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市民課葬祭係  作者: JUN


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遺産(3)怒れる人々

 心配で眠れない夜を過ごした穂高と違い、向里はいつも通り、スッキリとしてクールなイケメン具合である。

 そして大場は、新しい噂を聞いて来て、元気いっぱいだ。

「西沢さんの息子2人、子供の頃から仲が悪いらしいんだけどね、お父さんが脳梗塞で倒れて寝たきりになってから余計にひどくなったらしいわよ。

 長男も次男もそこそこ大きな会社勤めで、そこそこの地位についてるらしいわ。それでも、どっちが上だとかいつも張り合ってたとか。

 秀俊さんが脳梗塞で倒れて後遺症で寝たきりになった時は押し付け合いになったらしいけど、長男の方が転勤になりそうだと言って、次男の奥さんが専業主婦なのもあって次男が面倒をみる事になったんだって。

 でも結局転勤はなし。しかもそれ以降、長男は何だかんだ言って見舞いにも挨拶にも来ないまま。次男の奥さんが1人で、自宅療養がいいっていう秀俊さんの介護をしてきたんだって。大変よねえ。

 で、昨日聞いたとおりよ。遺産の分配でもめてるってわけ」

 それで皆、

「気分的には、その次男の奥さんにドンとあげたい」

「分配する程遺産があって結構だなあ」

「介護かあ。いつまでも他人事じゃないわねえ」

などとブツブツ言い合う。

 穂高と向里は昨日の夜に見た秀俊の怒る姿を見ているので、秀俊本人にも何か言いたい事があるはずだと思い、

「まあ、何事もなく終わればいい」

と、それだけを願った。


 しかし、そう上手くはいかないのが世の常らしい。

 そろそろ僧侶が到着するという時間になって、棺の上に現れた秀俊の霊に気付いた遺族達は、腰を抜かさんばかりに驚いた。

「お、お父さん?」

「黙れ!」

 一喝して、秀和を黙らせる。

「聞いていれば昨日から情けない。お前達は親を何だと思ってるんだ?」

「そ、それ、は」

「お、お義父さん。それよりも、言葉が」

 次男の妻がようやく言う。

「脳梗塞の後遺症も、死んだら消えるらしいな」

「それは良かった。なあ」

 皆が強張った笑顔でそう言い合うのを見て、秀俊は溜め息をついた。

「顔色を見てお世辞を言うのだけはうまいらしいな」

 それに秀和が弁解する。

「そんな事ないよ!もどかしい思いをしてただろう?」

「何だよ。わかってるなら、何で手伝いに来なかったんだよ。見舞いすら来ないなんてな!」

 ムッとしたように俊也が言うと、秀和の妻がキッと俊也とその妻を睨みつけて反論した。

「私には仕事がありましたもの。仕方がないでしょう?専業主婦みたいに暇はないんです」

 それに、俊也の妻がカチンと来たように言い返す。

「暇?介護が楽だとでも?24時間どこまでしても当たり前、誰も評価なんてしてくれない。お義姉さんの時間の間決まった事務仕事をして給料がもらえる仕事は楽でわかりやすくていいですわねえ」

 それで女2人が睨み合う。

「そんな事より、お父さん!」

 口を挟んだ秀和を、女2人がギロリと睨んだ。

「そんな事?」

「あ、いや……そう、それより、遺産だ。もっと定期貯金とか株とかあったじゃないか。やっぱりお父さんが寝たきりなのをいい事に、俊也が──」

「まだそんな事を言うのか!?」

 俊也が目を吊りあげる。

 そんな皆を睨んで見下ろしていた秀俊は、堪り兼ねたように声をあげた。

「お前ら、いい加減にしろ!!」

 ビクンと皆が首竦めた。

「秀和は、俺が寝たきりになった途端家に寄り付きもしなくなったな。言い訳は色々していたが。そのくせ、遺産だけは欲しいと言う。

 俊也。そんなに大変だとわかっているなら、何で手伝おうとしなかった。

 道子さんには、感謝している。ありがとう。喋れなくなっていなかったら、そう言いたかった。筆談でもできればと、何度思ったか。

 でもな、お前達。久しぶりに兄弟が顔を合わせたかと思えば、遺産を早めに使えないかの相談だと?おまけにその時に発作を起こした俺を見て、『救急車を呼ぶのを後にしないか』だと?ふざけやがって。どれだけ苦しかったかわかってるのか!お前らも味わってみろ!!」

 その途端、全員の胸に、経験した事の無い痛みと苦しみが襲い掛かった。助けを呼ぼうにも声も出ないし、逃げ出そうにも動けない。満足に息もできないまま、死の恐怖に鷲掴みにされて床の上を転げまわり、涙を流した。


 火葬場ホールで僧侶に先導されて来る遺体と遺族を向里と穂高は待っていたのだが、静々と歩いて来る遺族の姿に、穂高は目を見開いた。

「え!?何があったんです!?朝見かけた時には、普通の髪でしたよね!?」

 穂高が押し殺しながらも驚いた声を上げる。

 遺族たちは例外なく全員、疲れ切った顔付きをして青い顔で震え、その上、総白髪になっていたのである。

「葬儀の間か、葬儀前に何かあったんだろ。それより、仕事だ」

 向里は皮肉気に小さく笑って言い、穂高は知らん顔をして仕事を勧める事にした。

(何があったか知らないけど、訊くわけにもいかないもんな)

 穂高は知らん顔をしながら、火葬炉の扉をガチャンと閉めた。




 

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