第八話 夜摩篷家の事情と応雷の事情3
「碧、お前、俺やラハムが何者で、何が出来て、どこから来た、どういう目的を持っていた者かって、知りたくねえの? ムシュフシュを見れば、人間じゃねえ可能性もあるかも知れないんだぜ」
「教えたいなら、そんな前置きせずに教えてるはずっスよ。教えたくない訳じゃ無いにせよ、教えても信じてもらえないかも、くらいの理由でためらいがあるなら、無理に言わなくていいっス」
「なんでだよ」
「応雷、それを説明すると自分とラハムに不都合があるから教えない、って訳じゃ無さそうっスもん。私の為には教えた方がいいか、教えない方がいいか、迷っているから私に決断を委ねたくて、今、そんなこと言い出したんスよね」
「オウライはそういう人」
「この人、分かりやすいっスよね。でも時間の問題だと思うっスよ。もう少ししたら決意が固まって、全部の事情、説明してくれる気がするっス」
「碧、スゴイ。オウライのことよく分かってる」
「これから一先ず学校に行ってくるっスから、二人はあの部屋で待ってるといいっス。ラハム、抜け駆けはダメっスからね」
「分かった。その時は三人一緒で」
「………………」
「でも、自分のことを何でも分かってるって顔されると、普通はいい気はしないもんっスけど、応雷は平気なんスね。そこは私でもよく分かんないっス」
「その割にはお前も、わざといい気はしないこと言ってんのに、俺が嫌がると思って無さそうじゃんか」
「私はもともと、言いたいことは言う性格っスよ。応雷にも特別嫌われないように気を使う気は無いっス」
「(かわいい………)なら、俺が碧に嫌われないように、気をつけるよ」
「碧、ずるい」
「わお、じゃあ今夜は特別に一緒にお風呂入ってあげるっス」
「碧、ずるいっ」
「それ、お前の欲望じゃねえか」
そして碧は応雷、ラハムと別れて登校し、二人はマンションへと向かった。
授業中、応雷とラハムを信じつつ、勉学に励む碧。
「信じてるっスよ」
ガッツのある集中力だ。
待機中、二人して退屈と戦う応雷とラハム。昼食代は碧から貰っているが、それ以外することは無い。
ガッツのあるヒマ人だ。
授業が終わり下校する碧。
今朝の一幕について、クラス中、皆、興味津々だったが、碧の祖父が裏で密かに手をまわしていたらしく、直接たずねてくる猛者はいなかった。
一刻も早く応雷達に会いたい碧だが、敢えてマンションでは無く自宅に向かう。家族に、ハッキリと応雷の存在を認めてもらおうと、決意したのだ。
無論、ラハムのことも伝えるつもりである。
あらかじめ受け答えを考えておくこともせず、行き当たりばったりで正直に話しをしようと決めていた。
自宅に着くや、家族の誰とも顔を合わせず自室にこもる。今の時間だと共働きの両親が不在だ。家族全員がそろったところで、話しを切り出したかったのだ。
それならば、先に一旦、応雷たちのもとに行った方が、タイムロスが少なくて済むのだが、決心が弱るように思えて自室にて待つことにした。
家族全員がそろって会議とならば、夕食後となってしまうが仕方が無い。応雷とラハムの夕食はそれから急いで作りに行くとしよう。
かくして夕食後、夜摩篷家家族会議が再開された。(夕食中は非常に気まずかった)
「碧―――」
口火を切ったのは父だった。すでにラハムのことを知っているはずの祖父は、何も言わない。祖父からラハムのことも聞いてはいるだろう。
両親・祖父母の間で、もう話の段取りは出来上がっているのかも知れない。
「その青年ともう一人の子を一度この家に呼んでくれないかな」
「ふん、碧が選んだ男なら間違いない」
「父さん。もちろん僕もそう思うよ。だから一度会って、碧のことを頼みたいんだ」
「馬鹿め。娘の両親なんかしゃしゃり出てこられたら、碧が恥ずかしいだろ」
「そうね。少し過保護すぎないかしら」
「お義母さん、年頃の娘が二日も家に帰らなかったんですよ。そんな非常識な相手に、心配にならないんですか」
(段取り悪いっス)
「祖父さん祖母さん、ありがとうっス。でも大丈夫っス。今から連れてくるっス」
「え、今から? 心の準備しとかなきゃ」
「今さら狼狽えるとは情けない」
「楽しみですね」
「ちゃんとした人か、よく確かめさせてもらいますからね」
自宅を出て、応雷、ラハムの待つマンションのリビングまでたどり着いた時、そこで碧の見たものは。
「うわ、どうしたんスか、ラハム。応雷に何が」
「うぅ。すまん、碧。中古のプレ〇テ2でいいから買ってくれ。ここにいると、退屈で死ぬ」
「私はオウライと一緒に居られれば、それだけでいい」
(信じたとおり大丈夫っスね)
「ただいまっス。二人を連れてきたっス」
「「あら、まあ」」
「「なにっ。ま、負けた」」
一瞬にして応雷に心を奪われた母と祖母。一撃で心を折られた父と祖父。
「あなたみたいな人が、宿無しの行き倒れになるなんて、世の中間違ってるわね。苦労なさったでしょう」
「碧をよろしくお願いしますね。不自由があったら、遠慮せずに仰って下さい」
「男は見てくれより、中身で勝負だ!」
「問題ない。オウライは中身もいい男」
「碧だけでなく、こんな素敵な娘さんまで………。もういいもん。持ってけドロボウ」
「父さん、ヤケを起こさないで何とかしよう。このままでは母さんと妻と娘が盗られてしまう」
「そういう訳っスから、同棲を認めて欲しいっス」
「ええっ⁉」
「こっちはそのつもりで相談してるんス、最初から。ただつき合うだけなら、両親の許可なんか取らないっスよ、常識的に」
「うん、まあ僕らもそのつもりだったが、あらためて言われると」
「住むところはあるのか」
「祖父さん、ホントに忘れてるんスね。いや、大丈夫っス。住む所より生活費の支援が欲しいっス」
「見どころのある男だ。よし、自分で身を立てられるようになるまで、面倒を見よう」
「父さん、農家を継がせるんじゃなかったのか」
「男児一生の仕事は、自分で選ばなくてはダメだ」
「僕の時と全然、態度が違うじゃないか」
「話は決まったみたいっスから、早速今夜から三人で暮らすっスね」
「またいつでも訪ねてきてくださいね」
「お待ちしていますわ」
「うまくいったっスね」
「俺、一言も話してないんだけど」