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プロローグ

 男はぼんやりと線路を眺め、そして、待合室の壁に掛かった時計に目をやった。

 時計は11時55分を指していた。

 男はうなだれため息をつく。終電がなかなか来ない。


「やあ、事故で遅れているらしいですよ」


 このままだと日をまたいでしまう。そう思っている時に、不意に声を掛けられた。横を見ると見知らぬ男が自分の隣の椅子に腰掛けていた。いつの間に待合室に入ってきたのだろう。と最初の男は思いながら、「そうなんですか」と力の無い声で答えた。


「らしいですよ。わざわざ、終電で事故をしなくても良いのにって思いますよね。

ずいぶんと大きな事故らしいので、かなり遅れるのではないですかね。でも日をまたいだら終電じゃなくて始発電車になっちゃいますよねぇ」


 二番目の男は自分の冗談に面白そうに笑う。最初の男も少しぎこちない笑みを浮かべ、それに応えた。


「にしても、退屈ですなぁ」


 しばしの沈黙の後、二番目の男は言った。たしかに退屈であった。電車は一向に現れる気配も見せない。構内アナウンスもない。一体どのくらい待っているのか、そして、後どのくらい待たされるのか見当もつかなかった。


「ですね。いつ電車がくるのかわからないと待つのが余計に辛いです」

「いや。同感、同感。それに今日は特に暑い……

どうでしょうか。退屈しのぎに話をしませんか?」


 二番目の男のやや唐突な申し出に最初の男は面食らったように目を見開いた。


「話……? 話とは何の話ですか」

「暑気払いですよ。例えば、駅とか電車に関する怖い話を交互に出し合うのはどうかな、と思ったのです。

あなたは怖い話、嫌いですか?」

「いや、嫌いではないですが……」


 嫌いではないが、だからといって、見知らぬ男と語り合うほど好きでもない、というのが最初の男の本音であった。普段であればきっと断ったのだろうが、その日はなんとなく面白そうだなと乗る気になった。理由は分からない。終電があまりにこないせいなのか、それとも二番目の男が言うように妙に暑苦しい夜のせいなのか。おそらくはその両方のせいだったのだろう。


「いいですよ。電車が来るまでの間。

そうですね。それならば、私が最初に話をしましょうか」


 最初の男はそう答えると、椅子に腰掛けなおし、おもむろに話を始めた。

 





  


2020/08/24 初稿

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