。

「新人じゃあるまいし」

 誰に聞かせるまでもなく言い、そうした事がどうにも不服で、首筋を揉んで嘆息した。そして、手近な椅子に座って魂魄鬼が来ないか監視しようとしたところで、それに気付いた。

 カタ、カタ、カタ。

 小さな音だが、静まりかえったこの場でははっきりと聞こえる。

 やがてその音は、大きく、連続して聞こえるようになっていく。

 カタ、カタ、カタカタ、カタカタカタカタ、カタカタカタカタカタカタカタ──。

 魂魄鬼が来たわけではない。

 その音の発生源は、棺だった。向里はいつしか立ち上がり、棺を見つめていた。

 棺のフタが開き、ゆっくりと何かが持ち上がる。まず見えたのは、縁に掛けられた細い指だった。続いて頭が覗き、不意に中へと引っ込む。

 向里は吸い込まれるように棺に近付き、中を覗き込んだ。

 子供が無表情のままに目をパッチリと開け、向里を見つめている。棺の縁に掛けられた肘から先は力なく縁にひっかっかってぶら下がり、もぞもぞと体を動かしていた。

 それが腹筋の要領で起き上がり、向里は、

(ああ。起き上がろうとしていたのか)

と思った。

 が、起き上がった遺体は、二の腕を差し出して、カサカサとした唇で言う。

「バラバラで、上手く動けない。痛い。助けて」

 向里は我に返ったように、急に頭の中がハッキリしたように感じた。

「……」

「お願い、助けて。何で私がこんな目に遭うの?お手伝いもして、宿題もして、いい子にしてたでしょう?何でなの?」

 向里は、眉をひそめた。

(なぜ?そんな事、犯人にしかわからないだろうよ)

「痛いの。家に帰りたいの。

 だから、ねえ。代わって」

 無表情の目が、底光りしたように見えた。

 向里は短く息を吐くと、ポケットの中に入れてあった札を取り出し、夢運に押し付けた。

「それは無理だ」

 夢運は糸の切れた操り人形の如く急に体中の力を抜き、棺の中に沈み込んだ。

(まあ、そうだよな。こんな目に遭ったってのに、死んでもまだ囮に使われるんじゃ、たまったもんじゃないよな。

 ごめんな)

 向里はバラバラになってしまった体を丁寧に包帯でつなぎ直し、静かに棺の窓を閉めた。








 


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