第十一話 ケイソツは力なり1
翌日、放課後。
この街一番の繁華街である駅前に、応雷、碧、ラハムの三人は姿を現す。ここまではバスで来たのだった。
「さあ、ニンギルスを捜し出すぞ」
時刻は四時過ぎ、平日ということもあって人出は少ない。
「ホラ、いたぞ」
「いきなりっスか!」
応雷の指す方を見ると、一際目立つ男がいた。
「デカっ、190センチはあるっスね」
高そうなスーツを身に着けた、端整な容姿の長身なエリートサラリーマン風の男がそこにいた。
「いや、その後ろにいる冴えない感じのおっさんの方だ、とか言ったら面白いけど、やっぱりそっちの目立つ男の方で合ってる」
「オウライ、余計なことを言うな」
ラハムに命令口調で叱られる応雷。
「よし、殺るぞ」
「ダメっスよ。こんな所でいきなり襲い掛かったら、大変なことになるっス」
応雷の段取りの悪さに呆れる碧。
「神様云々はともかく、この場所でムシュフシュの時みたいな戦闘を始める訳には行かないんスよ。まずは時間を掛けて、向こうの様子を色々調べておくんス」
「でもアイツ、俺たちがここにいること、もう察してると思うぜ」
実際そのサラリーマン風の男「ニンギルス」と応雷たちの間には遮蔽物も無く、お互いの姿は丸見えである。
駅前の開発は広範囲に及んでおり、人気の無い場所までとなると、かなり遠くまで離れなくてはならない。
だがしかし、少し進んだだけで、
「ついてこねえな、ニンギルスのヤツ」
「向こうの方がよく分かってるんスね」
「今、戦闘になっても、アイツの方が不利って訳じゃねえのにな」
「私としては、今のうちに聞いておきたいことがあるんスけど」
「まあ、確かに色々説明不足だしな」
「神様の強さって、何なんスか? 人間で言うなら腕力とか体格とか格闘技術とか、そういったモノが神様にもあるんスか。応雷が二本の斧、飛ばしたりした技ってどういう仕組みでどういう強さの基準があるんスか?」
「俺たち異形の獣や、ヤツラ神々の強さは、神性『me』っていう、ある種のエネルギーで測れる。そいつを消費して俺たちは、奇跡の技を引き起こせる」
「私たちはmeを遠くからでも感知できる。それで互いの居場所を探ったり、一目でニンギルスだと識別出来たりする」
しばらくぶりにラハムが話した。ニンギルスとの戦闘前だと意識して、口数が減っていたらしい。
「meは曖昧なものじゃ無く、視覚並みにはっきりと捉えられる」
「じゃあ、バレないように近づくことは、出来ないっスか」
「簡単に出来るけど」
「だったら最初からそうしてくれっス。ひとまず今日の所は、このまま引き上げるっス。明日、私が学校に行ってる間に、あの人の身辺について、尾行して探り出しておいて欲しいっス。逆にあの人に、人気のないトコに誘い込まれそうになったら、すぐに退き返すんス」
「戦えば決着のつくだけの話なのに、下準備なんかいるのか?」
「今まで一度も勝てなかった理由の一因が分かったっス」
翌、四月九日
碧、学校からの帰宅後、リビングにて。
「ニンギルスのヤツ、エテメンアンキタワーに入って行ったぜ」
(尾行は気づかれていたって前提で、考えた方がよさそうっスか)
予定通り、碧が授業を受けている間、応雷とラハムはニンギルスの周囲に探りを入れていた。そして先に帰宅し、いま碧と合流して今後の打ち合わせを始めたのだ。
エテメンアンキタワーは、駅前にある、というよりこの街の中心に建てられた、この街のシンボル的タワービルである。
「まさか、ビルの中にオフィスでも借りて、神様がサラリーマンとして働いてるんスか」
そんなことはあり得ないと思ったが、敢えて言ってみた碧。
「恐らくこの街その物が、ヤツラの計画の内に組み込まれているな」
「どういう事っスか」
「こういう事は以前にもあったんだ」
「以前?」
「人類誕生以前、人類とは別の種族によって高度文明が築かれていた時」
「応雷の言っていることは、マジっスか。ラハム」
「マジ。その世界も神々によって滅ぼされた」
「神々が望むのは、神々自身の繁栄だ。そして神の僕である生命が富み栄えることで、神もまたmeを高め、栄える」
「最終的には、主神マルドゥークが受肉し、世界を統治する王を定め、生命から吸い上げた超人的な全能の技を使って、私たち魔神を討つと共に世界に君臨する」
「だが、それだけじゃねえ。ヤツラ神々は、今までに大規模なものでは五回ほど、世界の滅亡を引き起こしている」
「理由は分からない。でも文明を獲得した生命種を、永遠に発展させ続ける気は無いみたい」
「で、次は人類って訳っスか」
「いや、まあ、そうとは言い切れないんだが」
「あの、ビジネスマン風の人達が、スか。神様の超能力より人類の近代兵器の方が強そうな気がするんスけど」
「まともに正面から戦争すれば、その通りだろうよ。人類だって核兵器使えば、世界を滅ぼせる程の能力があるしな」
「そうじゃないって、言うんスか」
「どちらから仕掛けるにせよ、世界が滅亡すれば人類は必ず滅亡する。だが、それでも神は生き残れる。それに神々は、決して正面から人類に戦争を仕掛けたりはしないだろ」
「この街が神様の計画の内、ってヤツっスか」
「何らかの手段を用いて、この都市を中心に、全人類・全世界を支配するつもりじゃねえか」
「この現代法治国家の時代にっスか。否定形連発で申し訳ないっスけど、それほっといても失敗すると思うっスよ」
「ヤツラがよく使うのが、地球環境を激変させる手だ。地殻変動、異常気象、大洪水、未知の疫病を繰り返し、全生命の九割を死に至らしめることが出来る。それを必ずしも実行する訳じゃ無い。それがいつでも実行可能であることを示威することで、支配者として君臨するんだ」
「応雷とラハムって、そんな相手にこれから挑もうってんスか」
「そう、まずニンギルスだけでも倒せれば、天命はほころぶ」
「だったらなおさら、下調べと作戦計画は、重要っスね」
「頼んだぞ、碧。ヤツラは天変地異は起こせても、知能水準は決してそれほど高くない。俺とドッコイくらいだ。歴史を見る限り、人類の方が賢い。全能でありながら全知でない神だ。碧なら勝てる」
「神様も人間も、キチンと学校通って、勉強しないとダメなんスね」
明日も投稿します