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50.穴をあける

 その時、キッチンから肉が焼けるいい匂いが漂ってくる。

 

「モニカ、作ってくれているの?」

「はい。ソウシ様とわたしで二人分になりますので」


 こちらに振り向き、にこやかに返事をするモニカ。

 喋りつつも料理をする手は止まっていないのが、さすがとしか言いようがない。


「ついでに俺のも作ってくれているのか、ありがとう」

「焼き立ての方が良いかと思いまして」


 そう言ってモニカは元の体勢に戻り、料理に集中し始める。

 

 一方でコアラは……ちょうどユーカリをごっくんしたところだった。

 

「待て。追加を出すな」

「ん?」


 コアラのもふもふした二の腕を掴み、ユーカリの葉を出すことを阻止する。


「食べてたら話ができないだろ」

「人間も食べながら話をするじゃないか」

「だから、待てって。コアラの場合、食べ始めたら思考も全てユーカリに持っていかれるだろ」

「気のせいだ」


 今度は反対側の腕でごそごそし出したから、両手を掴み後ろから羽交い絞めにする。

 こいつに隙を与えるとすぐにもしゃり出す。……気を付けないとな。

 

「さっき、聞きたいことがあると言っただろう?」

「言っていたようなそうでないような。とりあえず、手を離せ」

「ダメだ。手を離すとユーカリの葉っぱを出すだろ」

「出すだけだ。食べるとは言っていない」


 食べるだろ!

 ダメだ。こんなことばかり繰り返していたら、話が全く進まない。

 単刀直入に本題を切り出してしまおう。

 

「俺の知り合いで病気か呪いで倒れた人がいるんだ」

「ほう。俺のことじゃないよな?」

「コアラは倒れていたけど、知り合いじゃなかったし、お前の場合は餓死しかけてただけだろ」

「死活問題だった」


 いちいち話の腰を折ってくるんじゃないよ。こいつはもう。

 

「でな。それだけじゃなく、大魔法を使った反動なのか『時が止まっている』状態なんだ」

「ふうむ。時が止まるか……」

「どっちか一つだけでも何かヒントがないかな?」

「病気だか呪いは見てみないと何とも言えねえだろ」

「確かに。見れば分かるのか?」

「分からん」


 思わせぶりなことを言いやがって。

 コアラよ。片耳だけを頭につけ、首をかしげても可愛いなんて思わないんだぞ、俺は。モニカなら騙されるかもしれないけど。

 といっても、病のことは確かにコアラの言う事がもっともだ。診断もしないうちに病と言われても、風邪なのかさえも分からない。

 

「本当にできるのか分からんが」

 

 唐突にコアラがそう前置きしてから語り出す。

 

「お、何か分かったのか?」

「純粋に魔力だけを一点に集中させるとどうなると思う?」

「暴発しないかそれ? 魔力を一か所に注ぎ込むなんて俺には想像もできない」


 精霊魔法にしても聖魔法にしても、体の中に魔力を巡らせ外へ外へ放出し形を形成していく。

 魔力はその段階で、魔法へと形を変えるのだ。

 体から出た時既に魔法へ転じている魔力をどうやって一か所に集めるてんだよ。

 あるとしたら、魔法の構築に失敗した時だ。

 この場合、魔力は無駄になり霧散する。


「できたとしたらだ」

「現実的な話なのかそれ?」

「もちろん。ほれ」


 コアラが手を動かそうとするが、俺ががっしりと掴んでいるから動かせないでいた。

 仕方ない。

 右手を離してやると、コアラが手のひらを上に向けぐぐっと力を込めた。

 次の瞬間、肉球から細い針のような塊が浮いてくる。


「それが純粋な魔力?」

「おう。これは霧散しないように留めておいたに過ぎないから何にもできないけどな」


 コアラが体から力を抜くと、細い針がさらさらと砂が流れるようにして消えて行った。

 

「すごいな。魔力って形を残せるもんなんだな」


 ほええ。と口が開きっぱなしになって驚いてしまう。


「とまあ、純粋な魔力は出せるってのが分かったな。じゃあ、改めて聞こう。魔力を一点に集中させたらどうなると思う?」

「ま、まさか……空間に穴が開くのか?」


 コクリと頷きを返すコアラ。

 俺が異世界から呼び出された経験があったから察した。

 アリシアは純粋な魔力を空間にぶつけて、空間に歪みを作り俺の世界とこっちの世界を繋ぐ門を構築したんじゃないか?

 

「穴が開く――んじゃないかって予想しているだけだけどな。実際に穴をあけることは俺にゃあできない」

「その推測はたぶん間違っちゃいない」

「そうか。膨大な魔力を針の穴のごとく集中させれば開くかもしれないな。ほら、レンズで光を集めたら火があがるみたいにな」

「うん。コアラが何でその話を始めたのか予想もついた」

「おう」


 アリシアの体はこの世界にいないんじゃないか?

 もちろん、地球でもない。

 彼女の体は空間と空間のはざまに漂っているのではないだろうか。

 といっても、彼女の体全てではないと思う。

 何故なら、俺たちは彼女の体に触れることができるからだ。

 彼女の体の何割が空間のはざまに入り込んでいるのかは分からない。だけど、空間のはざまにいる限り、彼女の時は止まったままになることは想像に難くない。

 

「異空間ってやつだな。ユーカリが満載なら行ってみてもいい」


 俺の予測と同じことをコアラが補足してくる。


「お前はそればっかりだな……」

「ユーカリこそ、この世の真理にして絶対的なものだ。それはともかく」

「ともかく?」

「時が止まる可能性の一つは空間をこじ開け、脱出する前に自分が取り残されてしまったことが予想される」

「うん。とてもしっくりいったよ」


 こいつの予想は真実にかなり近いと思う。

 俺が日本から召喚されたことと、アリシアの時が止まったことを順序だって説明できるからだ。

 深く頷いているところへ、コアラが更に言葉を続ける。


「もう一つは、そうだな。呪いみたいなもんか」

「そっちも聞かせてくれないか?」

「さっきの話のバリエーションだ」


 指を立ててコアラがもう一つの可能性について解説を行う。

 純粋な魔力はさっきコアラが示したように体の外で固定できる。

 留めたままの純粋な魔力は自分の体にある魔力の一部ではない。

 どうやるのか皆目見当もつかないが、留めておくことに使う魔力が微々たるものなら、時間をかけ留めている魔力をどんどん巨大化させていくことができるはず。

 空間をこじ開けるために、アリシア自身の魔力量では到底足りなかったとしてもこのやり方なら魔力を無尽蔵にためることができるってわけだ。

 それで、無事空間をこじ開けて俺を召喚したはいいが、規格外の魔力の渦が仕事をした反動は大きく彼女に影響を及ぼした。

 その結果が、時が止まった状態かもしれないってこと。

 

「どっちにしろ、俺がどうこうすることは難しそうだな」

「どうだろうな。確実かつ安全にということなら、なかなかにタフじゃねえかな」

「うーん」


 魔力の扱いが肝なんだろうけど、よしんば彼女の時を動かすことができたとしても今度は病の問題がある。

 同時に解決せねば、彼女は元に戻らない。

 どっちかというと、病の方を先に解決させないといけないよなあ。


「聞きたいことはそれだけか?」

「今のところは、な」

「おう。また聞きたいことがあったら聞いてくれ。俺はたいがいユーカリの木のところにいる」


 コアラはブレないな。

 あいつの脳みそはユーカリのことで一杯だ。


「そうだ。ユーカリで思い出した。土の精霊魔法での格子、ありがとうな」

「どうってことはない。その分、ユーカリを大量に食べたがな」


 そこ、関係あるの?

 単に食いしん坊万歳だったたけなんじゃ……。


「まさか、ユーカリを食べると魔力が回復するとか言わないよな?」

「そうだが? 寝るかユーカリを食べると魔力量は回復する」

「そ、そっか」

「そうだ」

  

 突っ込まないぞ。

 コアラってのはそういう生物だと認識したらいいことだろう。

 俺たちだって食事をすると体力が回復する。

 コアラだって同じ。追加で魔力量も回復するだけだって。

よろしくお願いします!

少しでも気になる方は、ぜひぜひブックマーク、評価をしていただけますと嬉しいです。


明日一日お休み予定です!


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こちらも間もなく完結となります。

ぜひぜひチラ見していってください!

・タイトル

最強ハウジングアプリで快適異世界生活

・あらすじ

異世界の戦場に転移してしまった主人公がど真ん中にハウジングアプリというチートを使って誰も侵入できない無敵の家を作って戦争を止めたり、村作りをしていくお話しです。

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