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ウシュムガル伝  作者: 雨白 滝春
第一章
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第三十四話 始まりの終わり3

(ん?)


 その男がベンチから立ち上がり、スーツ姿のまま、ジョギングを始めた。


(何考えてんスか?、この男。仕方ないっスね)


 その男から大きく距離を取り、碧もランニングを再開して追跡を始める。高級スーツを着こなしながらジョギング。明らかに異常事態だが、周囲の誰も気にしない、気づかない。


(これも何かの、神性術っスか)


 碧自身に自覚は無いが、この場に馴染んでいる碧の方が人目を惹き付けている。その男、次第に人のいない方、森の奥へと向かおうとしている事は分かる。


(罠……。私の尾行に気づいてるっスね。このまま誘い込まれるのは危険っス。この辺りで追跡を打ち切るべきっスか)


 無念、手遅れだった。


「あれ? いつの間にか悪霊どもに囲まれてるっス」


「初めまして、夜摩篷やまとまはなたさん。地獄での活躍、聞き及んでおりますよ」


「あなたは誰っスか。私の何を知ってるっスか」


「我が名はシャマシュ、貴女のことは貴女自身より、ましてやウシュムガル如きでは知り得ないことまで存じております。以後、お見知りおきを」


「なんか、あんた、気持ち悪いっスよ」


「ふっ、一まず貴女にはウシュムガルを捕らえる為の囮になってもらいます。なに、丁重にに扱わせていただきますよ」


「う~~ん」


(応雷に会えるならワザと囮になっておくのも、手の一つっスか。応雷には危険が迫るっスけど、私の為に危険な目に遭ってもらえるなら、溜飲も下がるっス。正直な気持ち、私を置き去りにしていった事については、そう簡単には許せないっス。私も身の危険を追う訳っすから、責任は半々っス。


 でも………、それって結果、誰も幸せにはならないっスね。やっぱりワザと囮になる訳にはいかないっス。今日、私がここに来ることを予め予測できたはずは無いっス。この罠は私の存在に気づいてから、すぐに作った急ごしらえの物っス。不意を突けば案外容易くほころぶかも知れないっスね)


「では、わたくしに着いて来てもらいます」


 碧から抵抗の気配がうかがえないと見るや、シャマシュは悠然と近づいて来る。と、その刹那、碧は両足にmeを発動させ、自分を包囲する悪霊の一角を蹴り飛ばし、人の脚力では在り得ない速度で馳せ逃れようとした。


 だが、瞬時に背後から片腕を掴まれ、強引に引き戻される。バランスを崩して倒れる碧を、片腕を掴んだシャマシュが吊り下げる。


「あいにくわたくしの神格は、あのニンギルス君より上なのですよ。それに貴女がmeを行使できるようになることも、予測の内です」


(こんな気色の悪いおっさんより格下とか、つくづくうかばれないヤツっスね、ニンギルスって)


(それより今の私、本気でヤバいっス)


 かなり真剣に打開策を思案するも、実力差が圧倒的過ぎて為す術がない。


(いよいよ、ここまでっスか)


『諦めが早過ぎるのではないか』


 前触れもなく唐突に現れた謎の人物。うりざね顔の古風な顔立ちをした、日本人以外には見えない和美人。だが、確実に染めた物ではありえない天然のブロンドの髪をしている妙齢の女性。


『その子を人質にする気か。あいにくその子に危害を加えることが出来ないのは知っている。ここで私と全力で闘えばその子も無事では済まなくなるぞ。さあ、どうする?』


(いきなり形勢逆転っスか。何者? 味方?)


「いい気になるなよ、ムシュフシュっ」


「(えっ)」


 余裕の態度を崩して捨て台詞を吐きながら、立ち去るシャマシュ。


「ムシュフシュさん、女性だったんスか⁉」




「ムシュフシュさん、天命遂行に従う神々の味方だったんスよね」


『そうだが、正確には今の世界の在り方を守りたいと言う考えで、その為には神々に従うべきだと思っていたのだ。それが……』


「私達が地獄でムシュフシュさん達のmeを解封したせいで、状況が変わってしまったんスね」


『おかげで途方に暮れていた所だ』


「今の世界を維持したいって言うのなら、私と同じ考えっスね」


『そうなのか』


「ただし、応雷達に勝ってもらって、神々の人類への干渉を断ち斬って欲しい。その上で今まで通りの世の中にしておいてもらいたい、ってのが私の理想っス」


『確かに神は、天命を達成した後で人類の前に姿を現し、支配者として君臨するつもりなのだから、今のままでいたければ天命を阻止した方がいいのかも知れぬ。だが天命が遂行されなかった場合、どういう事態になるかは分らんぞ』


「そこは人類自身の努力によって、何が起こっても乗り越えるっス。人類も都合よく守ってもらうだけでなく、当事者としての責任は果たすっス。(今の私は人類の代表っス)」


『悪くは無い考えだ』


「ムシュフシュさん、私と手を組まないっスか。応雷とラハムは、まだ他の異形の魔神達全員とは合流出来ていないんスよね。私たちで先に彼らと接触し、仲間に取り込んで、第三勢力『碧軍団』を築くっス」


『本気か? お前に何が出来る』


「その事は、私自身より、ムシュフシュさんの方がよく分かってんじゃ無いっスか?」


『ふむ、先程のシャマシュとの会話か』


「私には何か秘密があるんスね。私がmeを使える事も。私を助けてくれた理由もそれっスか」


『それでお前は応雷を出し抜いて、その碧軍団で神々と戦うと言うのか』


「応雷と神、両勢力の衝突を牽制けんせいしつつ自勢力の自衛の為に戦うんス。私は別にそれに人生を捧げる訳じゃ無いっス。普通の女子高生・人生を続けながら、戦争に参加するんス」


『両勢力から敵視されて、叩き潰される可能性は?』


「そん時は、応雷に無条件降伏」


『お前はウシュムガル、応雷をどう思っているのだ』


「スゲェーれてるっス。あの生活力の無いダラシナイ男の面倒を、ずっと見てやりたいっスよ」


 ムシュフシュは思った。


 コイツ、私が何とかしないとダメだ、と。

明日も投稿します。よろしくお願いします。

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