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ウシュムガル伝  作者: 雨白 滝春
第一章
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第四十三話

『碧は一昨日のクリールとシャマシュの戦闘、あれをどちらの勝利と捉えている?』


「え、………」


『あの戦闘の結末には二通りの見方があった。


 一つは、クリールがその圧倒的な速度でシャマシュに迫り、そのシャマシュの身を傷つけずに槍の柄だけを斬ると言う余裕を見せ勝利したとの見方


 もう一つは、そのクリールの最強必殺の一撃を以てしても、シャマシュの身を斬るには及ばず、シャマシュが槍の柄だけを斬らせると言う余裕をもって勝利したとする見方。


 碧には、どちらに見えた?』


「それは、勝利宣言したのは確か………」


『それがどちらにせよ、ハッタリだとしたら。結局、私たちが駆けつけたことで、シャマシュは退かざるを得なくなった訳だが』


「つまりはどういう事っスか」


『あの二人自身にも、あの結果がどちらの実力の優位によってもたらされた物か、計りかねているのであろう。できればもう一度、どちらの勝利か決着を付けさせてやりたい』


「分かったっス。けどそのシャマシュはまだ、このパーキングエリア内に来て無いみたいっスね」


『私たちの存在に気づいて『扶桑器』の受け渡し場所を変更されていては敵わぬ。気取られぬよう、気をつけよう』


 碧とムシュフシュ、二人は今日、このパーキングエリアに貨物として運ばれて来る神器をシャマシュが受け取ると饕餮から聞かされ、道の駅の売店に忍んでいた。


 時刻は八時、まだ時刻では無いが、まさか敵が刻限ギリギリになってから来るとは思えず、いつシャマシュが現れてもおかしくは無い。


 バシュム、ウガルルム、クリールも、目に付かぬよう道の駅の裏に潜んでいる。


「あ、あれじゃないっスか、シャマシュ」


 碧の視線の先に、運送業者の作業着という出で立ちに身を包んだ、シャマシュらしき人の姿。意外にも普段のスーツ姿より、カッコよかった。


「向こうは完全にmeの気配を断ってるっスか。私のmeは気付かれてないっスね」


『仕掛けるなら、今このタイミングだろう。行くぞ、碧。meを解放しろ』


 ムシュフシュがオーラをまとうや、バシュム、ウガルルム、クリールの三人も姿を現す。そのまま碧たち五人は、一斉にシャマシュを囲む。


「応雷達と違って、私たちは貴方たち神々を殺害しようなんて気は無いっス。『扶桑器』さえ奪えればいいっスから、アンタをここで身動きできなくなるくらいボコボコにさせてもらうっス」


 何かおかしい。碧の中で直感が閃く。


『ひひ、ひひひひいひひひひ、ヒーイ、ヒャッハーー』


「まさかっ、罠だったっスか! 私たちを誘き出す為にっ。すでに『扶桑器』の神力を授かっていたっスか」


『太古、世界には十の太陽が存在し、九つの日は扶桑に宿り、唯一つの日が天に輝き、交替にその運行を繰り返した。これがその示現だ』


 そこに居るのは最早、以前のシャマシュでは無かった。


『ハメられたの⁉』


「バシュムさん、動揺してはダメっス。恐らく饕餮さんも神々に出し抜かれていたんス。饕餮さんは私達を裏切ってないっス」


『どうでもいい、どうでもいい事だ。もう、お前達は逃げられない。逃れようとも俺を振り切れない。どこまでも追い詰めてやる』


「そうっスね、逃げるって選択肢はもう、許されないっス。全力で戦うでいいっスか」


『ああ、やむを得ぬ。ヤツラの目的は本来、第一に天命の遂行。今、祭祀の前に私たちを全滅させるのは、本意ではなかったはず。それを敢えて強行せざるを得んのは、天命遂行以上の優先順位を持つ目的、碧を連れ去る為』


『分かった。碧を守り抜けば、私たちの勝ちなんだね』


『絶対に許せません。夜摩篷様は必ず守り抜きます』


『いいですね。ウガルルムがここまで意志を固めるとは。でも私は碧とは違います。ここでシャマシュを斬らせてもらいます』


 戦闘経験のない碧にも分かっていた。


 太陽神の神力を獲得したシャマシュ、いや、炎帝祝融のmeは、五人がかりで挑んでも覆しえない実力差だと。


『ヒーヒッヒヒヒ』


 歓喜に震える炎帝祝融は更なる異能を示現する。


『分身っスか!』


 その場には十人の炎帝祝融がいた。


(饕餮は嘘をついていないっス。彼も神々にはめられたんス。だとしたら)


「皆、あと二十分、しのいで欲しいっス。頼むっス」


「「「「了解」」」」


 ただ一人でも覆しえない実力の差、ましてやその敵が十人。状況は絶望的だった。碧は手の先にmeを集中し、さらにその先にmeを延長させる。


 碧の手に鋭利な細剣が形を成す。


 ムシュフシュはいつも通り鋸歯の付いた両刃の大剣を。バシュムは両手に短剣。ウガルルムは狼牙棒。クリールは例の日本刀をそれぞれ具現させていた。


 十人の炎帝祝融は皆、光り輝く槍を構える。そのまま隊列を築こうとする祝融に対し、クリールが無造作に近づき歩を進めて行く。


 思わず皆、十人の祝融のみならず、向かい合う碧たちも、無心でクリールの足運びに魅入らされた。


 死線の間境に気づいた瞬間、一人の祝融がクリールの抜刀袈裟斬、即ち居合い斬りに、肩から両断されていた。誰も我に返りながら、反応できない。クリールが淡々とつぶやく。


『以前、イルカルラが言っていました。meの量が互いにある一定の境地に到達した者同士の戦闘においては、もはやmeの量の差が戦闘の帰趨を決める、絶対的な要因にはならないと。私たちの闘いは、すでにその域に到達しています』


「私も以前、祖父に言われたことがあるっス。そもそも兵法とは、自分より体格・腕力において優る相手を、修練、技、駆け引き、戦法理論によって如何に超えるか、その発想から生まれたのだとっス。meで劣る私たちが、如何に戦闘術理を駆使してこれを覆すか、それこそが実力、強さの本質っス」


『ヒーヒヒヒ、それが口先だけの論に終わるザマが見物だなあ』


 碧にもそれが机上の空論であることは分かっている。それこそ応雷と地獄にいた時に、性能の差を運用で補おうと言うのは愚かだ、と、性能の差が取り得る戦術の幅の差に直結するからだと、語り合っている。


 だが今、この理論による視点に立った碧には、この場の状況が全て、俯瞰視点で捉え得ていた。


 祝融は一人がクリールに斬られ、残り九体。碧たちは五人。祝融は隊列を組んでの組織的な集団戦闘を諦め、個々人で挑んでくる。


 対する碧たちは、碧、ムシュフシュ、ウガルルムの三人で前衛を築き、バシュムが後方から次々と短剣を創り出し、投擲。


 祝融が一瞬でも隙を見せれば、すかさずクリールが抜刀突撃で斬り飛ばす。


 同じ武器、同じ性能、同じ神性に偏った祝融より、個性に分かれそれぞれ役割を分担する碧たちの方が、組織力を発揮し得た。


 だが、戦闘素人の碧を含め、前衛が三人、敵は三倍の九体が同時攻撃というのは、負担が大きい。前衛の三人はその為、meによる遠距離攻撃がほぼ、封じられてしまう。


 祝融の放つ神性による遠距離攻撃、太陽神の光閃術をバシュムが短剣の投擲でかろうじて防ぐ。のみならず手数で劣ってしまう前衛を支える為、後方支援の遠距離攻撃、毒蛇のmeたる毒光線を放ち続ける。


『ひゃはーァっ』


 祝融の槍から繰り出される刺突をさばき切れず、思わず碧がひざを着く。その間隙を見過ごさず、歓声を上げて槍を振り下ろす一体の祝融。


 ムシュフシュもウガルルムも、身を挺してかばおうと駆けつけるが、残る祝融どもに阻まれ、間に合わない。


 碧が斬られることを覚悟したその時、『ひゃは?』、逆にその目前の祝融の首が、胴から離れ転がり落ちる。


 無論、最初の危機を、最大の好機に転じたのは、隙をうかがうべくこらえ続けたクリールだ。

遅くなりました。 よろしくお願いします。

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