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ウシュムガル伝  作者: 雨白 滝春
第一章
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第八話 夜摩篷家の事情と応雷の事情3

「碧、お前、俺やラハムが何者で、何が出来て、どこから来た、どういう目的を持っていた者かって、知りたくねえの? ムシュフシュを見れば、人間じゃねえ可能性もあるかも知れないんだぜ」


「教えたいなら、そんな前置きせずに教えてるはずっスよ。教えたくない訳じゃ無いにせよ、教えても信じてもらえないかも、くらいの理由でためらいがあるなら、無理に言わなくていいっス」


「なんでだよ」


「応雷、それを説明すると自分とラハムに不都合があるから教えない、って訳じゃ無さそうっスもん。私の為には教えた方がいいか、教えない方がいいか、迷っているから私に決断を委ねたくて、今、そんなこと言い出したんスよね」


「オウライはそういう人」


「この人、分かりやすいっスよね。でも時間の問題だと思うっスよ。もう少ししたら決意が固まって、全部の事情、説明してくれる気がするっス」


「碧、スゴイ。オウライのことよく分かってる」


「これから一先ず学校に行ってくるっスから、二人はあの部屋で待ってるといいっス。ラハム、抜け駆けはダメっスからね」


「分かった。その時は三人一緒で」


「………………」


「でも、自分のことを何でも分かってるって顔されると、普通はいい気はしないもんっスけど、応雷は平気なんスね。そこは私でもよく分かんないっス」


「その割にはお前も、わざといい気はしないこと言ってんのに、俺が嫌がると思って無さそうじゃんか」


「私はもともと、言いたいことは言う性格っスよ。応雷にも特別嫌われないように気を使う気は無いっス」


「(かわいい………)なら、俺が碧に嫌われないように、気をつけるよ」


「碧、ずるい」


「わお、じゃあ今夜は特別に一緒にお風呂入ってあげるっス」


「碧、ずるいっ」


「それ、お前の欲望じゃねえか」


 そして碧は応雷、ラハムと別れて登校し、二人はマンションへと向かった。




 授業中、応雷とラハムを信じつつ、勉学に励む碧。


「信じてるっスよ」


 ガッツのある集中力だ。



 待機中、二人して退屈と戦う応雷とラハム。昼食代は碧からもらっているが、それ以外することは無い。


 ガッツのあるヒマ人だ。



 授業が終わり下校する碧。


 今朝の一幕について、クラス中、皆、興味津々だったが、碧の祖父が裏で密かに手をまわしていたらしく、直接たずねてくる猛者はいなかった。


 一刻も早く応雷達に会いたい碧だが、敢えてマンションでは無く自宅に向かう。家族に、ハッキリと応雷の存在を認めてもらおうと、決意したのだ。


 無論、ラハムのことも伝えるつもりである。


 あらかじめ受け答えを考えておくこともせず、行き当たりばったりで正直に話しをしようと決めていた。


 自宅に着くや、家族の誰とも顔を合わせず自室にこもる。今の時間だと共働きの両親が不在だ。家族全員がそろったところで、話しを切り出したかったのだ。


 それならば、先に一旦、応雷たちのもとに行った方が、タイムロスが少なくて済むのだが、決心が弱るように思えて自室にて待つことにした。


 家族全員がそろって会議とならば、夕食後となってしまうが仕方が無い。応雷とラハムの夕食はそれから急いで作りに行くとしよう。


 かくして夕食後、夜摩篷家家族会議が再開された。(夕食中は非常に気まずかった)



「碧―――」


 口火を切ったのは父だった。すでにラハムのことを知っているはずの祖父は、何も言わない。祖父からラハムのことも聞いてはいるだろう。


 両親・祖父母の間で、もう話の段取りは出来上がっているのかも知れない。


「その青年ともう一人の子を一度この家に呼んでくれないかな」


「ふん、碧が選んだ男なら間違いない」


「父さん。もちろん僕もそう思うよ。だから一度会って、碧のことを頼みたいんだ」


「馬鹿め。娘の両親なんかしゃしゃり出てこられたら、碧が恥ずかしいだろ」


「そうね。少し過保護すぎないかしら」


「お義母さん、年頃の娘が二日も家に帰らなかったんですよ。そんな非常識な相手に、心配にならないんですか」


(段取り悪いっス)


「祖父さん祖母さん、ありがとうっス。でも大丈夫っス。今から連れてくるっス」


「え、今から? 心の準備しとかなきゃ」


「今さら狼狽うろたえるとは情けない」


「楽しみですね」


「ちゃんとした人か、よく確かめさせてもらいますからね」


 自宅を出て、応雷、ラハムの待つマンションのリビングまでたどり着いた時、そこで碧の見たものは。


「うわ、どうしたんスか、ラハム。応雷に何が」


「うぅ。すまん、碧。中古のプレ〇テ2でいいから買ってくれ。ここにいると、退屈で死ぬ」


「私はオウライと一緒に居られれば、それだけでいい」


(信じたとおり大丈夫っスね)



「ただいまっス。二人を連れてきたっス」


「「あら、まあ」」


「「なにっ。ま、負けた」」


 一瞬にして応雷に心を奪われた母と祖母。一撃で心を折られた父と祖父。


「あなたみたいな人が、宿無しの行き倒れになるなんて、世の中間違ってるわね。苦労なさったでしょう」


「碧をよろしくお願いしますね。不自由があったら、遠慮せずに仰って下さい」


「男は見てくれより、中身で勝負だ!」


「問題ない。オウライは中身もいい男」


「碧だけでなく、こんな素敵な娘さんまで………。もういいもん。持ってけドロボウ」


「父さん、ヤケを起こさないで何とかしよう。このままでは母さんと妻と娘が盗られてしまう」


「そういう訳っスから、同棲を認めて欲しいっス」


「ええっ⁉」


「こっちはそのつもりで相談してるんス、最初から。ただつき合うだけなら、両親の許可なんか取らないっスよ、常識的に」


「うん、まあ僕らもそのつもりだったが、あらためて言われると」


「住むところはあるのか」


「祖父さん、ホントに忘れてるんスね。いや、大丈夫っス。住む所より生活費の支援が欲しいっス」


「見どころのある男だ。よし、自分で身を立てられるようになるまで、面倒を見よう」


「父さん、農家を継がせるんじゃなかったのか」


「男児一生の仕事は、自分で選ばなくてはダメだ」


「僕の時と全然、態度が違うじゃないか」


「話は決まったみたいっスから、早速今夜から三人で暮らすっスね」


「またいつでも訪ねてきてくださいね」


「お待ちしていますわ」


「うまくいったっスね」


「俺、一言も話してないんだけど」

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