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幽霊なんかじゃない

作者: 三駒丈路

(うわ。これ、来るやつだ)

 眠りから覚めるか覚めないかというまどろみの領域で、私は思った。そういう予感がある。しかしできれば来ないでほしい。あれは不快だからなぁ。

 経験をお持ちの方も多いだろう。いわゆる「金縛り」というやつが、私を襲おうとしている。就寝中に、意識はあるのに身体が動かなくなってしまうというあれだ。私は何度も経験しているが、嫌なものだ。


 しばしばそれは「幽霊の仕業である」などと言われたりする。確かに、夜中に身体が動かなくなってしまえば恐怖であるからそう思ってしまうのも仕方のないことである。

 しかし、インテリな私はそんな現象ではないと知っている。意識の覚醒と身体の覚醒が食い違ってしまうことが原因なのだ。つまり、頭は起きているのに身体は眠っている状態だから動かない。それが金縛りというやつだ。


「いや、目を開けたら布団の上に老婆が乗っていた」とか「ベッドの脇に血まみれの男が立っていた」とか「小さいピエロが踊っていた」とか「大勢の緑色の小人に持ち上げられた」とかいう体験話は多く聞く。かく言う私も金縛り中に目を開いたら逆さになった見知らぬ女に見下されていたことがある。


 しかし「それで結局どうなったのか」というのは私を含めみんな覚えていないのである。いつの間にか眠ってしまっている。つまりは、その恐怖体験はみんな夢なのだ。金縛り後にまた眠って、その恐怖心からくる夢を見ていたにすぎないのだ。老婆や血まみれはともかく、ピエロや小人は夢以外にないだろう。


 だから私は、今回も極力不快な思いをしないように、身体を動かそうとせず、目を開けようともせず、このまままた眠りに落ちようと思った。金縛りを自覚しないままにまた眠ってしまえばそれでいいのだ。


 しかし。チクリ。私は腕に痛みを感じた。

(何だ。虫か?くそ。こんなときに)

 そう思ったが、ここで腕を動かすと金縛りを自覚してしまうかもしれない。ちょっと我慢して放置しておくことにした。だが。

 チクリ。チクリ。チクチクチク。我慢しきれなくなってきた。

(ええい。虫め。つぶしてやる)

 そう思って腕を上げようとすると。…動かなかった。そして身体全体が動かない。やはり金縛り状態になっていたか。うーむ。どうしよう。チクチクはまだ続いている。どんな虫なのか確認する必要はあるな。目を開けてみるか。逆さ女がいませんように。


 目を開けた。

(…あれ、昼間?ベッドの上でもないな。そういえば、航海中だったか?難破して…?)

 と何か思い出しかけたときに、小さな人間と目が合った。見回すと、周囲にも身体の上にも小人がたくさんいる。

「どわー! 小人、いたーっ!」

 大声で叫んでしまった。だが身体は動かない。小人たちも大音声に驚いたのか、あたふたしている。身体から転げ落ちる者もいる。

 い、いや、これは夢なのだ。落ち着け。自分に言い聞かせたが、夢にしてはあまりにリアルだ。腕のチクチクも本当に痛い。

 あらためて自分の身体を見てみると、細いワイヤーのようなもので全身が砂浜に固定されていた。私はまた叫んだ。

「ホントに金属で縛られてたのかよっ!」


***


 羽のついたペンがペン立てに置かれた。

「むー。事実なんだが、前半は理屈っぽいし後半はドタバタだな。この部分は…省略か」

 そしてガリバー氏は「私の旅行記・小人の国篇・序」と題した原稿を丸めて屑籠に放り込んだ。


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