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ウシュムガル伝  作者: 雨白 滝春
第一章
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第十八話 黄泉路下り4

 再び亡者の群れに囲まれる応雷と碧。そして亡者の群れの中から、一人の男が前に出る。ニンギルスと似た風袋だが、彼より野性的な雰囲気で、攻撃的な顔立ちをしている。


ようやくこんな所にまで出向いてくれるとは、やっと本気で我らに歯向かう気になってくれたという事か。結構けっこう。喜ばしいことだ。歓迎するよ』


「完全に強さを取り戻す前に出て来ておいて、よく言うよ」


『それはそうだろう。勝ち目が無くなってから出て来たら、間抜けじゃないか』


「身も蓋もねえな」


『何より私は天命の遂行すいこうってものに、こだわりは無いのだ。今ここで君を倒しておく、それが最善の策だろう』


「そうか、なら始めるぜ」


『なにっ』


 ネルガルの表情に驚きの相が浮かぶ。応雷の具えるmeが、ネルガルに匹敵するほどでは無いにせよ、目論見より余程、高かったのだ。


(これならなんとか、渡り合えるっ)


 双方、構えたまま動かない。互いに場の気を読み合っている。応雷は今までの戦闘のように手数を費やさず、一撃にて勝負を決する手に出たのだ。


 それが通用する域の実力差に届いた故だろう。


 応雷の求める決着は、相討ちの構え。敵の一撃を喰らってでも、こちらの一撃を浴びせる、必殺必死の手段だ。


 そして、ネルガルが求める決着は、完全な勝利。相手の一撃を防ぎ、あるいは回避し、自身の一撃のみを敵に浴びせる構え。


 そのためには敵の先手を取って、ひたすら瞬息の間に、敵の一撃より先に己の一撃を打ち込むか。逆に敵の先手を待って、敵の一撃を凌いだ後に己の一撃を確実に打ち込むか。


 どちらにせよ、向かう敵より数段上の実力が求められる手だ。


 応雷の得物はやはり二挺斧。ネルガルの得物は槍だ。ネルガルの間合いの方が、幾らか長い。にらみ合ったまま、互いに、互いの、手の内を読み合う。


(果たして碧の読み通りになるか)


 場の気が高まっていく。にらみ合いが続く。両者ともに勝算を得られず、先手を取りには踏み切れない。


 それは同時に、あるいは逆に、いつ仕掛けても、仕掛けられてもおかしくはない緊張感をもはらんでいる。


 そうして二人のにらみ合いが、永遠に続くかとも思えた正にその時、


「キシャ―ッ」


 応雷を囲む亡者の一体が奇声を発しながら背後から飛び掛かる。




「それとそのネルガルさん、確実に勝ちに来る手合いなんスね」


「そうだな、体面や体裁より実効力を重く見るタイプだ」


「だとしたら絶対何か、仕掛けを用意してくるはずっス」


「だろうか。だとしてもどんな手を用意して来るか、分かんねえんじゃあな」


「そうっスか? あれだけ亡者の手下がいるなら、それを使わない手は無いっスよ」


「ああ………。そうか」


「ギャラリーの振りして囲ませて、一対一の勝負の最中に背後から襲わせる。その不意打ちに一瞬でも気を取られて隙を見せたら、ネルガルさんが渾身の一撃をお見舞い。そんなトコじゃないっスか」


「だとしたら、まずいな」


「いや、事前に読めてるなら、そんなにまずい状況じゃないっス。亡者の奇襲は、ネルガルさんが勝負手を出す予告動作ってことっス。つまりそれを合図に後の先が盗れるってことっス」




「キシャーッ」


 応雷を囲む亡者の一体が奇声を発しながら背後から飛び掛かる。そしてその奇襲と完全に呼吸を合わせて、ネルガルが槍を突き出しながら、飛び込んでくる。


 だが、それを待ち望んでいたかのように、応雷が動く。


 振り向くことなく、応雷が背後に跳び下がる。応雷の背後の亡者と同時に挟撃すべく動いたネルガル。


 しかし応雷が背後に跳び退いたことで、後方の亡者との距離は縮まり、前方のネルガルとの距離は開く。


 それによって生じた時間差で、まず後方の亡者に振り向きざまの斬撃を浴びせ、さらに体を振り切り、返す刀でネルガルを狙う。


 奇襲を逆手に取られたことで、今度はネルガルに隙が生じる。ネルガルの左腕に、すれ違いざま、応雷の戦斧が叩き込まれた。


 そのまま両者は飛び過ぎ去り、再び距離を置いて対峙する。


 左腕を断ち斬られたネルガル。未だmeの保有量でネルガルが勝るとはいえ、勝負の形成は圧倒的に応雷に傾く。


「今の俺に、この場でお前とのケリをつけなけりゃならない理由は無い。逃げるなら追わねえよ、ネルガル」


『もう、勝ったつもりか、ウシュムガル。この亡者の数で押し包めば、まだ私にも勝機はあるぞ』


「そうだな。始めからそうすればよかったのにな。お前、亡者を無駄死にさせたく無かったんだろ」


『――――っ!』


「意外だったんで、気がつかなかった。お前は、自分たち神々以外の存在なんか、気にも掛けないヤツだと思っていたからな。お前等も変わるんだな。それで、どうする? この場の全員の命と引き換えに、退いてくれないか」


『…………いずれ必ずお前を殺す。この私がだ』


 切り落とされた自身の左腕を、一顧いっこだにせず飛び退すさって行くネルガルと、それに伴って四方に散り去っていく亡者の群れ。


 決着の機運は完全に過ぎ去った。


「最後のセリフは言わなくても良かったんじゃないっスか」


「最後に、逆鱗に触れちまったか」


 岩場の影に隠れていた碧が、辺りを気にしながら身を出す。


「ニンギルスほど感じの悪い人では、無かったっスね」


「印象って変わるんだな」

明日も投稿します。よろしくお願いします。

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