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72.ばあー

 ズズズズ――。

 ハーブティを飲み終わった俺は、コーヒーをモニカに淹れてもらいちびちびと飲んでいる。

 ふう。


「アリシアの『病気』については、治療できるかできないかは半々ってところだ。だけど、失敗した場合でも対処方法がある」

 

 さっきコアラと交わした問答の結果をテーブルを囲むみんなに伝えた。

 みんなはコアラと俺の会話を聞いていたんだけど、置いてきぼりにして二人で会話していたからな。

 

「魔力の器が……というお話しは聞こえてきましたが、治療できるものですの?」


 両手でコップを握る手に力が籠るフェリシア。

 モニカがやればコップを破壊するかもしれない。

 そんなモニカは両手を膝の上に乗せて、澄ました顔で口元に僅かな微笑みを浮かべていた。

 あの表情はよく見る。いわゆるメイドスマイルってやつだな。

 ああしていると無表情より、柔らかでふんわりとした雰囲気になる。

 怜悧な顔をしている彼女は無表情だとキツイイメージを与えてしまうだろうから、あの微笑みをしていてくれると何だかホッとする。

 

「治療できる、と言い切れないところが辛いが、対処療法は思いついた。それを試したい」

「承知いたしましたわ。ソウシ兄さまの妙案にお任せいたします」

「私もソウシ殿が何をされようとしているのか理解が及んでおりませんが、貴殿に任せることに同意します」

「わたしはソウシ様のなされることに反対などいたしません」


 フェリシアに続き、ベルンハルト、モニカが同意してくれた。

 流れ出る魔力を止める手段は思いつかない。だけど、アリシアが魔力枯渇状態にならないようにすることならできるかもしれない。

 俺の魔力量はアリシアの魔力量と同等だ。だから、一日に零れ落ちる分の魔力を俺が補充してやれば……と考えた。

 どうやって魔力を補充するのかについて、案はあるけどうまくいくか分からないのでまだみんなには伝えないでおくことにしたんだよ。

 もし、考えてた手段が上手くいかなかったとしても、他のやり方もいろいろ模索してみるつもりだからね。

 なので、「これだ」と伝えるのは控えた。


「ありがとう。もう一つの問題『時を動かす』ことなんだけど」

「純粋な魔力の練習をしておりますわ」


 フェリシアも俺と同じく純粋な魔力の練習をしていてくれていることはさっき聞いた。

 俺、俺も一応な……。


「空間に穴を開けないといけないんだったよな。俺も練習をしているんだけど、小指の先ほどが精一杯で……維持もできず即消えてしまう」

「シアは小さな小さな穴を開けるところまで、です」

「す、すごいじゃないか!」

「で、でも。指一本入るか入らないかくらいですわ……」

「いや、穴さえ開けば」


 そこでハッとした。

 フェリシアとベルンハルトにえむりんを紹介してなかったってことに気が付く。

 先に彼女の特性を説明しなきゃ。

 すぐにえむりんを呼ぶつもりだったんだけど、会話に夢中で忘れてた。

 

「ちょっと待っててもらえるかな。妖精を連れてくる」

「ソウシ様、わたしが行って参ります」

「消えてなきゃいんだけど……」

「姿を現されるまでお待ちします。遅くなるかもしれません」

「分かった。余りに遅いようなら見に行くよ」

 

 立ち上がったモニカがお腹の辺りに両手を添えて、会釈をする。

 彼女が屋敷から出て行くのを横目で見つつ、フェリシアの方に向きなおった。

 

「森に妖精がいてさ。いろいろあって村のユーカリの木に住んでいるんだ」

「妖精さん……どのようなお姿か楽しみです」


 フェリシアは胸の前で両手を組み、キラキラと目を輝かせる。

 きっと彼女の頭の中では美しくも愛らしい妖精の姿が浮かんでいることだろう。

 愛らしいとか人形みたいってのは間違っていないんだけど……まあ、会えば分かるか。

 

 そこでガタガタと窓枠が揺れる音がした。

 音に気が付いたフェリシアが、窓枠に目を向けると「きゃあ」と歓声をあげて立ち上がる。

 てとてとと窓枠の前まで歩いた彼女は、鼻だけ窓枠から出たニクを抱きあげぎゅーっと抱きしめた。


「ニクの餌はそこの袋に入っている大麦だ。もしかしたらどんぐりを食べて来たのかもしれないけど」

「はい!」


 ニクを抱いたまま、大麦袋の前でしゃがみ込んだフェリシアは、ニクの顎下を撫で反対側の手で少しだけ摘まんだ大麦をニクの口元へ寄せる。

 すんすんと鼻をひくつかせたニクは大麦を口に含むが、ほっぺに溜めている様子。


「お腹一杯みたいだな」

「そうなんですの? ほっぺが膨らんで可愛いです」


 ニクを抱いたまま席に戻ったフェリシアは、嬉しそうにニクの首元を撫でている。

 

「ベルンハルト、コーヒーのお替りはそこのポットにあるから自由に淹れてくれよ」

「了解いたしました。お気遣い感謝です」


 フェリシアの微笑ましい姿に目を細めていたら、ベルンハルトのカップが空になっていたことに気が付いた。

 彼はリザードマンという種族で、人間とは異なる。

 どれだけ水分を取るかとか、必要な食べ物の量……などは人間基準で考えることができないんだよね。

 なので、俺からお替りを淹れるのを控えた。もしかしたら、既に水分を摂取し過ぎかもしれないもの。

 

「モニカが戻るまでに、妖精について俺が知っていることを説明しておくよ」

「はい」


 ニクの口先に人差し指を添えながら、フェリシアが返事をする。ベルンハルトも無言で頷きを返してくれた。


「妖精の名前はえむりんって言って、たぶんドリアードなんじゃないかと推測している。本人に聞いてもこうぽやあっとし過ぎていて」

「ぽやあっとしているんですの? 可愛いです」

「そ、そうだな」


 可愛いと言えば可愛いんだろうけど、えむりんから情報を聞くのは至難の業なんだよな。

 コアラが知ってなきゃ、えむりんのことは何も分からなかったかもしれない。

 頼りになるコアラではあるが……。

 チラリとコアラに目を向ける。一心不乱にユーカリ茶を飲むコアラからは、理性の欠片も感じない。

 あいつはユーカリでトリップするところが無けりゃあなあ。高い能力も全てユーカリに注ぎ込むという残念さだもの。

 

「変な生物さんの食事をする姿、可愛いです」

「フェリシアは何でも『可愛い』なんだな……」

「そんなことありませんわ。ここにはニク、変な生物さん、ソウシお兄さま……可愛いばかりなんですから仕方ありません」

「お、おう」


 さりげに俺を混ぜないで欲しいな……ははは。

 そんなわけで、えむりんのことについてフェリシアとベルンハルトに説明を行う。

 えむりんが現世と幽世を行き来できること。ハザマの世界のこと。針の穴ほどの穴さえあれば、ハザマの世界に行くことができるかもしれないこと……。

 

「一度に聞く情報が多すぎて整理できませんわ」

「都度、説明するようにするから、心配しないでくれ」

「分かりましたわ」


 ちょうどそこまで説明したところで、窓の辺りから鱗粉が落ちてきて俺の目の前で鱗粉がくるりと回る軌跡を描いた。


「ばあー」

「お、えむりん。モニカは?」


 俺の鼻先にえむりんが姿を現す。

 彼女は両手を開いて頬の横にもってきて、口を大きく横に開いていた。

 驚かそうってことなんだろうけど……可愛さが勝ってしまい驚くどころかくすりときてしまう。


「きゃああ。羽がパタパタしていて、小さくて、可愛いです!」


 フェリシアが歓声をあげる。

 しかしえむりんは、俺の鼻先をぺちりと叩き、「ばあー」と繰り返す。

 

「わ、分かった。『ばあ』は分かったから」

「えむりんだよー」


 分からん。えむりんには言葉が通じない……。

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こちらも間もなく完結となります。

ぜひぜひチラ見していってください!

・タイトル

最強ハウジングアプリで快適異世界生活

・あらすじ

異世界の戦場に転移してしまった主人公がど真ん中にハウジングアプリというチートを使って誰も侵入できない無敵の家を作って戦争を止めたり、村作りをしていくお話しです。

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