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2番目の男の二つ目の話 ~ 縺翫o繧翫?駅

「自ら招いた怪異ならば因果応報として、自戒すれば防げるかもしれません。

そう考えると、公明正大に正しく生きている人にはあまり怖くないかもしれません。

そういう人にはむしろ今から話す話の方が怖いかもしれませんね。なんといっても切っ掛けはただ目撃してしまうことなんですから」


 と、やれやれと言うように首を横に振りながら2番目の男は話を始めた。

「あれ、こんなところに駅があるんだ」

 

 友理(ゆり)の声に私は単語帳から顔を上げた。


「え、なに?」

「ほら、あそこ。線路の反対側に駅があるよ。初めて知ったよ」


 声につられて窓から外を見る。


 ゴオーーー


 丁度というか生憎というか、すれ違う列車に視界を遮られる。

 列車が通りすぎた後、見てみたが友理の言うような駅はどこにもなかった。


「見た? 見た?」

「ううん。見れんかったよ。

日菜(ひな)は見た?」


 隣で無心に音楽を聞いている日菜に声をかけたが、きょとんとした表情で首を横にふった。


「あんた、寝ぼけてたんじゃないの?」

「そんなことないよ。

なんかすごい駅だったんだよ」

「すごい? すごいってどんな?」

「う~ん、なんていうのかな。

キラキラ~、フワフワ~っていう感じ?」

「なにそれ?小学生か?!表現力貧弱すぎしょ」


 と、言いながら私はネットで検索をする。


「ほら、やっぱり。そんな駅なんて地図にはないよ」

「え~、そんなことないよぉ」


 友理は口を尖らせて同じように調べてみるがすぐに眉間に皺を寄せる。


「本当だ。ないねぇ。う~ん、まだ作りかけの駅なのかな」

「作りかけの駅ねぇ」

「いいわよ。じゃあ、帰りにもう一度確認しようよ!」


 疑わしげな私の視線に少しムッとしたように友理はいった。


「日菜も一緒よ!」


 突然巻き込まれた日菜はなにがなんだかわからないなりに、ウンウンと頷いていた。



 でも、結局約束は果たされなかった。私と日菜は急な用事ができてしまって友理は一人で帰ることになったのだ。

 夕陽にオレンジ色に染まった校舎を出た時、携帯が鳴った。

 友理からだった。


「ねね、やっぱ朝言っていた駅、あったよ」


 勝ち誇ったような友理の声。

 疲れてささくれた神経にはその妙にテンションの高い声がヒリヒリ突き刺さった。

 たかが、駅があったぐらいで何をそんなにマウントをとられなくてはならないのか?


「あっそ。良かったね」


 声に不機嫌が現れたが友理はいっこうに気にしていないようだった。


「あーー、やっぱここすごいよー。

キンキラでさ、良い匂いがすんのよ。

えっとなんだっけ、ラベンダーみたいなの」


 ラベンダー? ふん、トイレの芳香剤か、と心の中で呟く。そして、あることに気づいた。


「えっ、どういうこと? 今、あんた、その例の駅にいるの?」


「……うん、そうだよ」


 妙な間があいた後、さっきとはうって変わったように落ち着いたトーンで答えてきた。


「列車がね。止まったのよ。まるで私をこの駅に招待する見たいにね」

「なにそれ。意味わかんない」


 何だか妙な違和感に背筋が寒くなった。


「ここ、気持ちいいよーー」


 再びテンションの高い声。これは本当に友理なのだろうか?


「はあ、なんで駅に居るだけで気持ち良くなるわけ? 友理、あんた、大丈夫?」

「あははぁ。なんて言うの、空気が美味しくてぇ、耳元でいっつも楽しい音楽が聞こえるよの」

「音楽?音楽ってどんな?」

「ブーン、ブーーンって」

「な、なによ。ふざけてるの?

そんな羽音みたいな音が音楽って、そんなの楽しいわけないじゃん」


 なにかおかしい。絶対なにかがおかしい。


 何故だろうか。話していると心臓の鼓動が段々早くなる。


「ねっ、友理。あんた、その駅からすぐに離れなさい。そこなんかおかしいよ」

「えっ? エヘヘヘへ。やーーだ。私、もうこの駅から離れないもーーん」


 おかしいのは駅ではなくて友理の方なのか?

 私は背筋がぞっとなった。心臓の鼓動は痛いくらいに激しくなっていた。


「ちょっとふざけないで。私、マジでいってるからね。今すぐそこを離れなさいって!」


 なんで私はこんなにもいきり立っているんだろう。たかが友達が自分の知らない駅にいるだけじゃないか。それなのになんでこんなに心臓がドキドキして、呼吸がこんなに苦しいのだろう?


「えっ?だ、か、ら、やだよーーだ」

「友理!いい加減にしなさい。

ね、お願いだからね、駅から離れて」

「むーー、いや!

じゃね、電話切るね」

「待って!待って、切らないで、お願い。

ね、その駅、なんて言うの?」

「え?」

「駅の名前よ。今、友理のいる駅の名前!

何て言う名前の駅なの?」

「駅の名前?

う~んと、駅の名前はぁ」

「名前は……?」


 野太い男のような声が耳元でブクブクと不明瞭に泡立った。なんて言っているの分からない。

 ぶっつりと電話が切れた。


「ち、ちょっと友理、友理!」


 慌てて友理に電話をしかえしたが、何度かけても電話口からは電波の届かない時のあの無機質な音声しか聞こえてこなかった。



 それ以降、友理は姿を消した。

 最後に言葉を交わしたのは私だということでずいぶん警察に事情を聞かれた。

 友理とした会話について洗いざらい話した。でも、「君の携帯にも、電話会社にもね、そんな通話履歴はないんだけどね」と、刑事さんに怖い顔で言われた。最初、何を言われているのか分からなかった。

 確かに私の携帯に友理との通話履歴はなかった。でも電話会社に通話記録が無いってどういうこと?私はあの時、確かに友理と言葉を交わしたんだ。なのに……変な嘘をつくんじゃないとすごく怒られた。

 怒られただけならまだ良かった。なんでそんな嘘をついたのか、なにか知っているんじゃないのかとしつこくしつこく聞かれた。まるで犯人のように……

 頭がおかしくなりそうだった。

 その内、学校内で変な噂がたった。

 噂では私が友理を殺して、どこかに埋めたんじゃないか、なんて言われていた。


 みんなどうかしている。そんなのあるわけないじゃない。

 おかしいのは、みんなの方。

 おかしいのは、友理よ。そう、おかしいのは、あの、あの駅なんだ。




 私は心を病んで、学校を休んでいた。

 なにをする気力もなくベッドに横たわっていた。ふと、携帯に着信があるのに気づいた。

 日菜からのSNSだった。


《今日、友理が言ってた駅ぽいの見かけたよ》


 私はガバリと身を起こした。

 SNSの着信は朝の時刻になっていた。私は時計に目をやる。もう夕方。帰宅の時刻だ。

 私は妙な胸騒ぎを覚えた。


 ピロリンと着信アリの音。

 日菜からだった。


《知らない駅で止まったよ》


 息が止まりそうだった。


《なんか電車動かない》


 続けてとんできた。

 ダメ、ダメだ。頭の中でありったけの警告音が一斉に鳴り響いた。


《ダメ、絶対降りちゃダメ》

 

 震える指で何度も打ち間違えながら文章を綴る。ようやく完成した文を送信しようとした矢先、日菜の方から送信がきた。

 その文面に私は目を見開く。


《あっ、友理だ》

 

 一瞬凍りつく。が、慌ててさっきの文を送信をする。すぐに回答がきた。


《えへ、もう降りちゃったよ~》


 その文面に私は目の前が真っ暗になった。


《ダメよ。ダメ。すぐ電車にもどって》


 送信する。

 今度は返信がなかなか返ってこなかった。思い切って電話しようかと思った時、ようやく返信がきた。


《あはははは たのしーーー

たのシーよ、この駅。スッゴク楽しい》


 ダメだ、ダメだとうわ言を言いながら日菜に電話をかける。だけど、何度かけ直しても電波が届かないと言われた。


 その日から、日菜も行方不明になった。


 私は、私はもう二度と電車には近づかないと心に誓った。だって、分かってしまったから。次は私の番だと。だから、絶対に、絶対に、近づかない……

 


    近づかないんだから………………
























 あははは、たのしーーー。たのしーよねー、日菜ぁ、えへへへへ

 

 うん、うん。あひあははぁ、もうサイコー。私、サイコーに幸せだよ友理ィ。


 こんな楽しいところ、みんな呼びないとぉ。ねぇ、日菜ぁ。うへはへへうへへへへぇ。


 そうだよねぇ。みんな、みーんな、呼ぼうよぉ。ねぇ友理ィ。


 ねぇ、ねぇ、友理ィ、そーいやこの駅の名前なんだっけぇ? うひひひひひひ


 ええ?なまえぇ?ええっと、クスクスクス、あはは、忘れたぁ。日菜、わかんなーい。うひひひひひひは


 ぐへぇ、ぐひひひひ、も~、日菜もぉ~、友理ィもお~~、頼りないなぁ~、ここはねえ。

ここわぁ~~~



 縺翫o繧翫?駅 だ

 


2020/08/25 初稿

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